気分上々 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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感想 : 88
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041020616

感想・レビュー・書評

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  • 『ジャンプできるというか。短編って思いきったことができる。長編はストーリーの大きな流れがあって、それを流し続けることが最優先だけど、短編は自由なフォーカスで人物や風景だけを切り取ることもできる』。この作品の刊行時のインタビューでそう語る森絵都さん。この作品は、様々な媒体に様々なテーマのもと書かれた短編を、書かれた順番通りに掲載した短編集です。それぞれの短編に繋がりは一切ないため、ゼロから世界に入っていって、読み終えて、また次の短編、の繰り返し。だからこそ、森さんの色んな引き出しの中を見ることができる貴重な機会。さて、どんなものが見れるのでしょうか。

    9編の短編から構成されたこの作品。一冊の作品として刊行されることを前提としていなかったため、長短織り交ぜ、テーマもバラバラな作品が連なっています。私が魅かれたのは次の三編です。

    一編目。〈17レボリューション〉。『十七歳の誕生日、あたしはイヅモに絶交を申し渡した』とあまりに唐突な書き出し。そして『頼む、イヅモ。なにも聞かないで、これから一年間、あたしと絶交してくれ』と言うのは主人公・千春。『今度こそあたし、絶対、なにがなんでも自分を変えるの。これからの人生、よりよく生きるためには、自分革命しかないんだよ』と自身の中で息巻く千春。そして、そのためには『イヅモと絶交する必要がある』と考えます。『じゃあ、絶交すれば。あんたの人生がどうよくなっていくのか、とくと拝見させていただきましょう』とイヅモは絶交に同意してくれました。『急激にものがなしくなりながらも、あたしは決意を曲げなかった』という千春。『イヅモは我が子を千尋の谷へ突きおとす親ライオンさながらの勢いで去って』しまいます。そして、千春の『本格的な自分革命がはじまった』という展開。高校生を主人公に物語を書いたのは実は初めてという森さん。なんだか意外な気もしますが『高校生になると、自分を客観視できるようになる』という部分が中学生以下とは違うと考える森さん。この作品ではそんな部分に光があたります。付き合う人を『選ぶ』のが大切だと考える千春。『頭がいいか、悪いか。おしゃべりか、無口か。派手か、地味か。』そんな基準に意味を求める千春。『人間は客観的な価値基準に基づいて生きるだけじゃ幸せになりえない』という担任教師の言葉。人間関係に悩むということの意味を感じるようになる高校時代だからこその主人公・千春が迷いこんだ迷路。こうやって良くも悪くも大人になっていくんだなと、短いながらも、とても読み応えのある作品でした。

    二編目。〈東の果つるところ〉。これも読み応えのある作品でした。『全文手紙の文体は初めて』と森さんが語る通り、それなりの文章量の手紙だけで構成されるこの短編。ネタバレになるので、その意味合いは書きませんが、所要二日間を要したという力作の家系図が登場します。この家系図は読み応え?見応え?十分の力作です。いろんな拘りがそこかしこに見える、その家系図。作家さんというのは、自分のアイデア次第でいろんな可能性を小説の中に盛り込むことができるんだなと今更ながらに思いました。

    三編目。〈ブレノワール〉。これも読み応え十分の作品。フランスのブルターニュ地方を舞台にして、登場人物も全員フランス人ですが、なんだか日本にもありそうなその土地に根付き、その土地の人たちを縛り続ける『呪縛』が描かれます。現地を実際に取材された森さんの筆。『一葉一葉が勝手に陽を浴び、思い思いに風に吹かれてざわざわ踊っている。その奔放な躍動に命の力がみなぎり、むせかえらんばかりの生気を発散する』という主人公が目にする畑の描写などは実際に目にしないととても書けないものだと思いました。我々が感動できるのは、素晴らしい作品の舞台裏に地道な取材活動があってのことなんだ、と感じたとてもよくできた短編でした。

    『これまで起こらなかったからといって、すべてのことが、これからも起こらないわけじゃない。少ない枚数の中にも”何かが起きる”短編小説は、そんな想いと通じているかもしれない』と語る森さんの短編集。高校生が主人公となる世界、外国が舞台となる世界、そしてファンタジーの世界まで登場するこの作品。この作品一冊の読書の中で、そんないろんな世界を一度に楽しむことができました。人の人生は有限です。読書にかけられる時間にだって限りがあります。同じ時間で、色んなものを、色んな世界を、そして色んな人々の生き様を見ることのできる短編集の世界。そんな短編集ならではの魅力をとても感じた作品でした。

  • こういう話が読みたいんだよなと思う。小説家というものは己の内側にあるものを書き出していく存在なのだろう。だから、内側にたくさんのものを持っている作家は世界が広がっていくし、ない作家は一時話題になっても消えていく。
    そんなことを思う。

  • 温かくて、ときどきふふっと笑みが漏れる、心の安らぐ一冊。微睡んでいる時に見る夢みたいな短編集。私は『ヨハネスブルグのマフィア』がお気に入りです。

  • 森絵都は勝手に青春モノのイメージがあったけど、幅広い世代の恋愛小説があって印象が変わった。【17レボリューション】で恋愛に失敗した自分を変えるために親友と絶交という格好をとるのとか、だよね〜ぽいな〜となった。主人公が親友や父親と「価値基準は客観的である必要はない」「自分が良いと思ったものを良いと思えばいいじゃん」的な話をしているところが良かった。【本物の恋】はそっちか〜ってなるオチもしっかりあったし【ブレノワール】の最後も良かった。個人的に一番好きだったのはタイトルの【気分上々】。大人になった今だからこそ中学生の時の感覚とか思い出しちゃったりして森絵都〜となった。
    まとまってないけどどの話も語り口調を変えてて読み飽きしない短編集でした。

  • よかったよ、一番印象に残ったのは「本物の恋」かな。
    恋せよ乙女!

  • 毎日をもがきながらも一生懸命に生きる人たち。
    それぞれに悩みがあって、上手くいかなくても前へ進む。バラバラな9つのお話それぞれから元気を貰える作品だった。
    17レボリューションで久しぶりにキュンとした。若いって良いな。

  • 解説が素晴らしかった。もちろん一つ一つの物語も輝いていたが、瀧晴巳さんがこの本の最後に綴った言葉が、バラバラに思えていた短編の一つ一つを最後にうまくまとめており、すごく後味の良い結び方をしてくれている。

  • 短編集。「自分はどんな人間か」を探す物語のように感じた。特に好きな作品二つ。『東の果つるところ』―「血が繋がっていようとなかろうと、その男が好もしい人物であるならばおまえといい関係を築けていけることでしょう。好もしくなければ切って捨てればいいのです。たとえ血が繋がっていても。」家族って、血の繋がりってなんだろう。でもこの言葉に救われる人も多いんじゃないかな。『気分上々』―森さんらしい青春小説!ラストシーン、母親がぷっと笑ったところで、なんだか少し泣きそうになった。

  • ウェルカムの部屋、東の果つるところ、が面白かった。短編集でした。

  • さまざまな短編集です。読んでるときの気分と一致するとラッキーです。表題おもしろかったです。気楽に読める本でした。

著者プロフィール

森 絵都(もり・えと):1968年生まれ。90年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。95年『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞及び産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、98年『つきのふね』で野間児童文芸賞、99年『カラフル』で産経児童出版文化賞、2003年『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞、06年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、17年『みかづき』で中央公論文芸賞等受賞。『この女』『クラスメイツ』『出会いなおし』『カザアナ』『あしたのことば』『生まれかわりのポオ』他著作多数。

「2023年 『できない相談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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