さいはての彼女 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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本棚登録 : 9884
感想 : 786
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041006429

感想・レビュー・書評

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  • 旅にまつわる女性たちの4つの物語。心が晴れ晴れとする読後感が味わえる作品です。

    最初の物語は、築き上げてきたキャリアやプライベートに行き詰まりを感じている女性社長・涼香が、旅先での印象的な人物との偶然の出会いを通じて、生きる活力を取り戻していく話で、勤め人の心によく響きます。

    特に印象深い旅先の登場人物が、表題にもなっている「さいはての彼女」です。ハーレー好きだった父親に背中を押され、障害を乗り越えて、カスタムビルダーになるほどハーレーにのめり込み、「サイハテ」と名付けた愛車を駆って長旅に出る華奢な若者ナギ。

    物語は、退職間際の心の離れた秘書に、セレブな沖縄旅行を手配させたつもりが、北海道知床の地でポンコツの軽自動車に乗り、途方に暮れるという場面から始まります。そんな時に涼香はナギと出会い、サイハテでさいはての旅を共にします。ナギのひたむきな人柄と彼女を温かく見守る人々との出会い、そしてお互いが抱える過去の自己開示を通じて、凝り固まった心が次第にほぐれていきます。秘書の手配の意図が意趣返しなのか、気付きを与えるためなのか、余韻を残す終わり方も良い感じです。

    こうした予想外の旅先での人々との出会いの展開に、遠い昔に旅先で出会った親切な人たちとの珍道中?(台風接近!沖縄→和歌山→京都→大阪→東京)の記憶が呼び覚まされ、ふわふわとした良い気持ちになれました。

    原田マハさんの作品は、まったく毛色の違う「ジヴェルニーの食卓」に続いての読了ですが、当時も思わずモネの作品集を手に取りたくなったように、心に何かを残していきます。旅に出るか…。明日も仕事です。

    • ハッピーアワーをキメたK村さん
      harunorinさん、おはようございます

      そうなんですよね〜、マハさんの作品は心に何か残していくんです
      それも心のこもった温かいものです...
      harunorinさん、おはようございます

      そうなんですよね〜、マハさんの作品は心に何か残していくんです
      それも心のこもった温かいものです
      読んだあとはいつも得した気分になるんですよね
      私はマハさんの沼にハマってしまって、おぼれています=(^.^)=

      また素敵なレビュー、待ってます♪
      2023/08/03
    • harunorinさん
      ハッピーアワーをキメたK村さん、おはようございます(*´꒳`*)

      コメントありがとうございます。
      ハピアワさんのレビューが素敵で、読みかけ...
      ハッピーアワーをキメたK村さん、おはようございます(*´꒳`*)

      コメントありがとうございます。
      ハピアワさんのレビューが素敵で、読みかけの本そっちのけで読みました。ほんと良かったです!
      旅モノって、映像ではなく、文字から情景を思い浮かべるので(ネットもチラ見しますが)、自分の旅の記憶も渾然となって、うまく言えないんだけど、心地よい高揚感が得られて、好きですね。

      マハ沼はどれだけ深いのでしょうか、まだ2冊目(のはず)なので、これからどんどん深みにハマっていくのが楽しみです。
      ではでは、今日も良い一日を。
      2023/08/03
  • この連休どうやって無駄に過ごそうか企んでいたのですが天気は下り坂で良くないし、おまけにぎっくり腰になってしまって山行き諦めました。
    小屋でくつろぎながら読もうとザックにしのばせてあった文庫本「さいはての彼女」を取り出してめくることにしました。山に持っていくには気にならない重さの4遍からなる短編集なんです。

    久しぶりに読む原田マハさんの作品なんですが、心地よい風が吹き抜けていくような感触に、じんわりしみ込んでくる読了感。今にも泣き出しそうな湿っぽい天気の中にあっても感じることができました。やっぱマハさんいいですよね。
    端っこ好きで、すみっこぐらしで、行き着くところは決まってこの先は海しかない陸の突き当たりが舞台になってる作品多くってっw

    キャリア女性が旅に出る話が続くのですがどれもいいです。
    最初は、尖った感じの女社長が主人公ですが、旅で知り合ったバイク乗りのイカした少女ナギちゃんに拐われちゃう話し、真っ赤なハーレーにタンデムして、滑走路のような1本道をどこまでも走る。独特のエンジン音を轟かせながら国道の路肩に停車してただのなんでもない場所が特別な場所に変わる。
    水平線に堕ちる夕陽が一面を赤く染める瞬間。深呼吸する二人、もうこれ絶対いいやつううぅぅぅ。
    このナギちゃんが明るくって人懐っこくて無茶いい娘なんですよねっw
    2話目は、初めての一人旅をするOLの話、旅先で手紙を書くなんてしたことないですけど、じんわりきますね。
    人生を足掻こうっていいなあ。
    3話目は、タンチョウヅルを見に行った話。鶴と添い寝した話は興味深々。その後恩返しはあったんか気になりました。
    4話目で、ナギちゃんのお母さんが主人公の話だけど、再びナギちゃん登場で右手を上げて親指立てて出てゆくとこかっこいいなあ。

