「太平洋の巨鷲」山本五十六 用兵思想からみた真価 (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040823829

作品紹介・あらすじ

名将か、凡将か?
純粋に「軍人」としての能力を問う。
太平洋戦争開戦80年。『独ソ戦』著者の新境地、五十六論の総決算!
戦略、作戦、戦術の三次元で神話と俗説を解体する。

戦争に反対しながら、戦争を指揮したことで「悲劇の提督」となった山本五十六。
そのイメージは名将から、その反動としての凡将・愚将論まで、百家争鳴の状態となっている。
しかし、これまでの分析は政治との関わりに集中し、軍人・用兵思想家としての評価は後景に退いていた。
戦略・作戦・戦術の三次元における指揮能力と統率の面から、初めて山本を解剖する!

■山本は独ソ和平工作を仕掛けていた
■真珠湾攻撃、第二撃は当時から断念やむなしの空気だった
■ハワイを爆撃できる航空機を求めていた山本
■MI作戦(ミッドウェイ攻略)は最初から杜撰な計画だった。
■1930年代の山本の評価は「軟弱な親英米派」
■第一次ロンドン軍縮会議では山本は艦隊派に与していた。
■航空主兵論に大きな影響を与えた堀悌吉
■陸攻は戦略爆撃でなくアメリカ艦隊撃破のためにつくられた
■「半年や一年の間は随分暴れてご覧に入れる」の真相
■山本は戦艦を捨てきれなかった
■ミッドウェイで戦術的怠惰はあった

【目次】
序 章 山本五十六評価の変遷と本書の視点
第一章 雪国生まれの海軍士官
第二章 翼にめざめる
第三章 戦略家開眼
第四章 第二次ロンドン会議代表から航空本部長へ
第五章 政治と戦略
第六章 連合艦隊司令長官
第七章 真珠湾へ
第八章 山本戦略の栄光と挫折
第九章 南溟の終止符
終 章 用兵思想からの再評価
あとがき
主要参考文献

感想・レビュー・書評

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  • 山本五十六は指導者として反対派を味方に引き込む力があったものの無口という欠点があった。
    太平洋戦争の敗因の一つは軍令部と総司令部の2つの頭の元、二兎を追う、あるいはコミュニケーションミスにより現場まで意図が伝わらない、現場の考えも上層部に伝わらない体制、組織の問題であった。
    作戦開始後、環境の変化により戦法を変えることは重要だが、戦略を変更する際は(第二次大戦では物資調達の不利から短期決戦で講和に持ち込むことを日本側は目的としていたが、真珠湾攻撃からの日本軍の善戦により政府が中々講和に向けた交渉を開始せず、ミッドウェー、ソロモン沖の海戦、ガダルカナル島の陥落により避けるべき総力的消耗戦に陥ってしまった)注意が必要である。

  • 用兵家としての山本五十六に迫ろうとした伝記。筆者があとがきで、今度はこうした縛りなしで、人間山本五十六について伝記を書いてみたくなったと書いているほど、惚れ込んで資料を読み込んで書いているので、用兵家としての山本五十六の心情が逆に伝わってきた感じがする。(確かに所々で顔を出す、部下への妙な説得力は、理ではなく、人格的魅力としか言いようがない)

    アメリカ留学を経験し、航空機と石油の重要性に気がついた。一式陸攻を作りださせた。これが結果として、第二次上海事変で、重慶への戦略爆撃を可能とした。開戦前からもし開戦となれば尋常ならざる航空機の損耗に気がついていて、増産を依頼していたにも関わらず、全く整っていない日本の貧乏さ。

    か細い可能性として、手持ちの貧弱さを考えると、真珠湾攻撃しか手がなく、それを周囲に納得させた。

    かつ、明治時代の名残である、艦隊司令と軍令部との2重性の悪弊が、ミッドウェイの大敗を呼び込み、その後も、戦略として回避したかった、消耗戦に突入してしまう。

    組織に縛られ、歯がゆい思いを感じながら、そこで自分に課せられた職務を全うしようとした姿が伝わって来た。

    日本帝国海軍にとって不幸だったのは、艦隊派と条約派の派閥争いにより、条約派の高級士官が退役させられ、その余波として、組織開発を行う余地がなくなってしまった。

    日露戦争時に、山本権兵衛がデザインしたように、持てる力を戦略のために使うということができず、組織デザインがおかしいと声を上げられなくなった姿が浮き彫りになった。
    他の歴史書を読むと、陸軍と対比して、

