モモコとうさぎ

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041061619

作品紹介・あらすじ

モモコ、22歳。就活に失敗して、バイトもクビになって、そのまま大学卒業。もしかして私、誰からも必要とされてない――!?
そんなやり場のなさから、ひたすら、ちくちくと縫い物に没頭する日々。ここに籠もって、暗い現実を、なんとかやり過ごせたら。でもそうは問屋が卸さない。家を出る羽目になったモモコは知り合いの下宿を転々とし、3Kの肉体労働にも黙々と従事し、明日をも知れぬその日暮らしを続けるうちに、肌身離さず持ち歩いていたぬいぐるみのうさぎに導かれるように、いつしか自分のルーツともいうべき場所に漂着していて――。
外国人労働者、格差社会、限界集落、地方の共同体、超長寿社会……
のっぴきならない現実をつぶさに目の当たりにし、いかに自分が非力かを痛感するたび、自分が傷だらけになって崩壊していきそうで、とにかく怖くて。それでもその場その場で、野草のように地面に根を張ろうとするかそけき女子の意外にタフな生命力。
就職とはなんぞや。働くとは、生きるとは――。
寄るべない気持ちで、たゆたうように現代を生きるすべての若者の、云うに云われぬ不安と憂鬱と活路を余すところなく描き出した人生応援歌!

感想・レビュー・書評

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  • 大島さんの作品は『ピエタ』『あなたの本当の人生は』につづいて三作目。

    就職に失敗し、バイトもクビになったモモコは家に引き込もって自分の部屋でひたすら縫い物をするようになる。
    義姉だったハルミちゃんにもらったうさぎのぬいぐるみにもふかふかの服を作ってあげた。そうそう、このうさぎは特別な能力があるらしい。
    うさぎの服だけでなく部屋中がモモコが作ったもので満たされていて満足感を感じていた。でもそんな生活は長くは続かず、何となく部屋を覗いた売れない小説家の義父に挑発されるように、モモコはうさぎをリュックに詰め込んで家を出たのだった...。

    そこから始まるモモコの流浪の旅。
    様々な人と出会い、ある人には追い出されるように、ある人とは名残惜しげに別れる。自己表現に乏しく流されるままに生きてきたモモコの前に現れる一筋縄ではいかないキャラクターたち。彼ら彼女らに触発されながらふわふわとモモコは考える「働くって?」。

    何にも取り柄がない。世界から忘れ去られている、と感じるモモコが、最初はフラフラとした足取りで、しかしだんだんと自分のペースを作っていく過程が頼もしい。

    さてさて、モモコとうさぎの旅はどこに流れ着くのか。

    緻密なうさぎのイラストの白い表紙も素敵です。

  • 就活に失敗し引き籠って縫い物をしていたモモコが、現在の父親との会話をきっかけに家出し、不思議な雰囲気を持つうさぎのぬいぐるみと一緒に放浪を繰り返す物語。

    現実に「地方には仕事がない」と言われているけれども、それは求人がないという限られた意味合いかもしれないということに気づかせてもらった。モモコが色々な「仕事」を経験していったように、地方にも人手が必要な場面はいくらでもあって、給料という生きる手段の代わりに生きることそのものが得られる可能性は多くあるのだろうと思った。

    常にモモコと行動をともにするうさぎが要所で存在感を示しつつ、一歩引いたところで物語と馴染んでいるのも示唆的だと思った。

  • 30年前の20代は「モラトリアム世代」と言われ、今の20代は自分探し世代を呼ばれる。
    自分には何の仕事が向いているのか、自分は何をやりたいのか、そもそも自分とは何者か?
    いつになっても社会に出ていくその一歩は20代そこそこの者にとってはひとつの大きなハードルで。そのハードルをなんなくするっと超えていく人と、そこで躓いて立ち止まって前に進めなくなったり後戻りしてしまったりする人がいる。
    自分のそのころを振り返ってみると、ハードルがあったことさえ気づかずに通り過ぎてしまったみたいでモラトリアム世代失格だな、もっと悩んでおくべきだったな、とつくづく思う。
    モモコは就職に失敗して、ハードルの前からじわじわとコースを外れて行ってしまったわけだけど、そもそもモモコにとってはそのハードル自体がみんなとは違っていたんじゃないかと思ったりもする。考えが甘い、というのはあるとしてもいろんな意味で「今いる場所」から「外」に出るべき時であったのだろう、と。巣からの旅立ち。まぁ誰にとってもそうであるのかもしれないけど。
    モモコがその特異な半生を特異だと思わないまま22歳まで来られたのはある意味幸せだったのだろうけどその幸せのリミットが22歳だったのだろうね。そのリミットをしかけたのがうさぎなんじゃないか、と思ったりもして。
    うさぎネットワークでつながったうさぎたち。これは物語の中ではすこし後ろに隠れているけど、ものすごく広くて大きな何かを含んでいるんじゃないか。だってネットワークですよ。天才的な研究者によって莫大な資金を投じて開発されたネットワークですよ。もしかするとコレは壮大なSFなんじゃないでしょうか。日本国中にばらまかれたうさぎたち。彼らがパワースポットを通じていろんな人の動向を共有している。
    この人とこの人を会わせると何か面白いことが起こるかも、とか、この人にはこの時まで自由に動いていてもらおう、そしてビッグバンを起こしてもらおう、とか。そんなことをうさぎたちのネットワークで計画立てあっている。モモコにとってはそれが22歳の1年間。
    うさぎによって導かれた出会いと動き出した人生は、日本中のモモコに今後もたらされるべきテストケースだったのかもしれない。あるいはモモコが感じたパラレルワールドにその都度入り込ませていたのか。別の人生を歩んでいるはずのモモコと入れ替わらせていたのか。

