おそろし 三島屋変調百物語事始 (角川文庫)
- 角川書店(角川グループパブリッシング) (2012年4月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041002810
作品紹介・あらすじ
17歳のおちかは、川崎宿で旅籠を営む実家で起きたある事件をきっかけに、他人に心を閉ざした。いまは、江戸・神田三島町に叔父・伊兵衛が構える袋物屋「三島屋」に身を寄せ、黙々と働く日々を過ごしている。ある日伊兵衛は、いつも碁敵を迎える「黒白の間」におちかを呼ぶと、そこへ訪ねてくる人たちから「変わり百物語」を聞くように言いつけて出かけてしまう。そして彼らの不思議な話は、おちかの心を少しずつ、溶かし始めていく・・・。おちかを襲った事件とは?
連作長編時代小説「三島屋」シリーズ第1弾、ついに文庫化。
第一話「曼珠沙華」、第二話「凶宅」、第三話「邪恋」、第四話「魔鏡」、最終話「家鳴り」
感想・レビュー・書評
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17歳のおちかは叔父夫婦が江戸で営む袋物屋「三島屋」に身を寄せ働くことになる。ある日、叔父の伊兵衛より「これから訪ねてくるという客の応対を任せる」とお願いを受ける。過去のある事件が他人へ心を閉ざしていたおちかだが、次々に訪れる客の話をキッカケに心境の変化が綴られた5話の連作短編集。
宮部みゆき2作品目。
前読『火車』で宮部みゆきデビューを果たした私へ、ブク友の土瓶さんに本作をお薦めいただき早々に入手。更にブク友のmegmilk999さんからも本作をお薦めいただいたこともあり、これは今こそ読みごろだと手に取った。
時代小説は初体験で時代に応じた設定・物語・セリフ回し、登場人物の多さにはじめは馴染めず何度も読み戻したが、ようやくおちかの姿見が脳内で映像化された途端、一気に魅き込まれた。
時代小説、面白いではないか。
本作は短編でありながら総じて『人の心に潜む感情(業)』が怪談テイストで描かれている。
形容するならば「怖い、でも切なく悲しい、そして愛おしい」物語だ。
一人ひとりの登場人物が丁寧に描かれており個性があるので必然と愛着が湧く。
はじめの2話は来客の話が主体、3話目からおちかの過去が明かされるのだがこれがもう兎角切ない。そしてこの時点で私はもはや江戸にいて、ここから一気読みで読了。最終話の『家鳴り』が1番面白かったのだが、これは前編4話あってこその印象だ。
私が本作で江戸に行って感じたことは、過去も現代も人情や生きる知恵がある一方で、人間とは欲深くこの世で一番怖いのは人間だということ。そして人の心の弱さから生まれた愚かさこそ【おそろし】なのだと腑に落ちた。
しかし宮部みゆきの多彩多才に感服。ファンが多いことに納得。
本作はシリーズ第1作とのこと。
また折を見てつづきに触れたいと思う。
どんちゃん、megmilk999さん、私を江戸へと誘ってくださりありがとうございました。 -
宮部みゆきは単なるミステリ作家ではない。当代きっての天才作家だ。どんなジャンルでも質が高くて面白い。その中でも時代物のファンは割と多いのではないだろうか。
私は特に「ぼんくら」シリーズが好きだ。ミステリと人情、江戸の庶民の暮らしを生き生きと描いた細かい描写。かなり江戸文化についても研究しているのだなと感じる。
今回の作品は「三島屋変調百物語」シリーズの第一作である。相変わらず江戸時代の空気感が伝わる精緻な描写は「ぼんくら」シリーズと同じだが、本シリーズの最大の特徴はこれが怪談という事だ。宮部みゆき自身が「怪談を書きたかった」と言っており、また百物語の体裁をとっていることから作者の並々ならぬ意気込みを感じる。
本作では「亡者」とか「怨念」といったスピリチュアルな表現がたくさん出てくるし、物語の重要な部分にもなっている。これはこの作品が怪談だからではない。当時の江戸時代の人々にとってはこのスピリチュアルな概念や現象が当たり前であり常識であった。当時の空気感や人々の思考を忠実に再現しようとすれば何の違和感もなく、それがまたこの作品の恐ろしさや面白さを高めている。
本当にこのシリーズが99話まで続くのかは分からないが、宮部みゆきのライフワークでもあるので次回作も楽しみにしている。 -
宮部みゆきさんのホラー時代小説
すでに8巻まで出版済みの三島屋シリーズ
初めて、「事始」の1巻を読んだ。
怪異を描いているけれど、関係する人々の心情、
事情を深いところまで、掘って掘って、掘り下げて描く。
人間の気持ちそのものが怪異なのか!
