届かなかった手紙 原爆開発「マンハッタン計画」科学者たちの叫び

著者 : 大平一枝
  • KADOKAWA (2017年10月27日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041058145

作品紹介・あらすじ

「いま、シラードを知っているアメリカ人はほとんどいない」――。

巨大な爆弾製造の可能性を予見し、「ナチスに対抗するために、アメリカでも原子力爆弾の研究が必要です」とアインシュタインに手紙を書かせた米国人研究者、レオ・シラード。彼は原爆投下の直前、トルーマン大統領宛に、無警告使用に反対する七〇名の科学者の署名を集めた。製造をたきつけておきながら、なぜ使用を止めようとしたのか。そんな人物がなぜ歴史から葬られているのか。署名はどうなったのか。

本書ではシラードの署名にサインした科学者をはじめ、彼を知る人物を中心に直接取材を実施。彼の名が消えた理由、そして、総費用二兆円、関わった労働者11万人余と言われるマンハッタン計画の本質。それはすなわち原爆とはなんであったかという問の答えでもあった。

届かなかった手紙 原爆開発「マンハッタン計画」科学者たちの叫びの感想・レビュー・書評

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  • ナチスに加担するのを避けるためヨーロッパからアメリカに移り、原爆開発をアメリカ政府に箴言しながら、開発後は実戦での利用を止めようと奔走したレオ・シラードの活動を追ったルポルタージュ。
    著者はある日テレビで、日本への原爆投下をやめさせようと署名活動をしたり大統領宛てに手紙を送ったシラードの存在を知る。初めて知ったシラードの足跡を追って、かつてシラードの呼びかけに応じて署名をした人やゆかりの人の話を聞こうとアメリカを訪ねたり資料をあたる。そうした結果、シラードの尽力にもかかわらず手紙や署名は大統領のもとまで届かなかったであろう事実を知る。
    ハンガリーのユダヤ系の家に生まれたシラードは早過ぎるほどの先見の明があった人物だとか。ドイツで科学者として活躍するようになるが、ナチス台頭の空気を読むやイギリスへ渡り、その後アメリカへと渡る。そこでナチスの向こうを張って原爆開発に着手するよう知己のアインシュタインを通じて当時のルーズベルト大統領に訴えたことでマンハッタン計画の契機をつくった。だが、開発計画が進む一方で崩壊したナチスの原爆開発が大したものでなかったことを知る。以降は、開発されてしまった原爆が実戦で、つまり日本に対して使われることがないよう方々に訴えて回ったがしかし、広島と長崎に原爆は投下された。「原爆を作らせようとして成功し、使わせまいとして失敗した男」ともいわれる(『シラードの証言』の訳者・伏見康治氏)。
    幼い頃から頭もよく雄弁で活動的だったシラードは、若いうちに戦争に熱狂する市民や事なかれ的な発言をする親を見て「もし世間知らずと不誠実との選択を迫られるのなら世間知らずを採ろう」と決意する。彼の人生にはこの決意が生き、正義感強く孤高を厭わない人物だった。原爆投下は止められなかったが、失望することなくその後も反核・非核に向けて様々な活動を行っており、たとえば現在もCouncil for a Livable World(住みやすい世界のための協議会)として続く有力NGO・ロビー団体の礎などを築いたそうだ。
    ところで、アメリカ取材などのなかで、関係者が原爆開発に携わったことに対して自ら謝罪や後悔の念を述べることなく、「戦争とはそういうもの」「あのときはしかたなかった」といった弁に頑ななまでにとどまることに著者はわだかまりを覚える。
    科学者という種類の人々が、たとえ悪や非平和に加担するものであっても新たな領域を開く研究であれば行きつくところまで進めてしまいたくなる気持ちはわからないでもない。だがこれまでの自分は、科学者はそれでよし、それでしかたないと思っていたのだが、どこかの時点でやはり自分が開発したり関わったものに対しては、それが社会に及ぼす影響に自覚的であるべきだろうという思った。科学者としてただ研究に没頭したとか、何のための研究か知らされていなかったというのは、その時点では通じるだろうが、何か事が起きて以降は詭弁になるもの。そのことに自覚的であるべきだろう。
    一方で、それほど簡単に謝罪できるものではないとも思う。著者はアメリカ取材時、日本の原爆の写真集を傍らにおいてインタビューをしていた。誰かが手に取り何かを述べることを、さらにいえば謝罪の言葉が出てくることを期待していたとのこと。だが人間というものは、自分がしたことをたとえ後悔したり呵責を感じたりしていてもなかなか認められないものだろう。
    原爆に関して日本人は被害者づらして謝罪を求めることができる。それを、謝罪を求めるのでなく「ノーモア・ヒロシマ、ナガサキ」という活動に昇華させたのはとてもすばらしいことだが、加害側がいきなり「ノーモア……」と言い出すことも順序を無視した話だろう。転じて、日本はアジアの国々に対して誠意ある謝罪はできているだろうか。そもそも行ったことに対して自覚的だろうか。
    著者はアメリカ取材後に日本で被爆者を取材したことで、アメリカ人に謝罪を期待していた思いが変化していく。そうした意味では、本書はシラードに関心をもってすぐ走り出した感があり、やや踏み込み不足な感は否めない。著者がもっと自分の考えをまとめてから取材するなり、構成を考えるなり筆を進めるなりしたほうがよかったとも思う。2週間ほどの取材をベースに書いているようだが、もっと時間をかけるべきテーマだった。少し著者の味方をすれば、著者自身も述べているが、本というかたちになるまでは費用回収の目途もたたない日本の出版界のお粗末さゆえでもあるだろう。著者の思いから発した一冊としてはまとまり方がもったいなく感じられる。

  • 科学者の矛盾した感情が聞けてよかった。
    「それが戦争というもの」で済ませてはならない。

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