ゴーストリイ・フォークロア 17世紀~20世紀初頭の英国怪異譚

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041083260

作品紹介・あらすじ

英国怪談の第一人者であり、古典に精通する著者が、英国・アイルランドの奇妙な物語を厳選して紹介。人の死を予言する屍蝋燭や音声妖怪、黒い犬の話、海の妖精。衒学的な怖さとユーモアに満ちた奇想天外な随筆集。

感想・レビュー・書評

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  • 17世紀~20世紀初頭の英国怪異譚を、紹介する随筆集。
    雑誌「幽」に連載された作品を改稿している。
    全18話。文字と挿絵は紫色で統一。
    自らを“吾輩”と称し、7世紀~20世紀初頭の好事家の如くの
    口調で語る、英国怪異譚中心の随筆です。
    「幽」の読者を対象にした随筆と作品紹介なだけに、
    マニアックで専門用語をちりばめていますが、
    純粋に怪奇譚として楽しむのには、興味深い内容でもあります。
    幽霊、魔所、異人への偏見と恐怖、宗教、地獄、古き神々、
    ファム・ファタル、妖精、さわりの木、屍蝋燭等を語り、
    加えて、そこはかとなく翻訳家の矜持を示しているのも、良い。
    特に、バラッドとロバート・バーンズのタム・オ・シャンタが
    楽しめました。「モンティパイソン」でロバート・バーンズの
    パロディを観て興味を持った過去が懐かしいなぁ。
    知らない&名前だけは知ってる作家や詩人の紹介は、
    更なる英国怪異譚の世界を広げてくれました。
    あとがきの「幽」の思い出も楽しかったです。

  • 最初は本文の間にある編者の解説がうっとうしかったが、慣れてきたらそう悪くないと感じるようになった。集められた作品は基本的に好みのものが多くて気持ちが休まる。

  • 吾輩こと南條氏が、解説しながら英国の怪異譚を紹介する。
    イギリスの怪異文学を読む道しるべ。

    イギリス人にとっての怪異譚は、日本人にとっての俳句や短歌のようなものなのかしら。
    バラッド:口承文芸


    「アイルランドの「杜子春」物語」
    …親を思う日本の杜子春に対し、子を思う気持ちに負けたのが中国の杜子春だそうだ。
     アイルランドの杜子春は帰らず、稀に姿を現す人となる。
     不老不死を願う。対価は?

    「みんな女の子」
    …気まぐれにあちこちで悪戯をしかける女の子の幽霊。姿も年齢も、相手の心の中を写しとる。

    「魔性の恋人」
    …バラッドの紹介
     女性の弱さと恐ろしさ
     ただ、魔女と呼ばれた女性の弱さと悲しみも思う。

    「栄光の手」
    …猿の手は、ここらへんの怪異譚に触発されたのかな。

    「迷いの森」
    …近寄ってはいけない場所。伝説がうごめいている。

    「リンカーンのヒュー」
    …異人への偏見と恐怖と、差別と排斥の正当化への下敷きとなる物語。どの時代の国も人も。白になり黒になる憎しみの連載。

    「コリンナについて」
    …詩人が狂気の果てに手にしたかったもの。煙の向こうに見たもの。

    「地獄の章」
    …水木しげるの描く地獄は、冥土に近い。
     キリスト教の地獄
     ギリシア神話の地獄
     ダンテ『神曲』の地獄
     ミルトン『失楽園』の地獄
     地獄の支配者は悪魔か、それとも神か。

    「ウイスキーと悪魔」
    …昔話や民話に出てくる悪魔と酒の話は、なんか憎めなくて好きなんだけど。
     イングランド人に詩人バーンズを褒められると怒るスコットランド人
     酔っぱらいがうっかり悪魔達の集まりに出くわして、うっかり色っぽいお姉さんに歓声をあげて、賢い馬に助けてもらう。
     現在も、有名どころの世の男性諸氏も、酒とオンナで失敗してる人多いよなあ。このお話、読んでたらよかったのに。

    「海の魔法」
    …海の老人が語る、恐ろしく美しい海の人たち。
     海の人に陸の心求めてはいけない。
     古代ケルトの神々の復活

    「おとこごろし」
    …ファム・ファタル…命取りな女。奪命佳人
     囚われた男たちの、囚われようとしている男への警告は、遅かった。

    「帰ってきた死人たち」
    …死者の残した肉親への愛情。ジェントル・ゴースト
     息子を亡くした母への愛情。
     亡くしたものを嘆きすぎると、旅立てなくなる。

    「木にさわる男」
    …touch wood 縁起担ぎ
     触らずに、すがらずにいられないもの。その妄執に囚われた男。

    「屍蠟燭の話」
    …死の前に現れる火の玉。
     屍蠟燭にイタズラを仕掛けて、しっぺ返しをくらった男。
     面白半分に屍蠟燭に近付き、殴り倒された男。
     屍蠟燭の葬列を見た男。
     聖職者の語る怪異。
     キヒーラス:人の死を前触れするもの悲しい音。

    「人と人魂と魔法使い」
    …妖犬=黒い犬、地獄の猟犬、妖精の猟犬、空の猟犬
        狩りと魔
     人魂
     …足元を転がっていく人魂の話
     …帰宅途中の女性を怖がらせる話
     魔法使い
     …盗人の名を聞くために、異形のものを召喚する話
     …五芒星の内か外か。
     …悪魔祓い

