校閲ガール ア・ラ・モード (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041058626

作品紹介・あらすじ

出版社の校閲部で働く河野悦子(こうのえつこ)。部の同僚や上司、同期のファッション誌や文芸の編集者など、彼女をとりまく人たちも色々抱えていて…。日々の仕事への活力が湧くワーキングエンタメ第二弾! 
===

憧れのファッション雑誌の編集者を夢見て、総合出版社・景凡社に就職した河野悦子。しかし、「名前がそれっぽい」という理由で(!?)、悦子が配属されたのは校閲部だった。
入社して2年目、ファッション誌への異動を夢見て苦手な文芸書の校閲原稿に向かい合う日々を過ごす悦子。
そして明るく一直線な彼女の周りには、個性豊かな仕事仲間もたくさん。
悦子の同期で、帰国子女のファッション誌編集者・森尾、これまた同期の東大出身カタブツ文芸編集者・藤岩、
校閲部同僚でよきアドバイスをくれる、ガールなんだかボーイなんだかのお洒落男子・米岡、
悦子の天敵(!?)のテキトー編集男・貝塚、
エリンギに似ている校閲部の部長・茸原、
なぜか悦子を気に入るベテラン作家・本郷、
などなど、彼ら彼女らも、日々の仕事の悩みや、驚くべき過去があって……。

石原さとみ主演で連ドラ化された、読むと元気が出るワーキングエンタメ!


解説=唯川 恵

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、会いたくないと思っていた人に『とうとう会っちまったか』という思いをしたことはないでしょうか?

    人はそれぞれの人生の中で輝く瞬間があるように思います。神童と言われた過去があった、中学の部活動で華やかな青春を生きた、そして何らか光が当たる時代を生きた…人によってそんな瞬間はそれぞれだと思います。もしかしたら、現在がそんな時代にあたるという方もいらっしゃるかもしれません。

    一方で、人生山あり谷ありと言われる通り、輝く瞬間は永続しないものでもあります。輝きが眩しければ眩しいほどに、その後に来る落ち込みは暗く澱んだものになりかねません。一方で輝いていた時代と、そうでない時代の人間関係というものも変わっていくように思います。どちらの人間関係が良いということはないと思いますが、相手から見る自分の姿に大きな違いがある分、輝いていた時代を知っている人には、落ち込んだ今の自分を見られたくない、見せたくない、そんな感情も湧くでしょう。

    さてここに、『ファッション誌』の『読者モデル』をしていた過去を持つ女性が主人公の一人となる物語があります。『別に今の生活が不満なわけではない』というその女性は七年ぶりに会ったかつての友人の前で戸惑いを覚えます。この作品は、そんな女性が一つの起点を得ていく物語。そんな作品に登場するそれぞれの主人公の思いを見る物語。そしてそれは、”名前がそれっぽい”という理由で校閲部に配属された「校閲ガール」の主人公・河野悦子の同僚たちの生き様を見る物語です。
    
    『え、モーリィ、エディターになったの!?』と七年ぶりに偶然に会ったキャサリンに『心底意外そうな裏返った声で訊かれ』、『ああ…うん』、『エディターというか「The・編集者」だけど』と返すのは主人公の森尾登代子(もりお とよこ)。『ぜったいモーリィは海外に行くと思ってた』と言われ、『あたしだってそう思ってたよ』という『言葉を飲み込』んだ森尾は、七年前、キャサリンと一緒に『景凡社の女子高生向けファッション誌「E.L.Teen」の読者モデル』をしていた時のことを振り返ります。『中学まではいろんな国の日本人学校を転々としていた』森尾は、高一の時に西麻布で声をかけられ読者モデルになりました。『インターに通う超オシャレな女の子だった』キャサリンとイベントをこなした日々。そして、キャサリンは『日本の大手レコード会社に就職し』、『映像媒体相手に広報の仕事をしている人気Lassyメイト(読者モデル)』としての『華やかな人生』を送っていました。『とうとう会っちまったか』と思う森尾は『心の中で舌打ち』する中にキャサリンは『会えて嬉しい!…じゃあ急いでるからまたね、バーイ!』と言うと『香水の匂い』を残して去って行きました。
    場面は変わり、『え、キャサリンと知り合いなの!?』と『校閲部の同期』である河野悦子に訊かれた森尾。居酒屋で語り合う中に今の自分を思う森尾は、『高校三年の夏、仕事中の父親がくも膜下出血で倒れ、そのまま死んだ』ことにより、外交官になる夢を諦めた過去を思います。とは言え、『今の生活が不満なわけではない』と思う森尾ですが、もし『外交官になっていたら、なれていたら。今あたしはどこで、どんな顔をしていたのかな』とも思います。
    さらに場面は変わり、『モード誌として一目おかれている』『un jour』の出版元・『キュルテールジャポンの八剣(やつるぎ)』とエレベーターで偶然一緒になった森尾は、『エディターになって何年目?』と訊かれ、『二年目です』と返します。そのことに『そんなに早くからページ担当させるの?』と驚く八剣は、森尾を『有無を言わさず』『すぐそばのコーヒーショップ』へと連れて行きます。『十五分のあいだにあたしの半生のほとんどをヒアリングした』という八剣は、『どうして景凡社にいるの?』とも訊きますが、森尾は答えられませんでした。『あたしは、海外に出られなかったから…なんとなく』と心の中に思う森尾。そして、別れ際、八剣は森尾の『目をまっすぐ見つめて』、『ねえ森尾さん、うちに来ない?』、『フランス語の読み書きのできるエディターが必要なの』と語りかけます。『景凡社に』『特に理由もなく入社した』ことを見抜かれたと思う森尾。そんな森尾に訪れるある起点の先の物語が描かれていきます…という最初の短編〈第一話 校閲ガールのまわりのガール・森尾〉。シリーズの主役である河野悦子が少しだけ顔を出す中に、そんな悦子の周囲の人物を描いていくというシリーズの基本形を鮮やかに示す好編でした。

