- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041052129
作品紹介・あらすじ
作家である「私」は、国立新美術館を訪れた。そこで不思議な軍服姿の男を見かけたのだが、その姿はかき消えてしまう。「私」は、美術館の建物が、一九三六年に起こった、大きな歴史上のクーデター事件である「二・二六事件」ゆかりであることに思いを馳せる。
帝都叛乱の二月二十六日、彼らはそれぞれの夜を過ごしていた……。当時の首相だった岡田啓介、侍従長だった鈴木貫太郎と妻のタカ、昭和天皇の実弟・秩父宮、陸軍の歩兵として反乱軍と同じ部隊にいた本多猪四郎、吉田茂の娘であり湯河原で襲撃を受けた麻生和子。五人それぞれの二・二六事件。
日本の平和に関わった彼らの「その後」は、この「二・二六事件」につながっている。史実を題材にした連作短編集。
「身代わり」 義弟が身代わりになり命を落とした首相・岡田啓介は、やがて第二次大戦の終戦に尽力した。
「とどめ」 襲撃された鈴木貫太郎へのとどめを制止したのは、妻のタカだった。彼は終戦内閣の総理となる。
「夜汽車」 叛乱を起こした青年将校らが要と仰いだ秩父宮は、事件直後に弘前から夜汽車で上京した。
「富士山」 襲撃を受けながらも祖父を守った麻生和子は、父・吉田茂の講和条約を助ける存在に。
「逆襲」 何もわからず反乱軍と同じ部隊にいた本多猪四郎は、長い出兵を経て、「ゴジラ」の監督になった。
やがて戦争に突き進む一九三六年に起こった事件は、現代日本の舵取りについても大きな示唆に富む内容を訴えかけてくる。今の時代だからこその小説がここにある。
感想・レビュー・書評
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二・二六に関わる人びとのその後を
綴った秀作。 -
尊敬する牧野伸顕さんの話。
https://serai.jp/hobby/330531 -
"お龍"を読んで、植松さんのファンになり、これを借りてみた。2.26事件について今までさほど注視してなかったので、新鮮な感じで読めた。5章の短編からなるがそれぞれ繋がりがあって、なるほど〜と感じる点が多かった。植松さんの描写の丁寧さで映画を観てるかのような文章で1〜4章まで一気に読めた。現代に繋がるゴジラの最後の5章だけは…読みにくかった。また違うの読んでみよう〜
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昭和11年。皇道派の陸軍青年将校らが、一千人を超える士官・兵を率いて決起したクーデター未遂。二・二六事件。襲撃した側と、襲撃された側。それぞれに生き残った人々は、あの事件をどう受け止め、事件後をどう生きたのか。
容貌・体格のよく似た義弟が身代わりとなり、女中部屋の押入れに隠れ難を逃れた当時の首相・岡田啓介。
至近距離から銃撃を受け、瀕死の重傷を負いながらも止めを刺されることなく生き延びた鈴木貫太郎とその妻、タカ。
将校たちを叛乱軍とみなし激昂する兄、昭和天皇。決起した将校、安藤輝三とその歩兵第三連隊と縁深く、立場ゆえに懊悩する弟、秩父宮。
襲撃された祖父・牧野伸顕伯爵を助けながら、雪の湯河原山中を逃げた吉田和子(麻生太郎氏の母)。
たまたま所属していた連隊から決起部隊が出た。そのために三度の召集を受け、執拗に戦火の最前線に送り込まれた本多猪四郎。
彼らが永遠の平和を求め、日本の終戦と戦後を作りあげてゆく様子を描く連作短編集。
東京が30年ぶりの大雪に見舞われた、その未明に事件は起き、否応なく転換期はやってきた。とてつもなく恐ろしい気配はあるのに、その実態はわからず、わかった時には、事態はどうにもならないところまで来ている。
彼らが体験した恐怖や緊張が降り積もり、踏みにじられていく過程が、一貫して淡々と描かれている。
読んでいると、雪の朝のしんとした静けさと寒さのような、昏い時代の冷徹さにからだが震える。
牧野伸顕伯爵の孫であり、吉田茂の娘である吉田和子が主人公の『富士山』では、その長男である麻生太郎氏による、「首相の家庭なんて幸せなもんじゃねえ」「両親にほったらかしにされて育った」という後年の述懐を感じる描写が多々ある。
麻生氏が子供の頃、ご両親たちは日本の独立に向け、国のために奔走していた。だからこその言葉だったのではないかと思う。
序章と終章は蛇足に感じた。 -
2017/9/7
またいい本に巡り会えました。
第二次大戦に突入の鍵となった2.26事件を何人かの人の視点で短編のように書かれた話
ほぼ事実を追っているので、戦争の起こった直接の原因とかしらない私には、勉強になった。
今までさっと名前くらいは知っていて、なんで止められなかったんだろうと歯がゆく思っていた人もそれぞれいろんな葛藤のなかで生きていたんだなと知りました。
これをきっかけにもっと真実を知ろうと思う。 -
「私」は国立新美術館で軍服姿の不思議な男を見かけた。この地は、「二・二六事件」ゆかりである-。首相・岡田啓介、侍従長鈴木貫太郎と妻のタカ、昭和天皇実弟・秩父宮…。日本の平和へと繫がる、彼らの「この日」の物語。
世界史受験だったため日本史には詳しくないせいか、本作はどこまでが史実でどこからがフィクションかわからなかったけれど、一つ一つの物語がしっかり描かれていて惹きこまれた。特に秩父宮と本多猪四郎の話が印象的だった。第二次大戦を意識するこの時期に上質な反戦文学に触れられてよかった。
(A) -
2・26事件に絡む人物についての短篇が5つ.岡田啓介,鈴木貫太郎,秩父宮,吉田茂,本多猪四郎が出てくる.鈴木貫太郎はこれまであまり良い感触を持っていなかったが,妻のタカが皇室と深い関係を持っていたから終戦時の首相に天皇自身が推挙したという話.納得できる面もある.吉田茂の話も面白かった.麻生太郎が出てくる.この事件も皇道派と統制派の確執が原因だということだが,このように関わった人物で解き明かす方法も事件自体の理解につながるような感じがする.楽しめた.