黄金の王 白銀の王 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041000106

感想・レビュー・書評

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  • ひとつの国の支配権を巡って、互いを仇敵と憎みあい、百数十年にわたって戦を続けてきたふたつの氏族。
    戦によって疲弊した国を、より良い国へとみちびくため、現在の支配者である氏族の頭領は、もう一方の氏族の頭領と語らいあい、ただお互いだけを真の理解者として、もっとも困難な道を選んだ。


    沢村凛さん、初読。
    たった一冊で語られたとは思えない、深く濃い物語だった。
    読んで良かった。

    互いの正統性を主張しあい、果てのない争いを続ける愚かさ。敵を想定し、すぐそこに戦がある前提で保つ平和の脆さ。そこからの脱却の、いかに難しいことか。

    廸学を正しく教えられる師が薫衣を育んだ事が、間違いなく重要な分かれ道だったろう。
    生まれた時から、『先祖の恨みを忘れない事が子孫の正しいあり方だ』『敵を出来るだけ多く殺す事が神の望みだ』と教えられていては、ここには辿り着けない。
    本当に多くのことを考えさせられた。
    今のこの世界は、あと何百世代ののちに、この道を知るだろう。


    以下、書き留めておくことにする。

    「人はみな、どんな相手に対しても、〈殺したくない〉をもっているのではないだろうか。ただそれが、いろいろな理由から生まれてくる、〈殺せ〉や〈殺したい〉に押しやられてしまうだけで」
    彼のまわりには、たくさんの〈殺せ〉があった。〈殺したい〉があった。何より〈殺さなければならない〉があった。

    そんなものが人の心に押し寄せてこない世にしていくことが、彼らの闘いだったのかもしれない。

  • この物語、ファンタジー小説ではあるが、それらしい劇的なことは、実はそれほど起こらない。
    が、
    いやあ、まあ面白い。

    この物語のテーマは、「共闘」だと思う。

    共闘というワードから結びつけやすいのは「外敵」で、
    事実冒頭では海向こうの大国の脅威が語られるが、その脅威はなんと物語前半で解消してしまう。

    もちろんその後も揉め事、厄介ごとは物語のなかで絶えず起こっているのだが、しかしこうしたファンタジーとしては、基本的にはこの世界はきわめて平和だ。
    にも関わらず、引きつけられる面白さがこの物語にはある。

    秀逸なのが、主人公である二人の王の描き方。ともに英邁でありながら、タイプの異なるふたりの王。とくに、主な視点役である櫓が、もうひとりの王である薫衣の才を認めながらも畏れ、時には憎みながらも認めていく様子は、北方三国志の劉備に対する曹操を彷彿とさせるものがある。

    そしてこの二人がときに反目しながらも認め合い、並び立つ様には、物語によくあるライバル構造をみて思う感情 ―このふたりが手を組んだらどうなるんだろう― を満足させてくれる。

    歴史に裏打ちされた変えがたい人の心、政治的なしがらみ、そうしたものに少しずつ、粘り強く立ち向かう「共闘するライバル」の姿が、この小説の魅力の核ではなかろうか。

    そして、きっとそれを描くために、架空の世界を舞台に選んだのだろう。


    「空想世界ならではの魅力」を打ち出した小説ももちろん大好きだが、ファンタジーにはこんな活かし方もあるのだ。
    剣と魔法と中二病だけがファンタジーじゃないぜ。


    そして衝撃的ながらもどこか淡々と静かなラスト。

    断言しよう。帯と背表紙に書いてある、
    「国内最高峰ファンタジー」
    のアオリ文句は誇大広告ではない。

  • 敵対する一族の頭領が密かに手を結び国の安泰のために力を尽くす。かたや国の王としてかたや囚われの身として。名を捨て人に指差されも恥とせず成すことを成すために生きる。その生き様が瑞々しい筆致で描かれています。架空歴史物語が好きな身としては堪らなく面白かったです。魅力的な人物が自分の生きる道を見つけて突き進む姿は素敵です。
    二人の頭首の葛藤をはらんだ関係が面白いです。初めは先祖伝来の仇敵として出逢い、統べる者と囚われの者としての関係、婚姻による義兄弟としての関係、お互いの力を認め合う関係、時代とともに移り行く関係。しかし相対する一族の頭首としての関係を貫いているため、緊張感に満ちた関係でもあります。だからこそお互いに認め合い手に手を取って国を治めていくのかと思った先に待つ展開に驚かされました。いやあ、面白い。

