波うちぎわのシアン

著者 :
  • 偕成社
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本棚登録 : 210
感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784036431700

作品紹介・あらすじ

ちいさな島の孤児院で育った少年・シアンの左手には、生まれるまえの記憶をよぶ不思議な力があった。小学館児童出版文化賞受賞作家による傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • 児童書なのだが、大人にこそ読んでもらいたいテーマもあると思いました。それは、親子の関係について。

    燃え盛る船から、フジ先生に助け出された、身元不明の少年「シアン」には、彼の閉じられた左手に耳を触れた時、その人がお母さんのお腹の中にいたときの記憶を呼び起こす、特別な能力があった。

    そこには、その人の父親と母親の、生まれてこようとする我が子を思う、素直な愛情や気持ちを知ることができて、当人も嬉しいことに加え、父母にとっても、かつては無尽蔵の愛を我が子に注いでいたことを思い出させてくれる。

    もちろん、現実にはあり得ない話なのだが、長年、子育てに励んでいる方が、その当時の事を思い出すことで、我が子への見方が変わる可能性はあると思います。

    ただ、どうしても人間だから、大人だって心が挫けたり、悲しくて泣いてしまうことだってある。子供からしたら、大人は厳しく頼もしい印象もあると思うが、そうではないことも実は、この物語では教えてくれる。こうしたフラットな視点の優しさのようなものは、猫の「カモメ」の目線で、物語を展開させているところにも感じられます。

    まあ、私にとっては、猫が感情を持ったストーリーテラー役というだけで嬉しいのだが、それだけではなく、ちゃんと物語の大事な場面にも関わってくるし、カモメ独自の人間観察も、客観的な趣に風刺が効いて面白い。

    それから、もう一つ重要なのが、シアンの未来。
    シアンの能力は、喜びだけを与えないこともあって、自分は皆の役に立てるのだろうかと、悩んでいた。

    ただ、本当の悩みはそこではなく、彼自身が喜びを実感することが大切だということ。そして、それを教えてくれたのは、カモメである。カモメは、シアンのことを本当によく見ている。時に猫にあるまじき熱血漢のような思いには、胸を熱くさせるものがあり、「まめふく」さんの絵も良い効果を出している。

    そして、それによって、周りの人たちがシアンの気持ちに触れて、シアンがいかに大切な存在であるかを実感することで、改めて、親子とは? ということを考えさせられます。親子にも様々な形があること。大切なのは、本人の気持ちだということ。

    ちなみに、エピローグでは、カモメの後日談もあり、続編を匂わす感じにも見えました。ちょっと、これは期待してしまう。

  • 島の養護施設で暮らすシアンの巻貝のような左手には胎内記憶を呼び覚ます不思議な力がある。ほのぼのとした日常から一転後半はシアンの出生の秘密をめぐるサスペンス。大人も子供も楽しめるファンタジー。

  • 本を閉じて表紙を見返すと、波の音が聞こえてくる。
    懸命に生きる子どもたちと、その子どもたちを色々間違えたりうろたえたりしながらも、懸命に守ろうとする大人たちの物語。
    猫の視点から語られるというのもとてもいい。
    文章、物語、挿絵、どれも切なさを帯びた優しさに満ちていて、胸がいっぱいになる。
    ディラードの話も読んでみたいな。

  • 読み始めた時、とても優しい淡々としたおはなしかと思ってた。猫のカモメが現れて、この島の出来事を見つめるんだな…と。

    シアンという不思議な男の子。
    左の手のひらは巻貝のように握られたまま開かない。その手が不思議な力を持っている。

    どんな力?だめ!そんなこと子どもに物語るの?と、私もネイのように思いながら読んでいた。

    でも、シアンの手のおかげで、小さな子どもたちの、小さな物語が語られる。

    そして、最後はシアンの番がやってくる…

    カモメ!!

    こんなに揺さぶられるなんて思いもよらなかった。。もう一度読まなきゃ。

  • 自分が何者か、誰でも知りたいものでしょうか。

  • 「ちいさな島の孤児院で育った少年・シアンの左手には、生まれるまえの記憶をよぶ不思議な力があった。小学館児童出版文化賞受賞作家による傑作長編。」

  • 生まれた時からひらかないシアンの手には不思議な力があった。シアンが自身にその能力を使い出生の秘密が最後に明らかになる。

  • シアンをはじめとする孤児の子どもたちと周りの優しい大人たちのお話。ねこ目線で。親がいなくても周りの大人の愛情があれば、友達がいれば、そういう安心できる場所があれば、子どもはきっと大丈夫。大きくなる。環境って大事だ。私も大人として日常で接する子どもたちにはいつだって愛をもっていたいなと思う。斉藤倫さんのお話に出てくる人たちは優しくて切なさを持っているな。

  • やさしくて、澄みきった、なんてキレイなおはなしなのでしょう。
    すべてがいとおしすぎる。
    まいりました!!

  • 大きなあめ玉をほおばって大事にころころしているようなmゆっくりよくかんでもぐもぐしているような大好きな文章。そしてお話でした。その気持を増幅させる装丁・デザイン・紙質そしてまめふくさんの装画が素敵に散りばめられていてもうたまらぬ1冊…。
    大人ができること、してあげられることっそしてすっぽりと忘れちゃっていること(それはおなかの中の記憶のこととは別に)を精いっぱい。
    こどもたちができることそしてできないことも精いっぱい。
    島の人もみんなそれぞれに大事におもう気持ちが重なって、極めつけは猫のカモメちゃんの目線。
    やさしくてやさしくてあたたかくて、かなしみもあって、でもそっと包まれて、
    とても、すきです。

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著者プロフィール

斉藤倫 詩人。『どろぼうのどろぼん』(福音館書店)で、第48回児童文学者協会新人賞、第64回小学館児童出版文化賞を受賞。おもな作品に『せなか町から、ずっと』『クリスマスがちかづくと』『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』『さいごのゆうれい』(以上福音館書店)、『レディオワン』(光村図書)、『あしたもオカピ』(偕成社)、『新月の子どもたち』(ブロンズ新社)』絵本『とうだい』(絵 小池アミイゴ/福音館書店)、うきまるとの共作で『はるとあき』(絵 吉田尚令/小学館)、『のせのせ せーの!』(絵 くのまり/ブロンズ新社)などがある。

「2022年 『私立探検家学園2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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