    モモコが出会っていく人たちも、なんだかとっても変わっている人ばかりでそれもいつもの大島さんらしくてうれしい。なんでこんな変な人ばかりと出会うのか。呼び寄せているのか、モモコが。いや、やはりこれもうさぎだ。うさぎが呼び寄せているんだ。
    あぁ、でももしも他の誰かがみね婆やメリーやりるさんと出会っていてもこんな風にはいかなかったかも。ただ出会ってすれ違って別れていくだけの関係だったかも。そこにはやはりモモコと引き合い影響し合い別の道へと押し出してくれる何かがあったから。磁石の+と-の関係のように。もしくはブロックの凹凸のように。だからやはりこれはあのときうさぎをもらったモモコにしか起こりえない物語で、ひとつのモモコの人生の物語ということなんだよね。

    物語の中にいくつもの大きな問題が描かれている。就活、ブラック企業、過疎の村…誰もがいつかどこかでかかわることになるそんな問題たち。もしそのときにこのモモコの物語を思い出せたら、多分きっと少し心が軽くなるんじゃないか。そんな気がする。

  • 直木賞取ったからなんか読んでみるかと思ったら、すでにて目覚めない朝が来る」「ピエタ」の2冊読んでいました。てっきり初めて読む作家さんだと思っていました。最近誰の本読んでいるか気にしていないのでこういう事は良くあります。
    可愛い系の本かなと思いきや、ホームレス女子の彷徨といった趣きで読み応えありました。
    流されるままに流されていく自己主張のない主人公が、次々に住みかを変えながら色々な人に寄生して生活するのですが、主人公なのに読んでいて超イライラします。主体性が無くてとりあえず今何とかなれば後は目と耳を塞いで眠っていたいという、絶対に出会いたくないタイプです。
    しかし、色々な人に出会うごとに自分の出来る事と向き合う事になり、彼女が考えていた「仕事」というものの考え方が変わっていく所が胸熱です。
    掃除と縫い物という特殊能力が有れども、就職という事から考えると無きに等しいというこの現代の就職事情。何を「仕事」と考えるかで見えてくる風景が変わるというのは、まさに先日読んだ本の「しょぼい起業」に通じる話だなと思いました。
    いい本です、お勧めです。

  • 就職に失敗したモモコが引きこもりになって縫い物ばかりする.「ちくちくちく」という音がとても効果的に使われる.そして,やたらと開発費のかかったといううさぎをリュックに入れて家を出る.友達,兄,亡くなった父のお墓,桃源郷などを転々としながら自分探しの旅は続く.最後までウサギの存在が謎だった.

  • 可愛らしい放浪の旅なのかなぁ
    謎は謎のままに
    続きが知りたい

  • 結局、うさぎはなんだったの?
    複雑な家庭で育った主人公が、就活に失敗。流れるままに友人たちの元で居候し、将来を考えていく…んだけど、こういう半分人任せのだらだしたタイプが苦手なので、半分嫌悪感混じりに読んだ。
    最後もなんとなくたどり着いた感があり、まるで消去法で選んだかのような覇気のなさ。世紀の大発見!なうさぎも回収されることなく。不完全燃焼系の話。

  • 図書館より拝借の初作家さん。素敵な放浪記。思い立ったが吉日、と動いているつもりなのに、この作品を読んでいると、常日頃、ちょっと先を見越して枠を設けて行動してるんだと思い知らされた。先を考えずに出来ることを丁寧に。久しぶりにちくちくしたくなった。そして、読みたい作家リストに加わった♪

  • 義父親の無言の無職に対する圧力に家出をする。最初の頃は内気プラス自己中だったモモコが流れに任せて行く先々で世話になりながら、しかも仕事とは、お金とは、世間の稼ぎ方ではない報酬、物々交換、そして問題となっている過疎化の村や過疎化を防いで活気ある町にした場所へと流れていく。年寄りばかりの村では皆が諦観していて死にゆくまでは誰の世話にもならないように頑張っている姿、活気ある町では若い人が集まるよう宿を安くする代わりに必要な時は助けてもらう桃源郷にピッタリ。そこで自分が打ち込めると分かった裁縫を極めようとこれまた人に頼りながらモモコは裁縫の学校に通う事にする。人に恵まれてモモコは自己を確立していく。焦りも不安もなく、冷静に自分を見つめるモモコが羨ましい。

  • 就活に失敗した女子大生モモコがうさぎと一緒に家出するお話し。
    ずっと私の中のモモコのイメージは、大好きな大園桃子だった。不器用だし頭も決していいわけでもないし自信もないけど不思議な魅力がある子。
    初めは友達の家を転々としては追い出されてばかりだったモモコが、少しずつ自分の役割を見つけて居場所を作っていく。
    ストーリーの終盤でやっと見つけた「好きなこと」が縫い物であり、その道へと進む新しいスタートで幕を閉じるところも、大園桃子と何となく重なるのだった。

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著者プロフィール

1962年名古屋市生まれ。92年「春の手品師」で文学界新人賞を受賞し同年『宙の家』で単行本デビュー。『三人姉妹』は2009年上半期本の雑誌ベスト2、2011年10月より『ビターシュガー』がNHKにて連続ドラマ化、2012年『ピエタ』で本屋大賞第3位。主な著作に『水の繭』『チョコリエッタ』『やがて目覚めない朝が来る』『戦友の恋』『空に牡丹』『ツタよ、ツタ』など。2019年『妹背山婦女庭 魂結び』で直木賞を受賞。

「2021年 『モモコとうさぎ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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