キトラ・ボックス

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041037256

感想・レビュー・書評

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  • 3.75/270
    内容(「BOOK」データベースより)
    『奈良天川村‐トルファン‐瀬戸内海大三島。それぞれの土地で見つかった禽獣葡萄鏡が同じ鋳型で造られたと推理した藤波三次郎は、国立民俗学博物館研究員の可敦に協力を求める。新疆ウイグル自治区から赴任した彼女は、天川村の神社の銅剣に象嵌された北斗が、キトラ古墳天文図と同じであると見抜いた。なぜウイグルと西日本に同じ鏡があるのか。剣はキトラ古墳からなんらかの形で持ち出されたものなのか。謎を追って、大三島の大山祇神社を訪れた二人は、何者かの襲撃を受ける。窮地を救った三次郎だったが、可敦は警察に電話をしないでくれと懇願する。悪漢は、新疆ウイグル自治区分離独立運動に関わる兄を巡り、北京が送り込んだ刺客ではないか。三次郎は昔の恋人である美汐を通じ、元公安警部補・行田に協力を求め、可敦に遺跡発掘現場へ身を隠すよう提案するが―。1300年の時空を超える考古学ミステリ!』

    冒頭
    『本当にそんなものがあるのか、為元は初めから半信半疑だった。
    秋になってからはろくな稼ぎをしていない。追いはぎ稼業といっても裏街道で網を張って掛かったのは貧民ばかり。襤褸(ぼろ)をはぎとったところで襤褸の値でしか売れない。わかりきった話だ。』

    『キトラ・ボックス』
    著者:池澤 夏樹(いけざわ なつき)
    出版社 ‏: ‎KADOKAWA
    単行本 ‏: ‎320ページ

  • アトミックボックスに続いてすぐ読了。こちらも全然違う分野なんだが壮大なスケールで楽しめた。
    ロマンを感じる作品。

  • アトミックボックスと同じ登場人物が登場するが,独立して読める.
    前作は戦後史と現代史の交錯だったが,今回は古代史と現代史(政治)の交錯.
    著者の主張はいろいろあるにせよ,読者としては娯楽として楽しめばよいのではないかな.

  • 2019.2

  • 2018.4.17-4.22
    アトミックボックスの続編。
    にしても、前作をとにかく匂わす池澤さん。笑

    歴史ミステリーというジャンルは、なぜこうも人をワクワクさせるのだろう。
    もっと歴史に詳しければ更に楽しめたのに、そこが悔やまれる!

    諸々をググって調べながら読み進めていくのは、すごく楽しい。

    池澤さんの小説に出てくる女性はとにかくパワフルですね。

  • 読み始めてもすぐに気づかなかった、前作を読んだことを。前作のストレートな展開に比べるとちともどかしい。ウイグルの動きに無知だなあとは思う。考古学上の事実との整合性はどうなのかな。

  • 非常に読みやすくてサクっと読了。池澤夏樹が大衆化している(いい意味で)。
     
     タイトルにあるように、奈良のキトラ古墳が物語の端緒。やがて奈良の天川村と新疆ウイグルのトルファン、瀬戸内海大三島で見つかった銅鏡から、キトラ古墳の埋葬者の推理と、ウイグル自治区から赴任した考古学研究者”可敦(カトゥン)”を巡る北京の陰謀が融合しつつお話は進む。 
     昨今(ここ数年来)の古代史ブームに池澤夏樹も乗っかってきたか?!と思ったけど、そこに現代のチベット、ウイグル自治区の独立運動と、強引に辺境の少数民族を押さえこもうとする中華思想への警鐘を込めた、やはり、しっかり骨太な作品。

     新聞書評で本書を見かけて読んで見ようと調べたら、どうやら前作にあたる『アトミック・ボックス』があるというのを知る。本書が図書館での予約順番待ちがあるので先に『アトミック~』から読む。読んでおいてよかった。登場人物が被るだけにとどまらず、通底するテーマは同じだった(と思う)。