    “出版社の校閲部で働く河野悦子。部の同僚や上司、同期のファッション誌や文芸の編集者など、彼女をとりまく人たちも色々抱えていて…。日々の仕事への活力が湧くワーキングエンタメ第二弾!”という内容紹介が続編であることを印象付けるこの作品。宮木あや子さんの代表作でありシリーズ化もされている「校閲ガール」のシリーズ第二作となる作品です。そんなシリーズの主人公は表紙に極めてポップに描かれる河野悦子です。”こうの” or “かわの”という二つの読み方でフリガナが欲しくなる『河野』という二文字を苗字に持つ河野悦子は、「校閲ガール」という作品にはなくてはならない存在です。前作をお読みになられた方には強烈な個性を放つ彼女の印象が強く残っていると思います。逆に、そんな第一作「校閲ガール」を未読な方に注意事項です。

    ※ この作品は続編です。まずは「校閲ガール」を読み終えてからこの作品を手に取ってください!

    この世に続編ものは多々あります。小説を執筆される作家の皆さんはその作品を完結させるべく執筆をされるのだと思います。その後、結果として人気が出て続編の刊行が決まる、そういう流れなのだと思います。従って、続編ものは、主人公をそのままにして続けるか、違う人物に光を当てていくかの選択に迫られます。この作品では、後者を取ります。シリーズ自体の主人公である河野悦子を登場させはするものの彼女とは別に主人公を用意して、その主人公の物語として編み上げていく、そのようなスタイルを取っています。そういう意味では前作を読んでいなくても大筋に影響が出るわけではありません。しかし、前作を知っていることで物語に深みが増すという効果が間違いなく生まれます。ということで、まずは、前作「校閲ガール」を先に手にしていただければと思います。

    さて、そんな前提の上でこの作品を見ていきたいと思います。この作品の読み味ということでは宮木さんのノリに乗った文章が魅力です。そんな中から三つほど挙げておきましょう。まずは、作家さんのことを断定口調で一刀両断に書き記していく表現です。

    ・『出版社が出している週刊誌ならば、作家は殺人を犯さない限り守られる。しかし先に新聞かテレビにバレてしまった場合、出版社でも守りきれない』。

    ・『作家には、心療内科系の疾病の罹患者が少なからず存在している。みな望んで患者になったわけではなく、幼少期の体験による心的外傷や特定の脳内物質の著しい減少によって正常な生活を営めずに苦しむ』。

    同じく作家でいらっしゃる宮木さんが語られるからこそのリアルさを感じる部分です。芸能界のスキャンダルを芸能事務所が守るというような話をよく聞きますが、作家さんは出版社に守られている…というところでしょうか。また、後者についてはコメントが難しい内容です。ポップな表紙のこのような作品にこんな厳しい表現が突如登場するというのはそれが予期できないからこそ、余計にドキッとさせられます。