  • 本書は、アジア太平洋戦争勃発以前に対英米戦反対を唱え、それにも関わらず真珠湾攻撃の計画・指揮をとらざるを得なくなった悲劇の将官として知られる山本五十六大将に関して、信憑性の高い資料や史実をもとに彼の戦略的・作戦的・戦術的な思想の観点から、山本五十六という人物が名将であったか、凡将であったか、司令官としての資質を検討する本である。

    結論から述べれば、現場レヴェルに近い作戦的・戦術的な視点から見れば、山本は凡将だった。しかしながら、より視野の広い戦略的観点からは、やはり対英米戦は回避すべきと唱えたその先見性を評価されるべきであり、名将であったと言える。

    以前から関心はあったものの、評者にとっては本書が初となる山本五十六の評伝であった。サブタイトルにあるように用兵思想という観点から資質を検討しているため、彼の人間性を知ることはあまりできなかったかもしれない。しかし、通読して山本に関する論争点や懐疑論なども知ることができ、これから他の文献を読む上で役に立つであろう情報を入手することができた。

  • 以下、引用

    ●ここまでみてきたように、長岡に生まれ育ち、青年期にさしかからんとしていた五十六がすでに、その生涯の特性となった「沈黙」を身にまとっていたことは間違いない。彼が、言葉をつくすのを億劫がる人物だったことは、後年、連合艦隊司令長官として戦争を遂行する際に、指揮上の問題を来すことになる。その無口は、話が通じぬと思った相手には、言わねばならないことまでも言わぬと評されるほどになっていたのだ。
    ●十月十九日、軍令部第一課を訪れた黒島は、再び真珠湾攻撃の実行と空母六隻の使用を訴えたうえで、それが認められない場合、山本は連合艦隊司令長官の職を辞すると宣言した。
    ●つまり、徹底的な撃滅を狙う山本と、南方作戦中の米艦隊の行動を封じられればよいとする軍令部の食いちがいがあったというのである。ところが、永野の指示を受けた山本司令部が下達した「機密連合艦隊命令第一号」には、「開戦劈頭、ハワイに米艦隊を紀州撃破し、その積極作戦を封止す」と、軍令部の意向同様の方針が示されている。いったい、山本は「撃滅」と「封止」といずれに重点を置いていたのだろう。筆者は、やはり山本の真意は「撃滅」にあったと考える。それが、軍令部に充分伝わらず、また連合艦隊への命令が「封止」に傾いていることは、本書でもたびたび述べてきた、わからぬと思った相手には、言葉を尽くして説明することをしない山本の「無口」が反映されていたのではなかったか。
    ●続いて、本書の主題である、戦術、作戦、戦略の各次元における山本の評価に移る。(中略)戦術次元に関しては、実のところ、判断を下すだけの材料がない。(中略)しかし、自ら航空機に搭乗しての指揮(霞ケ浦航空隊時代)、中攻の開発に示された戦術的センスからすると、かかる次元での山本の能力をことさらに低く評価する理由もないだろう。(中略)いずれにしても、作戦次元の山本五十六は、真珠湾攻撃を除けば、愚将とはいわぬまでも、平凡、場合によっては、それ以下の指揮しか示していないことを認めねばならないだろう。(中略)かくのごとく、戦いをなりわいとする軍人でありながら、対米戦争必敗を唱え、その回避に努め、ひとたび、それが挫折するや、万に一つであろうと可能性を見出せるような戦略を策定した。こうした戦略家としての山本の行動には、光彩陸離たるものがある。戦術次元よりも作戦次元、作戦次元よりは戦略次元と、より高位の次元になればなるほど、優れた指揮官は得られなくなる。山本は、戦術・作戦次元の能力には疑問が残るとはいえ、戦略次元での卓越した識見と決断を示した戦略家・用兵思想家であったと結論づけてもさしつかえあるまい。

  • 戦術、作戦、戦略のそれぞれの次元で指揮官・山本五十六は果たして有能だったのかどうかということを、生い立ちにまでさかのぼって考察する。たいへん興味深いプレゼンテーションで、だいたいにおいて著者の評価にも納得できる気がする。詳細は読んでもらうとして、世界の趨勢をわかりつつも、職業軍人としての矩を踰えられなかったというところが、不幸というか気の毒なところかと思う。