     本書は古代史中心のお話かと思ったが、キトラ古墳に関わる謎解きは、どちらかというと装飾的なストーリーだった。キトラ古墳の埋葬品が遠く南方の天川村に存在するクダリは明らかに作者の創作の部分だし、考古学者による考察もそこには及ばない。埋葬者に対する推理、論証、物証の発見も謎解き話としては面白いけど、池澤夏樹が描きたかったのはそこではなかったろう。
     本書の中では、キトラ古墳の埋葬者(と推測される)阿部御主人が遣唐使として長安の都で暮らす頃から、壬申の乱を経て埋葬されるまでの話が、現代と相前後しながら描かれる。なので読者は埋葬者への謎解きを現代の登場人物たちと一緒に楽しむワケではないという点でも、作者のフォーカスは古代史の部分ではなかったであろうと思う。
     とはいえ、作家が想像力を駆使して描く長安での暮し、阿部御主人とヤグラカルの友情、渡来とその後の壬申の乱での活躍等、そちらだけをクローズUpして描いてもなかなか楽しかったろう(夢枕獏の『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』でも唐の時代、長安にいた西域の人間の不思議な力が誇張され描かれていた。その話を彷彿させる)。壬申の乱のクダリでは大海人皇子側の勝利にヤグラカルの予知能力、超能力が威力を発揮、戦闘シーンもなかなか面白く描かれていた(でもね、周防柳の『蘇我の娘の古事記』を読んでると、討たれたはずの大友皇子も実はこっそり逃げおおせてるんだよ、なんて、各作家が想像で描いた古代史が頭のなかでミックスされて再生されていた・笑)。
     そんな日本古代史上最大の戦闘とされている壬申の乱を、日本の歴史を学ぶ中国人である可敦に”それだって叔父と甥の戦いでしかなく、数日で終わってしまった”と言わせているのにはちょっと笑った(そりゃね、三国志、水滸伝と較べりゃ話が小さいわ)。それくらい古代史部分は「コップの中の嵐」(これも可敦の言葉)に過ぎないのだ(笑)

     でも、古代史の謎解きで引用される万葉集の歌の解釈や、『竹取物語』を引いて「火鼠のカワゴロモ(漢字がが出てこない)」に注目し、これは中国で言う火浣布(かかんふ)=アスベストのことだったと展開し、キトラ古墳の埋葬者を推理する話なんかは、面白かった。

     では、日本の古代史を引き合いに、あの頃、唐代の中国大陸を描きつつ、現代の少数民族問題を抱える中国の話を描いたのはなぜか? 
     唐の時代の中国について、こんな描写がある。

    「周辺諸国から大唐に何かを学びに来る者は多い。唐は寛容にもそれを認め、むしろ歓迎し、費用を担って機会を与えてくれる。」

     当時アジアに於いて突出した巨人だった中国の余裕の成せる業と言ってしまえばそれまでだけど、今の中国がどうして周辺諸国に対して、あそこまで強硬で不寛容な態度を示すのか、その対比を考えさせられる内容になっている気がした。

     考古学者可敦の存在も今回の謎解きのひとつの鍵なのだけど、最後に予想外の正体が明かされ、ちょっと驚くことになるが(詳細は伏せます)、ラスト間際に美汐によって引用されるE.M.フォースターというイギリスの作家の言葉、

    『国家を裏切るか友を裏切るかと迫られたとき、私は国家を裏切る勇気を持ちたいと思う』”

     この言葉のように、可敦は国家という大きな権力に反旗を翻す。それは、前作『アトミック・ボックス』で主人公の美汐が国家という権力にひとりで立ち向かい放った決め台詞を思い出させるものだった。

    「私は今ここであなたに人間としての倫理で勝ちたい」
    「国対国の対立以前に、なによりもまず、人類対核なんです」

     池澤夏樹は両方の『~ボックス』を通して、大きな権力に対して、人として、”個人”よ立ち上がれ!と訴えているんじゃないかな。

     ちなみに、美汐はじめ『アトミック・ボックス』の主要登場人物は遍く再登場。しかもそれぞれ”らしく”重要な立ち回りを演じてくれる。本書から読み始めても判るようにはなっているけど前作から読んでこその感慨が楽しめる。

     ただストーリーとしてのまとまりは前作『アトミック・ボックス』のほうが上だったかな。過去の国家機密、情報漏洩が現代にどう影響するか、そして緊迫の逃走劇。全てがエンターテイメントとしてまとまっていた前作。
     それと較べると古代史の謎そのものは面白かったけど、遥かな時間と距離を越えて現代の中国を挟んで日本と西域を繋ぐ接着剤的役目としての粘着力はちょっと弱かった気がする。可敦が導かれるようにこの謎に挑み、解を導き出すのが、彼女が新疆ウイグルの出でチベットの血を引くこと、また古代のヤグラカルの出自と、その強い呪力が彼女を導いたとするのもファンタジーの域を出ないところだ(まぁ、それも素敵な話だけど)。
     可敦の拉致監禁の顛末も、前作の美汐と公安の追いつ追われつのスリルと迫力ほどでもなかったところも残念。

    『アトミック・ボックス』の感想はこちら;
    http://booklog.jp/users/yaj1102/archives/1/4620108014

  • おもしろかったけど、終わり方は雑かな?

  • キトラ古墳をめぐる様々の謎?

    神社のご神体の鏡をめぐり、古代日本、藤野時代の中国、ウイグルの民族問題、チベット問題、

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著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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