    自分で勝手に引いた線、健聴者と自分を隔つ線。そんなものどこにもないんだ、越えて行けって幼いナギに亡き父が言った言葉はいつまでも沁みてウルウルきました。
    彼女の乗ってるハーレー自分で整備して「サイハテ」って呼んでるんですよw 過去に囚われない今日と明日のナギは凪じゃなく止まらない風なんですよね。

    やっぱこの作品無茶いいな。山の描写は羅臼山の峠道走るところしかなかったけど、山のお供に持っていて再読したくなる1冊でした。濡れないようにジップロックに入れてザックに入れておこう。

  • 仕事で精神的に疲れた人にオススメの一冊。

    リフレッシュするために旅に出るのはオススメだろう。ついつい、少ない日程に予定を詰め込んでしまう。事前に入念に調べて、時間通りに予定した場所に行き、現地の料理を楽しみ。。お酒を飲んで。。といった、「期待通り」、「予想通り」の旅行で本当にリフレッシュできるのだろうか?

    今までの自分は、計画が少しでもズレる(天気が悪くなったり、渋滞や事故で時間が遅れたり)ことにイライラしてしまっていた。

    4つの短編に登場する旅人たちは、予定が無く旅に出て、新たな出会いと発見を得ている。まさに旅の醍醐味なのだろう。確かに運の巡り合わせかも知れないが、それだけでは無い気がする。

    予定が無いというのは、空っぽでリセットされている状態であり、普段私達が逃しがちな出会いやチャンスを拾う可能性があることかも知れない。例えば、ふとした瞬間に振り返って景色を見直したり、旅先で初対面の人に話しかけてみたり、といったことができる。いつもと違う行動が、自ずと素敵な結果を導くのかも知れない。

    思い切って、「行き帰りの飛行機以外何も決まっていないような旅」にチャレンジしてみたくなった。

    • kuma0504さん
      Sintolaさん、こんにちは。
      実際にはひとつ二つ行先を決めとかないと、メリハリがつきませんが、あとは全てフリーが、私の大体の旅のスタイル...
      Sintolaさん、こんにちは。
      実際にはひとつ二つ行先を決めとかないと、メリハリがつきませんが、あとは全てフリーが、私の大体の旅のスタイルです。旅にトラブルはつきもの、でも必ずまぐれのような発見がある。そういう意味では外れたことは先ずありません。
      2023/09/27
    • Sintolaさん
      kuma0504さん、コメントありがとうございます。
      旅行の計画は、絶対に行きたい場所が1つ2つあるところからスタートするのですが、どうして...
      kuma0504さん、コメントありがとうございます。
      旅行の計画は、絶対に行きたい場所が1つ2つあるところからスタートするのですが、どうしても欲張って詰め込んでしまう悪い癖があります。余裕を残しておくことが大事ですね。余裕という言葉より、「思わぬ出会いと発見があるかも知れない時間枠」という心づもりの方がワクワクしそうです。アドバイスありがとうございます。
      2023/09/30
  • 人が傷ついたり、壁にぶち当たったりした時に、癒してくれるのは壮大な景色と温かい人との出会いや繋がりなんだと感じます。あちこち出かけた気持ちになれて、清々しい気持ちで読み終わりました。

  • かっこいい女性たちの物語、4編の短編集。
    主人公は、いずれもキャリアを積み重ねてきた女性たち。 
                                                            
    それぞれに事情があって、日常から距離を置くため、旅に出ます。
    第1話の涼香は秘書の手違い(ではなく腹いせですね)で予定外の女満別へ。
    第2話のハグ(波口)は友人のキャンセルで、ひとり伊豆へ。
    第3話の志保は、会社から逃れるため、長期の有給をとって釧路へ。 
                                                                                        
    どの話も心に沁みて、最後には元気をもらえる素敵なストーリー。
    とりわけ、第1話に登場する 凪(なぎ) の印象は鮮烈です。
    赤いハーレーの後ろに涼香を乗せて、彼女の世界観を変えてしまいます。
                                                
    第4話は、凪 の母の物語。
    ぐっと胸に迫るストーリー展開です。
    たった53ページなのに、ドキドキ、わくわく、そして びっくり…。
    最後は、この話のタイトル「風を止めないで」どおり、
    優しい爽やかな風が吹き抜けました。
                                                                                                                       
    原田マハさんらしい素敵な描写にもうっとりさせられました。
    例えば、第2話の伊豆の旅館の部屋からの眺め。
    《悠々と描かれた 絵具のまだ乾かない絵画のような風景が広がっている》
    第3話では、志保が心を奪われた青年と佇む姿がこんな風に描かれます。
    《どうしようもないまぶしい一瞬を、私たちは同じリズムで呼吸していた。
    その単純な事実に、私は静かに胸を打たれた》 
                                                                                                                             