  • 書店の書評コーナーにあって気になったので購入。

    山本五十六の生涯を時系列を追いながら
    その時どのような考えで行動を起こしたのか、をトレースしている。

    戦前は英米との回避しようと行動していたが
    規律を乱さない性格のため戦争が決まってからは
    真珠湾の奇襲攻撃など積極的な作戦をとっていく。

    名将という話はきいていたが
    この本を読むと、目的や優先順位などの指示出しや
    リスク管理の甘さなど、イマイチな点があることも目立つ。

  • 山本五十六
    #戦争
    204
    タラント攻撃
    タラント空襲
    https://ja.m.wikipedia.org/wiki/タラント空襲
    初の、航空機による戦艦攻撃
    真珠湾攻撃のモデル

    #読書記録 #書評エッセンス #戦争 #歴史 #戦略 #戦術
    ・海軍統帥の二元性 P210
    ・軍令部と連合艦隊の統帥の二元性の問題
    ・日清日露戦争 通信連絡能力が不十分なため,軍令部による中央からの指揮統制が困難出会った時代には,連合艦隊司令長官のように,現場で作戦・戦術次元の判断や決定を下すポストが必要
    ・通信技術が発達し,戦略・作戦次元では,東京からアジア太平洋全域を指揮できるようになると,このような指揮の二元性は問題となる
    ・機動部隊の先進性 P214
    ・真珠湾攻撃の発想を可能とした「機動部隊」
    ・空母の潜在的能力
    ・空母を一艦隊に集中させ,強大な打撃力を持たせる
    ・小沢治三郎 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E6%B2%A2%E6%B2%BB%E4%B8%89%E9%83%8E

  • 東2法経図・6F開架:289.1A/Y31o//K

  •  先行研究を十分踏まえつつ、著者が力点を置くのは副題のとおりその用兵思想の評価。そのため、生い立ちから書いてはいるが、太平洋戦争以降の分析は特に力が入る。
     結論は、戦術レベルは未知数として留保。作戦レベルは、真珠湾攻撃以外は厳しい評価(山本自身がどこまで作戦を立案したかという点はあるが)。その一方で戦略レベルでは、航空総力戦の予想、日独伊三国同盟への反対、対米戦争は必敗との認識、と著者は極めて高く評価する。
     個人的には軍政面により関心を持った。第一次ロンドン軍縮会議でのどっちつかずの態度と、会議後の対英米協調、戦略家への脱皮。堀悌吉との友情とその影響。海軍左派トリオ。それも、先述の戦略レベルの評価に繋がるのだが。

  • 第二次世界大戦時の軍人、山本五十六 元帥海軍大将の評伝(2021/07/10発行、1012E)。

    期待外れ,手を広げすぎて失敗等、酷評されているレビューをチラホラ見かけますが、本書を読んだ限りでは、感想は違えども評価については同じところ。
    本書では、従来からある山本五十六の人物像を綴っているだけで、特に目新しいところも無く評伝としても、戦術・戦略の考察本としても中途半端な内容でした。

    この内容であれば、山本五十六の人物像については本書でも参照されている阿川 弘之の「山本五十六」「米内光政」「井上成美」の海軍提督三部作を、海戦史については森史朗の「真珠湾攻撃作戦」「ミッドウェー海戦」等が、今でも容易に書店で購入出来るので、そちらの方がオススメかと思います...

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著者プロフィール

現代史家。1961年東京生まれ。立教大学大学院博士後期課程単位取得退学。DAAD(ドイツ学術交流会)奨学生としてボン大学に留学。千葉大学その他の非常勤講師、防衛省防衛研究所講師、国立昭和館運営専門委員等を経て、著述業。『独ソ戦』(岩波新書)で新書大賞2020大賞を受賞。主な著書に『「砂漠の狐」ロンメル』『戦車将軍グデーリアン』『「太平洋の巨鷲」山本五十六』『日独伊三国同盟』(角川新書)、『ドイツ軍攻防史』(作品社)、訳書に『「砂漠の狐」回想録』『マンシュタイン元帥自伝』(以上、作品社)など多数。

「2023年 『歴史・戦史・現代史 実証主義に依拠して』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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