宮部みゆきさんの文章は読みやすくて奥深く、そして美しい。
400ページ超、あっという間だった。 -
7作目の新作「魂手形」を読み終えたところで、もう一度おちかちゃんについて読みたく、再読。痺れる。
私もおちかちゃんの苦悩に自分を重ね、自分で自分を許す作業の途中にあるのかもしれない。
背負ってきた荷は決して下ろしきることはできないもので、思い出したくないにも関わらず忘れられない。
ふとした時に蘇ってくる、どこかで縛られていることは認めつつも…。
本文より
●1つ悪いことがあっても、それがどんな悪いことでも、だからってみんな駄目になるわけじゃございません。
●世の中には、恐ろしいことも割り切れないことも、たんとある。答えの出ないこともあれば、出口の見つからないこともある。
●必ずしも白が白、黒が黒ではなく、見方を変えれば色も変わり、間ハザマの色もあるという___うむ、そうだね
●何が白で何が黒かということは、実はとても曖昧なのだよ
世の中には、どうしようもないことがたくさんある。
単純化できないことも多い。
成仏できない亡者たちの来し方と行く末の描写によって、私自身も浄化された心地よさを受け取る。 -
人を取り込んでしまう屋敷「凶宅」と
おちかの過去「邪恋」で
百物語の意味もわかると
訳アリで悩む人の話を聞くだけが
段々しっくりくるようになります
1話から5話までが
本当に見事につながっていて
基本は終わった話を語るというだけなのに
どっぷりはまり込んで
楽しませてくれます
さすが 宮部先生だなぁ -
闇の深淵に沈み込んでいるおちかの心を何とか助け出そうと、三島屋の主人・伊兵衛は世の中にある不可思議な話を聞き取る・・・という仕事をおちかに与える。
凶事があったとき、事件を起こした人が悪いのは誰もがわかっている。
けれども、加害者だけにすべての原因があるのか?と考えると、そうではない場合もある。
あのときこうしていれば。
あのときこう言っていれば。
どんなに悔やんだとしても、過去が変わるわけではない。
それでも悔やまずにはいられないのが、人というものである。
おちかも、三島屋の黒白の間を訪れる客たちも、後悔という感情に押しつぶされ、自分を責めることでようやく生きているようにみえる。
その物語も、不思議な出来事が語られている。
原因があって結果がある。
それだけではない何か・・・一筋縄ではいかないものが、物語の中に潜んでいる。
面白いけれど不気味な、怖いけれどどこかあたたかい。
そんな不思議な物語だった。 -
三島屋シリーズの第一弾。
黒白の間という部屋で聞き手のおちかが客人の話し手から怪談話を聞くと言った内容でした。
怪談話と言っても実際に話し手が経験した話で、ホラー的な怖さはないですが人間の醜さというか弱さというか違う意味では怖いと思いました。
最後の方はファンタジーのような展開になっていき、別々の話が合わさっていくんですが、ちょっと強引に感じてしまいました。
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百物語なりに身の毛もよだつおそろしさはあるものの、そのおそろしさをも上回る哀しみ、切なさに圧倒されました。
最後は冒険ファンタジーみたいで、物語はまだまだこれからだよと言われているような終わり方に、身震いと、これからの物語への期待が高まりました。 -
久しぶりの宮部さん。さすが!世界に引き込むのがお上手。百物語、私も全部聞いたら何か起こるの!?って考えてしまったりして。怖くなったら99話でやめておこう。何も考えずにシリーズものに色々手を出してしまっており、若干迷子ですが、事続、また夏の季節に読みたいな。
●万円はとても魅力的なんですが、談義を成立させれるほどには詳しくないんですよね。宮部みゆきさん。
た...
●万円はとても魅力的なんですが、談義を成立させれるほどには詳しくないんですよね。宮部みゆきさん。
ただ私なんか、よくこんなにいろいろな話を思いつくもんだなぁ、なんて感心するんですが、宮部さんはどこかで「話を思いつくのはわりとかんたん」みたいなことをおっしゃっていたそうです。
恐ろしくもあり頼もしくもあり、凄いですね。作家さんて。
これで●万円はムリでもジュース代ほどのpaypayを……!
しまった! paypay未加入だったわ(笑)
私に宮部みゆきの魅力を伝播いただいた第一人者であるどんちゃん。
そしていつぞや、ブク友さんのレビュ...
私に宮部みゆきの魅力を伝播いただいた第一人者であるどんちゃん。
そしていつぞや、ブク友さんのレビューコメントで「本はおもしろく読める人が最強」と語られていたどんちゃんを、私は頼もしくもあり凄いと思っておるのです。
これからもよろしく頼もおー!