料理番 名残りの雪 包丁人侍事件帖 (7) (角川文庫)
- KADOKAWA/角川書店 (2016年3月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041024287
感想・レビュー・書評
-
嗅覚に優れた江戸城台所人・鮎川惣助と大奥添番・片桐隼人の幼馴染コンビが様々な事件に遭遇するシリーズ第七作。
昨日読み終えた西條奈加さんの「曲亭の家」での馬琴が強烈だっただけに、このシリーズでの馬琴と読み比べようと思ったのだが今回は登場なし。ついでに言えば大鷹源吾の登場もなし。
今回の事件は二つ。
まずは大奥の下用所(廁)から赤子の遺体が見付かった事件。毎度お馴染み大奥のゴタゴタの話かと思えば犯人は町人上がりの娘。知らぬうちに身籠り知らぬうちに産んでしまったという娘の未熟さゆえの言い分に、娘が大奥を下がることで一旦は収まったかのようだったが。
章題の通りの『嫌な女』だった。
なんともやりきれないが、惣助の予想通り真相は闇の中…という結末なのだろう。こうして庇った結果、また新たな犠牲者が出ることにならなければ良いのだが。惣助が放った一言が隼人を思いやると同時に『嫌な女』への皮肉をぶつけたことが唯一のスッキリだろうか。
もう一つはアルコール中毒の旗本・二宮一矢との出会い。泥酔した彼を隼人と共に屋敷へ送り届けたことをきっかけに、一矢が禁酒をする代わりに惣助は腹回りを一尺(約30cm)減らすことを約束させられてしまう。
こうして惣助のダイエット作戦が始まる…と思いきや、その場の雰囲気で約束しただけで本意ではなかった。家族の前では食事を減らしてもこっそり盗み食いをする。当然腹回りは減らない。
一方の一矢も禁酒どころかまたしても泥酔してしまう。一矢が酒に溺れる訳が分からなければ禁酒も無理なようだ。
知恵袋の馬琴も荒事担当の大鷹源吾もいない分、惣助と隼人の頑張りが目立った今作品だった。
一矢が酒を酔うために飲むのではなく楽しめるように料理を教えたり、酒を飲む時間の代わりに惣助の息子・小一郎に一矢が得意な弓術を教えさせたり。
隼人も赤子事件では往復八里(約32キロ)の道を一日で駆けたり探偵役として犯人を追い詰めたり、一矢の決意を見守るために法度を犯して〈大的上覧〉が行われる城中に潜り込んだり(勿論惣助もお付き合い)と忙しい。
惣助が表向きだけダイエット中に夢の中で腹の虫に怒られるシーンは面白かった。
シリーズとしては長女・鈴菜がだんだん武家の娘らしくなっていく姿が感慨深い。惣助が悪い虫が付かないかと心配するのも分かる。しかし外面はともかく中身はまだまだ未熟なやんちゃ娘のままで安心した。
隼人の親バカ振りはますます暴走中。双子のうち娘の初つかまり立ちを見逃しては『一生の不覚』と嘆き、同じ日に双子が二人とも立ったと言っては赤飯持参で惣助に報告する。赤ちゃん言葉も板についてすっかり溺愛パパだ。
このシリーズは後味が苦い事件が多い。この作品も第一話こそやりきれなかったが、一矢についてはホッとする結末だった。彼の命懸けの行動で救われた。長らくそばで苦しい日々を過ごしてきた弟・継矢も報われた気がする。
他の作品では悪者に描かれ勝ちな将軍・家斉がおおらかで優しいキャラクターに描かれているのも良い。
これで<包丁人侍事件帖>シリーズは一旦一区切り。<新包丁人侍事件帖>シリーズへと続く。
以下にシリーズ作品名を上げておきます。参考まで。
①将軍の料理番
②大奥と料理番
③料理番子守り唄
④月夜の料理番
⑤料理番春の絆
⑥くらやみ坂の料理番
⑦料理番名残りの雪(本作)
レビュー一覧は以下へ↓
https://booklog.jp/users/fuku2828?keyword=%E5%8C%85%E4%B8%81%E4%BA%BA%E4%BE%8D&display=front詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
52