  • これは、泣いてしまう。
    外伝が読みたい!漫画化もしてほしい!
    二つに分かれた氏族を統一しようと画策、奮闘する二人の若き頭領の物語。魔法やら化け物やらは出てこないけれど、とても上質で世界観が確立されたファンタジー。
    守り人シリーズ、十二国記、アルスラーン戦記が好きな人はきっとはまる。

  • 最後、終わりが近づいて終わって欲しくないという何とも言えない気持ちでした。

    薫衣(くのえ)の最後の気持ちは王であればこそ自分や家族以上に国や国民のことを考えて事。
    できることなら、最期まで〈ひづち〉と二人で年老いるまで翆の国を治めてほしいと思わずにはいられなかったです。

    お互いを認め合い本当に幸せな日々が続いて欲しいと思っていた時の旺厦の反乱。
    類いまれな王としての素質を持つ二人が憎しみ合い殺したい気持ちから殺したくないという気持ちに気付いたとき彼らの闘いの意味は殺さなければならない気持ちが、心に押し寄せてこない世にしていくことであったのかも。

    薫衣の決心に2度目の心変わりはなかった。ラスト2人の座敷牢での語らいは2人の気持ちが滲みでていて感動しました。
    そして言い残すことは。の問に「ない」と。

    稲積(にお)が、1度だけの心のままにふるまった薫衣に対する強く悲しい想いに涙が溢れそうでした。

    そして終章で〈ひたき〉の父への想いと決心を確認できたことと旺厦と鳳穐の未来に光が差していることで、清々しく読み終えることができた。

    • 9nanokaさん
      私もにおが言いたいこと言うシーン、好きでした。ひづちとくのえが語り合うシーンも。ぐっときました。
      ひづちが冷静で合理的な頭の良いリーダーで...
      私もにおが言いたいこと言うシーン、好きでした。ひづちとくのえが語り合うシーンも。ぐっときました。
      ひづちが冷静で合理的な頭の良いリーダーで、くのえが感覚的なカリスマリーダーという感じでしょうか。私はくのえ派でしたが、課長はどうでしたでしょうか。
      棗も、私はイヤな奥さんだな〜と思ってしまいましたが、どう思われましたか。(^^)
      2014/11/10
    • komoroさん
      9nanoka さん、ひづちの凄いところは徹底して準備をし石橋を叩いて渡ることを怠らないところです。これは毎日何十年も続けられる事ではありま...
      9nanoka さん、ひづちの凄いところは徹底して準備をし石橋を叩いて渡ることを怠らないところです。これは毎日何十年も続けられる事ではありません。
      くのえは、確かにカリスマリーダーという表現あっていますね。
      歴史が好きなので歴史上の人物に例えるならひづちは、真田信之で、くのえは、真田幸村ですかね。
      信之は生き残りますが、幸村は大阪の陣で討ち死にます。
      そして、この小説の凄いところは、本当に女性が書いた本なのか?と疑うほどの男の気持ちがわかってるというところです。沢村凜をネットで調べましたが女性でした。
      男のというか武士道にも通じる精神的な部分を実に細かく書かれているからです。

      棗については、確かに嫌な奥さんです。でも、棗のたどってきた人生を考えるととてもかわいそうな人だと思います。薫衣は、そういうことを理解していたのに家を出ていって結果、棗が自害したことに対して自分を責め、稲積のあの感情に心変わりするところは9nanokaさんもお気に入りですよね。
      でも、ぼくは、断然稲積派です。棗との夜の生活より精神的な心地よさを選びます。
      落ち着いてゆっくりできる場所が男には必要です。

      とにかく素敵な本でした。
      2014/11/10
  • 「十二国記」を彷彿とさせる東洋風の世界観のファンタジー小説。雰囲気だけでなく、クオリティにおいても劣らぬ、すばらしい作品だと思います。