    この作品は、私が利用している図書館のリストにはありませんでした。
    コメントを寄せていただかなかったら、読むことはなかったと思います。
    りここさん、素敵な出会いを ありがとうございます。

  • 原田マハさんの作品の中でも推しのひとつ。
    ページ数が多くなくサラッと読める。
    THE原田さんの作品、というような
    爽快かつ涼しい風が吹くような、清々しさ。
    言葉で上手く表せないけど、ポジティブな空気を運んでくれる。
    登場人物ひとりひとりにも、色んな影や闇を抱えながら懸命に生きてるさまが丁寧に伝わってきて、愛しくなる。
    辛いときにいつも読み返したくなるような本。

  • とてもいい話ばっかりでした。4作とも女性の主人公でとても素敵な人達。嫌なことがあったり行き詰まったら旅に出てみるかな。

  • 読み終わった後、無性に旅に行きたくなった素敵な作品でした❗

    旅に纏わる大人の女性の再生を描いた4編の短編集で、心の傷を優しく包んで元気もらえるビタミンC小説。

    キャラクターは何と言ってもナギが一番です♫好きな作品は、表題作の『さいはての彼女』かなぁ?どの作品もそれぞれ魅力的で、どれが一番とは中々決められない程の秀作です❗

    原田マハさんは、アート小説が有名ですが、この作品のようなハートフルな作品も沢山出版されているので、もっと沢山の方々に読んでもらいたい作品です❗

  • 様々な女性達の再生をテーマにした短編集、
    中でも題名にもある「さいはての彼女」には、震えました。

    サイハテに乗るひたむきさの美しい女性と、
    それに感化されていく一人の強い女性、

     “ナギ、生きるんだ。越えていくんだ。”

    最果てを目指すその二人の在り様が、一陣の風の様で、
    心の澱を洗い流してくれる、風のような物語でした。

    また、「さいはての彼女」の sideB となる、
    「風を止めないで」もよかった、、

     “ハーレー乗りって、みんなロマンチストなの?”

    こんな話を読んだら、バイクに乗ってみたくなりますね。
    まぁ、免許は持っていないんですけども(汗

     “この風、止めないでね。”

    自分の心の風を止めずに、ただひたむきに、、
    そして真っ直ぐに乗っていきたくなる、そんな一冊。

  • 『さいはての彼女』
    ピエールマルコリーニを食べる女社長が、明日付でやめる有能な秘書にはめられたおかげで、ハーレーに乗る少女と出会う。タンデムを通じて最果ての地北海道で生い立ちや彼との別れや仕事上の立場からくる傲慢な心が解けていく。

    「最悪の事態に直面したとき、一時間後に立ち直っている自分を想像できるか。それができる人は、一年後、十年後、必ず成功する人です。」
    ビジネス哲学をこう話すが、その意味も少女の生き方を見て、捉え直しされる。

    「夕日が沈むのを見届けて、まにあってよかった、って。がんばって走ってきて、よかった。生きてきて、よかった。そんなふうに思って、嬉しくなるんです」
    確かに自分も夕日に勇気づけられてきた。たぶんこれからも。

    素敵な話だったけど、ハーレーの店を見ながら、ピエールマルコリーニを大切な人と食べた事を思い出して心がざわついた。

    『旅をあきらめた友と、その母への手紙』
    女友達との旅を楽しみに生活をしている35歳女性。その友達の母が倒れ、一人旅に。
    一人旅でありながら、友達を思い、メールでつながり、一人旅を満喫しつつ、友達の母親に手紙を書く。
    人は関係を大切に生きるべきなのだと思う。自分の存在は一人でいても関係性の中にある。
    しかし、女一人旅はなぜか絵になるなー。

    「人生を、もっと足搔こう。」
    この言葉に勇気づけられた。
    もう少し足掻いてみる。

    三島から修善寺への旅。
    大切な人と三島に行った事を思い出して、この物語でも心がざわついた。

    『冬空のクレーン』
    開発担当の課長級責任者が会社のメンツに巻き込まれ、東京から逃げて北海道のタンチョウヅルとそこで働く人に出会う。雪原での雄大な風景と人の言葉が心を癒す。
    絶望からの再生。
    大量の予定を、こなしているだけの日々の中にも、もちろんやりがいは含まれている。
    それでも、こういう時間が今の自分には必要だと思う。

    『風を止めないで』
    一話のハーレーに乗る少女の母親に、突然訪れたロマンチックな恋の話。
    人の出会いは、素敵だ。
    大切にしたい。
    誠実でありたい。

    この小説を読み終えた時、ちょうどアメリカ帰りの飛行機の中で、浜松上空だった。この3月も同じ状況で、その時は窓側で、雪の残っている富士山を上から見ることができた。
    その写真を大切な人に送ったのを思い出して、また心がざわついた。

    たまたまなのにざわついてばかりの本。
    なんだろ…。

著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

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