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- / ISBN・EAN: 9784022639035
感想・レビュー・書評
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詩を読んでいるようなイメージに浸れる。
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『科学道100冊』の1冊。
1980年、1つのテレビシリーズが放映された。
題して「COSMOS(宇宙)」。
米PBS、英BBC、西独のポリテール・インターナショナル、日本の朝日放送の協力により、20億円を投じて制作された、宇宙に関する大型ドキュメンタリーである。
全13回。案内役は天文学者のカール・セーガン。
ダイナミックな映像、わかりやすい解説の番組は、教養番組としては異例の空前のヒット作となった。
本書はその書籍版である。
当初は朝日新聞社からハードカバーで出版され、4年後には文庫化されたが、その後、絶版となっていた。こちらの版は、2013年に復刊した朝日選書版で、宇宙飛行士・山崎直子のエッセイと、科学ジャーナリスト・内村直之の解説が付く。
個人的にはこの本とこの番組にはかなりの思い入れがある。
当時、田舎に住んでいたので、放送も正規の時間ではなく、深夜帯であったのではなかったかと思う。家にあったβ形式のビデオでせっせと録画して見た。
爽やかな風貌の天文学者の語り(日本語版吹き替えは横内正)に夢中になったのだった。
ちょうどボイジャー探査機が土星に向かっていたころで、旺文社版の4巻セットにはボイジャー撮影の土星のポスターが付いており、そちらも購入したはずだ。
セーガン自身によるハードカバー版はかなり字が小さく、子供には少々ハードルが高かったが、頑張って読んだ。ところどころよくわからなかったが、読み通した。
今回、科学道100冊に入っているのを見つけて久しぶりに読んだ。
本書の特色は、天文学の知識に加え、宇宙を探索した人々の科学史ともなっていることだろう。
読み進めるにつれ、宇宙の成り立ちと、それについて考察を重ねてきた人々の歴史が、徐々に浮かび上がってくる。そしてその奥にあるのは、宇宙に対する人々のロマンだ。
地動説の成立。彗星の正体。火星の神秘。ブラックホールの謎。
さまざまなことがわかってきた陰には、多くの人の努力があった。
ケプラー。ガリレオ。ティコ・ブラーエ。ニュートン。ホイヘンス。
知識を積み重ね、当時、人類は探査機を宇宙へと送れるまでになった。
終盤近くに、銀河系に知的生命体がいて彼らと交信できる確率を計算する式がある。
N=N* fp nc fl fi fc fL
N*は銀河系の構成の数、fpは惑星を持つ恒星の割合、ncは生物の生存しうる環境を持つ惑星の数、以下のfは0から1の数値で、生物が誕生した割合、知的生命の存在する割合、通信技術を持つ割合などを指す。特に後半の数値に関しては推測でしかない部分が多いのだが、それでも知的生命体との出会いがありうるかもしれない、その確率を計算しうるのかもしれないという発想はなかなかエキサイティングなものだったと言えるだろう。
何せ40年前。ダークマターやビッグバンについては、いまほどは研究の進んでいなかったころの著作であり、さすがに古いのではないかと思われる部分もある。
内村による解説はそのあたりも補う部分であり、今読むとすれば、初版よりもこちらの版の方がより深い読書となるだろう。
セーガンの研究者としての業績には必ずしも大きな評価は与えられていないようだが、多くの人に宇宙へのあこがれを抱かせたのは、大きな意義のあることだっただろう。何よりも現役の科学者として、魅力的で壮大なビジョンを示してくれた稀有な存在だったのではないか。
セーガンは62歳で比較的早く世を去る。COSMOSのTV番組はセーガンの妻らに引き継がれ、続編が制作されている。
書籍版の終章は「地球のために」と題される。
核戦争への警鐘、科学を圧殺した暴徒の歴史、そして平和への提言。
宇宙から生まれた私たち。宇宙の一員として、科学のともしびを掲げ、ともに手を携えて進もうというセーガンの願いが、今なお胸を打つ。