- Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022607034
感想・レビュー・書評
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私が、笠智衆が出演していた作品で初めて観たのは、ベタだけれど「東京物語」だったか。
目立たないのにすごく印象的だと感じたのは、他の俳優にないあの寛容な微笑みと、何も発しない「間」が絶妙だったからか。
それにしても、東山千栄子と実は一回りも歳が離れていたのはびっくりだ。さすがの老け役の成せる技だからか、小津マジックだからなのか。
私が小さい頃は、まだ明治生まれの人が周りにいた。
年齢のせいもあっただろうが、どこか荘厳で、いろんな経験を積んだことからの自信を感じさせ、でもその中に寛容さと優しさがあった。笠智衆もそういう明治の男を感じさせる、それが安心感なのかもしれない。
彼の書く文章にもそれが滲み出ている。本書の最後に、演じる上で、自然であることが大事であると気づいた、という記述がある。少なくとも私が観た小津映画の出演時から、本書に滲み出る人柄にぶれるところを感じないので、ずっと自然体で演じてこられたのだろう。
少し残念であったのは、原節子のエピソードが書かれていなかったことだ。撮影時のみ一緒だったので、それ以外は関わることがなかったように書いておられたが、あれだけ共演していたのだから何か思い出があってもよさそうだ。敢えて書かなかったのかもしれない。
また笠智衆の出演作品を見直したい。
良い読書だった。 -
★3.5
1950年代~1960年代の日本映画が好きで、その時代の俳優の中でも好きな俳優のひとり。朴訥とした優しげな佇まいが大好きで、たまたま観た映画に笠智衆が出演していると、思わずニコニコしてしまう。そして、笠智衆=小津安二郎監督作品なイメージがあるけれど、本人も語っている通り、木下惠介監督作品での出演もなかなか多い。笠智衆出演作品では、小津監督作品「東京物語」「秋日和」、木下監督作品「カルメン故郷に帰る」「陸軍」がお気に入り。それにしても、佐田啓二が事故死した前日に一緒にゴルフをしていたなんて…。 -
久しぶりに読み直してみました。
俳優笠智衆の回顧録で、小津、木下、成瀬、清水、稲垣等の日本映画黄金時代の名監督達の逸話が興味深い。
原節子のことも少し書かれていて、「あんな立派な女優は滅多にいない」「演技も上手くて小津先生も感心しておられた」との評価。
ただ、「…東宝の作品では、それほどにも思えなかったが…」と書かれていたのが面白い。これは、名指しこそ避けているが、黒澤明の「わが青春に悔いなし」あたりを言っているのだろう。
あの作品の原節子は、鬼気迫る表情になっていて、あまり良くなかったね。これは黒澤演出が女性の情感を出すのに向いてないことによるもので、原さんのせきにんではないけどね。
東山千栄子が、笠智衆よりも一回り上だったとは気づかなかった。...
東山千栄子が、笠智衆よりも一回り上だったとは気づかなかった。これが老け役の成せる技か、小津マジックなのか。
笠智衆の文章は、これまで観てきた小津映画に出てくる笠智衆が演じる穏やかな、無駄口のないキャラクターそのままである。
最後に本書で、演技というのは、自然さが大事であることを悟った、とご本人が書いているが、きっと自然体でおられたのではないかと思った。たまに評価されたことなど書き添えられていても、全く嫌みもない。穏やかだ。
私が小さい頃、明治生まれのひとたちが存命だった。どこかどっしりとした、荘厳さと、何が色々経験したから故の自信と、寛容さがあった。笠智衆も、映画の中でそれを感じるところがあったが、本書の中では自己を俯瞰し、非常に謙遜が多い。
少し残念であったのは、たくさん共演していた原節子とのエピソードが皆無であったことか。撮影時のみ一緒で、それ以外の場ではあまり関わらなかったという記述のみだ。そうはいっても何があるだろうと思うので、もしかすると敢えて書かなかったのかもしれない。
良い読書だった。
笠智衆の出演作品をまた見直したい。