    次に、編集者の日常を描く表現です。

    ・『平日の夜は連日の忘年会で、土曜日は早朝から作家接待のゴルフコンペのために休出』。

    ・『プレーに随伴し、都内に戻ったあとは銀座の寿司屋で軽く夕飯を摂り、作家のお気に入りの女の子がいるクラブへぞろぞろと移動する』。

    編集者と言っても要は営業なのかなと。作家さんのご機嫌を損ねないように、もしくは次の作品を自社から出してもらうための苦労の数々が…というところでしょうか?一方で、流石にこれは誇張しすぎだと思いますが、こんな表現も登場します。

    『立場的に抗えない若い女性編集者を横に侍らせ乳を揉み(店の女の子には嫌われたくないからそんな失礼はしないんだとか)、男性編集者にはパンツいっちょうで這い蹲らせ、床に置いた皿から酒を啜らせる』。

    もう、セクハラ、パワハラを絵に描いたような内容です。流石にこんなことはないと思いますが、毎日毎晩報道されるさまざまなニュースを見ていて、思った以上にこの国には、昭和な時代当たり前な部分が残っていると考えると、う〜ん、どうなんだろう、と思ったりもしてしまいます。いずれにしてもこの作品は出版社の舞台裏が見れる面白さはあります。ただ、思ったほどに”お仕事小説”的色彩は薄いかもしれません。それよりも後で書く通り、それぞれの主人公の人生を描く部分の方が強い気がします。

    そして三つ目には、宮木さんのお遊び的な記述です。”エログロ”の傑作「春狂い」で有名な宮木さんですから、サラッと”エロ”発言が登場したりしますがこれはお愛嬌。それよりも、こんなノリで書いてくださるところが個人的には好きです。

    『出版業界の文芸界隈には「待ち会」というイベントがある。詳細に関しては既刊「校閲ガール」の第二話を読んでいただければ判るので省く』

    思わずニヤッとする表現です。完全に宮木さんの悪ノリですね。小説を超えた小説の表現です。この作品には宮木さんの他の作品もサラッと登場させるなど宮木さんファンを意識された表現が一つの魅力になっていると思います。お楽しみに!

    そんなこの作品では上記した通りシリーズ通しての主人公である河野悦子が表に出ることはありません。五つの短編+〈番外編〉+〈おまけマンガ〉という構成になっていますが、それぞれの短編にはそれぞれに主人公となる人物が登場します。しかし、それぞれの主人公たちが働くのが『景凡社』という出版社であることもあって河野悦子がさりげなく登場します。こんな感じです。

    『目の前で校閲部の河野悦子が、憐憫の眼差しで傷心の俺を見ながらゲラゲラと笑っている。たいへん器用な表情筋の持ち主である』。

    この一文をもってだけでも河野悦子という人物の強烈さが感じられますが、一方で、『目の前で…』という表現からもあくまで主人公は別にいることがわかります。そんな各短編の主人公たちは以下の通りです。

    ・〈第一話 校閲ガールのまわりのガール・森尾〉
    → 森尾、編集部、悦子の同期

    ・〈第二話 校閲ガールのまわりのガールなんだかボーイなんだか・米岡〉
    → 米岡、校閲部、悦子の先輩

    ・〈第三話 校閲ガールのまわりのガールというかウーマン・藤岩〉
    → 藤岩、編集部、悦子の同期

    ・〈第四話 校閲ガールのまわりのサラリーマン・貝塚〉
    → 貝塚、編集部、悦子の同僚

    ・〈第五話 校閲ガールのまわりのファンジャイ〉
    → 茸原渚音、校閲部部長、悦子の上司

    いずれの主人公も校閲部もしくは編集部に所属する面々ですがそれぞれに個性豊かな存在感を発揮してくれます。『今の生活が不満なわけではない』と思うも『どうして景凡社にいるの?』という問いに答えられない今を思う森尾、『俺、何やってるんだろうなあ』という日々の一方で自らの仕事に対するこだわりを見せていく貝塚、そして『今の僕にとって掛け替えのない、愛して止まぬ城だ』と校閲部の今を作り上げてきた茸原と、それぞれの主人公はさまざまな思いの中に社員としての今を生きています。これは、会社員の方であればそれぞれに自らの仕事を思うのと同じです。決して彼らが特別というわけではありません。だからこそ、そこに描かれていく物語に自分に近い人を見つける楽しみがあるようにも思いました。

    『景凡社校閲部の後輩、河野悦子、通称河野っちは口の中でチュッパチャプスをバリボリと嚙み砕きながら興味なさそうに言った』。

    「校閲ガール」のシリーズ第二作となるこの作品では、シリーズ通しての主人公である河野悦子の同僚や先輩、そして上司に短編ごとに光が当たる物語が描かれていました。前作同様に短編冒頭の”編集メモ”や、宮木さんが原作された10コマからなる〈おまけまんが〉の収録など読者を楽しませる工夫に満ち溢れたこの作品。出版業界の裏側を垣間見ることのできるこの作品。