    鳳穐(ほうしゅう)と旺厦(おうか)という二部族が常に争いを続けてきた翠という国を舞台に、その骨肉の争いに終止符を打つべく動くそれぞれの部族の頭領、穭(ひづち)と薫衣(くのえ)が主人公。しかし、実際のパレスチナ問題にも似たその状況を変えることは、想像を絶するほど困難なもの。

    長い年月をかけて人々の中に積み重ねられた憎しみは非常に根深いため、内紛の火種を常に抱えているような状況。それに加えて他国からの侵略、偏った歴史観に根ざした歪んだ教育など、異世界ながら現実世界と変わらぬ課題・問題点があり、多くのことを考えさせられました。

    そして、その解決の為に苦心・苦悩する主人公たちにあっという間に感情移入させられたためか、感動もひとしお。本来は政略結婚だったはずなのに心から慕い合う薫衣と穭の妹。そして複雑な境遇の元に生まれながらも、屈託なく真っすぐ成長する彼らの息子、鶲(ひたき)。そして、なによりも大義の為に凄絶な覚悟をもって行動する穭と薫衣の姿に、幾度となく感動させられました。

    何巻も続く大長編ではないのに、そうした小説に負けない重厚感とスケールの大きなストーリーに大満足。もっといろんな人に知ってほしいし、読んだ人たちと話題を共有したいと久々に思った大傑作でした。

  • ただ一つの目標に向かって、様々な手段を講じながら突き進む、そのひたむきさに頭が下がります。
    主人公二人の距離も、最初はぶつかりながらもだんだんと同調し始め、後半は螺旋のようになっていきます。
    ラストの描写は、ある程度想定していたものの、「やはりそう来るのか、そう来ちゃうのか・・・!!」と心にずっしりときます。
    「信念」みたいなキーワードにビビっと来る人には必読です。

  • 生まれた時代が違うだけで、2人の取り巻く環境がこうも変わるものなのか。
    自分が相手の立場だったらどうなっていたのか?

    「なすべきことをなす」ために流れを変えようとする者、「なすべきことをなす」ために、流れにのるために自分を押し殺す者。

    お互いを思いつつも、自分の中の芯の部分は譲らない2人の姿がよかった。

    こういうファンタジーもアリだなと思わせてくれた一冊です。

  • 互いに憎みあう二つの氏族の頭領である、穭と薫衣。
    ふたりが国を統べ、守り、育むために共に闘い、“なすべきことを なしてゆく”物語。

    国を、民をより良い未来へと迪びくために、己のすべてを投げ打って務めを果たそうとする二人の姿は決して派手な物語ではない。時には縛られすぎた概念がこちらにはもどかしく見えることもある。大いなる目的を果たそうとするためには、己の身を切り犠牲を払うことも必要なこともたくさんある。
    そういったことを丁寧に描いた物語だった。
    人の上に立つものが、本当に成すべきことを成すことのむずかしさを思い知らされた。

    いろんな思いが巡るけれど、ひとつ挙げるなら薫衣の妻が稲積で良かったと思う。彼女の優しさと強さに泣かされた。

  • すごいよ沢村凛。ほんとに、帯の通り。
    こんな和製ファンタジー書ける人は
    荻原規子さん以外いないと思ってました。
    お互いを思う穭と薫衣、それに反して
    鳳穐と旺夏のいつまでも消えない憎悪に苦しめられる二人。
    最後は、これしかなかったのかなぁ。
    なかったんだろうな。
    「なすべき事をなす」ことは、こんなにも難しく尊いことなのか。
    こんな壮大な物語なのに全てはこの2人の物語で、
    2人だからこそなせたこと、なしえたことなんだ。

    最後の処刑は涙なしには読み終えられなかった。
    もう少し報われてほしかったな、薫衣は。
    久しぶりに読破した、文句なしの星五つです。

著者プロフィール

1963年広島県生まれ。鳥取大学農学部卒業。91年に日本ファンタジーノベル大賞に応募した『リフレイン』が最終候補となり、作家デビュー。98年、『ヤンのいた島』で第10回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。骨太な人間ドラマで魅せるファンタジーや、日常生活のひだを的

「2013年 『ヤンのいた島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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