    「打倒されしサドカイ派」
    …ユダヤ教の一派。天使や霊魂の存在を信じない。懐疑主義者、物質主義者。
     魔女狩りに異議を申し立てるサドカイ派に対し、魔女や悪魔、超常の力の存在を証明する。
     娘に呪いをかけた“魔女”への近所の人間による証言。
     下宿のおかみさんにかけられた呪術を返した証言。
     海軍大尉の見鬼
     菊花の契りのような証言。
     神の奇蹟の証言。

    「見えない幽霊」
    …オーストラリアで一番有名な幽霊はフィッシャーの幽霊→自分を殺した男を告発する。
    …イギリス。ウオルダーバーン氏の屋敷の扉を毎晩叩きにくる幽霊。
     幽霊の晩餐会

    「老水夫行」
    …サミュエル・テイラー・コールリッジ:文芸バラッド
     婚礼の宴の前、若者の手を取り、身の上話をはじめる老人。
     吉兆のアホウドリを矢で射てしまった。
     風のない海をこちらに、向かってくる船。
     他の200人の船乗りに呪われる自分。

  • 雑誌「幽」に連載していた随筆をまとめたもの。イギリス17世紀~20世紀初頭の民間伝承や文学作品を、テーマに沿って気ままに紹介してくれる読み物。
    随筆そのものの語り口といい、紹介される作品達に合わせた装丁のデザイン、特に本文のデザインが雰囲気にマッチしていて秀逸。フォントの選び方からレイアウト、紫のインクで刷ってる文字から漂う香気。目で楽しめて読んで楽しい一冊です。

  • 『幽』に連載されていた、怪奇小説の紹介エッセイ+翻訳という、いっぷう変わった散文が単行本化。
    造本の美しさ、色刷り本文の手触り……兎に角、『所有欲』を満たしてくれる。版元は角川だが、国書の本と言われても頷いてしまいそうだ。大手版元からこういう本が出るようになったのは嬉しい。

  • 怪異譚と銘打ってあるけど、南條先生のエッセイが半分を占めている。
    とはいえ、紹介する作品についての知識や時代背景、作者などにも言及していて、また背景を知らないと南のこっちゃ!という作品もあるので、勉強にもなった。
    キリスト教世界に身をおかない日本人にはわかりにくいところもやはりあるので…。
    詩やバラッドだと怪異と一見結び付かんですし。
    古い古いケルトやらの雰囲気を匂わせた幻想的なものや、死のにおいが色濃い陰鬱なもの、霊的なものを証明するために集めた実話怪談など、いろいろな怪異譚も楽しめて、南條先生のエッセイ・解説付きというお得な一冊?
    個人的なお気に入りは「地獄の門」と「老水夫行」。

  • はじめにタイトル、取り寄せてみたら装丁でがっちり心をつかまれた。カバーにはおさえたパールの光沢と金の箔押し。怪しく繊細なイラスト。紫の字。手に取るとなんだか、猫脚のテーブルとチェア、アンティークのティーセットとケーキスタンドでティータイムとしゃれこんでいる気分になれる。
    そして帯。わりとこだわらないタイプだけど、最近は外さずそのままにしておきたいものが増えた気がする。これも情報量とシックな味わいが素敵。

    『幽』で連載していたという英国幽霊譚がテーマの随筆集。小説じゃなくても、別の回で言及した作品や著者にまた触れるということはよくあるから、連載がこうしてまとまった形で読めるのは嬉しいよね。こんなに綺麗な本になるならなおさら。
    著者がその回ごとに色々な作品を紹介してくれるのだけど、掲載誌の影響もあってかユーモラスで軽快な調子で、読んでいながらにして聴いている感じになれるのがいい。おかげで出てくる作品みんな面白そうでとても気になる。著者基準でちょっと珍しいものを紹介するのが基本だから、メジャーどころはほぼ前提で、不案内な私には「そこも詳しく!」という気持ちもあるのだけど、その物足りなさを補って余りある充実ぶりだった。「地獄の門」とバラッドがとても気になる……特に「タム・オ・シャンタ」。おまけに話の導入やちょっとした小ネタに、芥川龍之介や尾崎翠、田山花袋がいたりする。『こおろぎ嬢』は読まねば。
    『妖精についてのおはなし―新・妖精学入門―』で紹介されていたものも時々出てきてさらに嬉しい。「La Belle Dame Sans Merci」は「情け知らぬ美しい人」に一票だなあ。

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著者プロフィール

1958年東京都生まれ。作家、翻訳家。著書に『酒仙』(新潮社)、『怪奇三昧』(小学館)、『ゴーストリイ・フォークロア』(KADOKAWA)、訳書に『英国怪談珠玉集』(国書刊行会)、アーサー・マッケン『輝く金字塔』(国書刊行会)、M・R・ジェイムズ『消えた心臓/マグヌス伯爵』(光文社古典新訳文庫)、M・P・シール『紫の雲』(アトリエサード)、H・P・ラヴクラフト『インスマスの影』(新潮文庫)などがある。

「2022年 『手招く美女 怪奇小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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