    前作同様、ポップに彩られた表紙が作品の印象を強く印象付けていく、そんな作品でした。

  • オシャカワこと前作主人公の悦子は脇役となり、他の登場人物の視点から語られる短編連作集(スピンオフ作品)。個人的には男性陣(?の人もいるが)の話がお気に入り。実はある使命感を持って仕事している貝塚に感情移入。ちょっと毛色は違うかもしれないが、今は認知されていないが、世の中のために新しいことに取り組んでいる会社や団体に投資する感覚に近い。自作も楽しみ。

  • いわゆるスピンオフ。

    結構テイストの違うお話が並んでいて、同じトーンでは読めなかった。
    個人的には女性陣のお話が好きだった。
    適材適所を考えた時に、自分がより「らしく」いられる雑誌から声がかかり、今の場所を見直す話とか。
    自分らしい自分を彼氏に受け止めてもらっていると思っていたら、実はズレていた、とか。
    まあ、こう書くと軽い!(笑)
    けれど、働く女性にとっては気軽にぶちあたる悩みなのかもしれないなー。

    校閲のどうこうよりは、働き方や関わり方で、分かるわーと思わされる一冊。
    解説での作家さんの校閲へのあれこれが面白い。
    解説をシリーズ化して欲しいくらい。

  • T図書館 2015年
    個性的な会社の人の番外編

    《感想》
    東大卒の藤岩さん、同僚の河野悦子に対する妬みがよかった
    99「あんな、見た目ばっかりで頭が空っぽそうな女に私が負けるなんて許し難い。そんなわけで、服を買った。」

    その他は、作家の宮元彩子(みやもとさいこ)が暴れていると著者を彷彿させる自虐ネタ?があったり、下ネタが多くなってドタバタ感が強かった

  • 米岡さんの話を読んで、好きになった相手から他の相手へのプロポーズの相談をされるなんて、私だったら目の前が真っ暗になってガラガラと崖が崩れ落ちる様な思いがするな、と思った。
    何かを生み出す職業は大変だな。作家さんなら物語が浮かばなければ出版に繋がらないし、それは生活していけないのだから。貝塚さんが1人の作家さんを見放さずにいた事が意外だった。

  • 校閲ガールに登場した人物達のスピンオフ集。主人公の河野とは視点が変わるとどう見えるか、河野ははっきりとした価値観で動いていると思うが、そんな河野を周りはどう見ているかが感じられて面白い。
    人によって考え方が違うこと、人の背景まで想像するのは難しいが、みんな色々あるんだと言うことを再確認できる。
    単体でもそれなりに面白いが、校閲ガールに厚みをもたせるためのエクスパンションパックみたいなかんじ。

  • シリーズ二作目。

    主人公である河野悦子はほとんど登場せず、彼女の周りの人物にスポットを当てた、スピンオフ的な作品集。

    出版社に所属する人たちの、仕事に対する様々思いが興味深く、読んでいるとつい応援したくなってしまいます。

    また、小説を通して未知の仕事に想像を巡らせる楽しさもありました。

    時に、重さを感じる内容ですが、敢えて軽快さを強調しているところも、このシリーズの特徴で、未来に対して希望を失わず、前向きな気持ちになれる、そんな一冊です。

  • 校閲部の同僚、文芸編集者、大御所作家…校閲ガールのまわりも大変で! 日々の仕事への活力が湧く、ワーキングエンタメ第2弾。『ダ・ヴィンチ』、ウェブサイト『ダ・ヴィンチニュース』掲載に書き下ろしを加えて単行本化。

    あり得ないよなぁと思いながら楽しめました。

  • ちょっとスピンオフみたいな感じで今までの登場人物がそれぞれ主役の短編集。みんないい人だし、できる。。解説が唯川恵さんなのが嬉しい。

  • 悦子のまわりの人たちのお話。かなり前に読んだので誰だっけ?って忘れてるとこもあったけど、それでも引き込む宮木さんの小説の凄さ。

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著者プロフィール

1976年神奈川県生まれ。2006年『花宵道中』で女による女のためのR-18文学賞の大賞と読者賞をW受賞しデビュー。『白蝶花』『雨の塔』『セレモニー黒真珠』『野良女』『校閲ガール』シリーズ等著書多数。

「2023年 『百合小説コレクション wiz』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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