女神記 (角川文庫 き 34-1)

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  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041000205

感想・レビュー・書評

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  • 古事記で読んだことがあるイザナミ、イザナギの日本創世の話がベース。ナミマの話や宇為子の話、興味深く読むことができた。ただ、読了感は虚しさが残る。
    イザナミがナミマに話していた言葉が全て。「一番始末に悪い感情は憎しみだ。憎しみを持ったが最後、憎しみの熾火が消えるのを待つしか安寧は訪れない。ここにいる限り、憎しみの火は消えないのだ。」
    憎しみや憎悪は、やり場のない感情だ。もし憎しみの対象に報復ができたとしても、気持ちの平穏が訪れることはない。これは太古から今の時代に至っても変わらないのだ。
    憎しみは持つことなく、持たれることもなく生きていきたい。偽善者のような言葉になってしまうけど、それに尽きる。

  • 桐野さんは本当に女の業を書かせると右に出る者がいないのではないだろうか。
    それほど作品数を読んでいないけれど、
    共感できなかったとしても想像することは難しくない苦しみがよく書かれています。

  • 古事記。この最古の名作を読むのは、なかなか大変だろう。この名作をモチーフに、主人公を通してイザナミ、イザナキの描写が後半に向け徐々に盛り上がる。ここから古事記に入っていくのもよいかもしれないなと感じた。

  • 男の原罪と女の呪詛

  • ずいぶん景気良く神様生み出すんだなイザナギとイザナミ。
    天照大神がイザナギひとりで産んだ神様なのは知らんかった。

    出産で死んで夫に約束破られた挙句離縁されてイザナミ踏んだり蹴ったりだし
    ナミマもカミクゥもマヒトの母ちゃんも気の毒だし、マヒトもまあ気の毒といえば気の毒。
    神話からして男と女って対等じゃないのか。こりゃ男女共に性根の中にべったり男尊女卑がくっついとるはずだわ。

  • 文章が美しいため一気に読んだけども、なぜ、これを今書かねばならんのかよくわからず、しばし読後に頭をひねってしまいました。

    古事記の今語りとしても、これを今書かねばならんテーマ性ってなんだろう?
    でも、よく考えてみれば、私が頭が悪いせいかもしれないけど、桐生様の作品には、
    よくわからないものが多いかもしれません。

  • 人間と神の違い
    神ではなく、女神であること

  • ヤマトの南の海上に位置する海蛇島の、巫女の家系に生まれたナミマという女性が主人公の物語です。

    彼女は幼い頃、一つ年上の姉であるカミクゥから引き離され、「陰」の巫女として、毎日カミクゥの食べ物を届ける役目を担うことになります。やがてナミマは、第二巫女の家系のマヒトという青年とともに、カミクゥの残した食べ物を口にするという禁忌を犯し、その後ナミマはマヒトの子を身ごもります。

    ある日、マヒトは島を出ようとナミマに言い出し、ナミマはそれを受け入れて、2人は舟で沖へと出ていきます。ナミマは、海上で娘の夜宵を出産しますが、その後マヒトは、ナミマの首を絞めて殺してしまいます。

    死んだナミマは黄泉の国に行くことになり、そこで女神のイザナミに仕えることになります。やがて彼女は、スズメバチの姿になって生者の世界を見ることになりますが、そこでマヒトはカミクゥの夫となり、ナミマが生んだ夜宵はマヒトの妹として育てられていました。マヒトの裏切りに恨みを抱いたナミマは、マヒトを刺し殺しますが、死んだマヒトは自分の罪もナミマのことも忘れてしまっていました。恨むべきマヒトの不甲斐なさに、ナミマはもって行きどころのない怒りに苛まれます。

    一方、イザナミの夫であったイザナギは、八岐那彦(やきなひこ)という人間の名前で暮らしていました。自分の愛する女たちがイザナミによって殺されることを知ったイザナギは、人間へと身をやつしてイザナミのいる黄泉の国へとやってきて詫びますが、イザナミはそんな彼を許そうとはせず、黄泉の国の神として、死者を選ぶ仕事を続けます。

    愛の恨みを抱く女たちと、その恨みを受け止めるだけの強さもない男との対比が一方の軸となり、恨みを募らせるも恨むべき男の不甲斐なさに恨みを貫けずかえって苦しみを負うことになるナミマと、同じく人間となったイザナギに失望しながらも、神として冷徹な姿勢を選び続けるイザナミの対比がもう一方の軸となって展開していく物語として読みました。

  • 読み終わって一言
    女ってずっと女で男は男なんだ
    と思った。

  • 多くの人がイザナギ・イザナミの神話を「永遠の二項対立」の物語と理解しているだろう(私もそうだ)。イザナキは生命を産み続け、イザナミは生命を奪い続けるのだと。しかし本書で桐野氏は神話を物語として発展させ、イザナミにもっと過酷な現実を突きつける。
    語り手であるナミマは人間であるため、憎むべき男が些かでも改心したかと感じられれば安らぎを得ることが出来た。イザナキは男神ゆえ己の運命すら覆して「死を経験できるかと思うと嬉しい」と言う。
    しかし愛する男によって突然黄泉の国に送られ、閉じ込められたイザナミは、決して変わることが出来ない。許すことも仕事を放棄することもできない。
    「真の破壊者」となってすべての運命を背負う。
    「女は哀しい」「女であることは苦しい」という解釈も可能であるが、桐野氏がその他の作品でも貫く「真に強いのは女である」というメッセージを感じられる。
    ナミマの物語がやや冗長なのと、その分後半の神話を超えた部分が短い気がしたので星は3つ。

著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

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