オオルリ流星群

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041085660

作品紹介・あらすじ

「あのときのメンツ、今みんなこっちにいるみたいだぜ」「まさか、スイ子か? なんでまた?」スイ子こと、山際彗子が秦野市に帰ってきた。手作りで太陽系の果てを観測する天文台を建てるというのだ。28年ぶりの再会を果たした高校時代の同級生・種村久志は、かつての仲間たちと共に、彗子の計画に力を貸すことに。高校最後の夏、協力して巨大なタペストリーを制作した日々に思いを馳せるが、天文台作りをきっかけに、あの夏に起きたことの真実が明らかになっていく。それは決して、美しいだけの時間ではなかった。そして久志たちは、屈託多き「いま」を自らの手で変えることができるのか。行き詰まった人生の中で隠された幸せに気付かせてくれる、静かな感動の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 高校の文化祭で、校舎の壁に1万個の空き缶を吊るして、巨大なオオルリを浮かび上がらせた6人のその後の45歳での話。一人は自殺かもしれない事故で死んでいる。もう一人は仕事に疲れて引きこもりになっている。6人の一人、彗子の私設天文台を作る計画に、修、千佳、久志が協力することで物語は動き出す。天文台の完成によって現在や過去のそれぞれのわだかまりが見事綺麗に昇華される。ああよござんしたねえ、という感想になっちゃうなあ。
    2019年の「掩蔽を利用した微小カイパーベルト天体の探索」についての報告が、この小説を書くきっかけになっているとか。いかにも伊予原新らしい。

  • "天文学"という言葉を久しぶりに目にしました。
    最近は"宇宙"物理学のような名称を使用することが多く、調べてみたところ"天文学科"があるのは東大だけみたいです。
    つまり、東大の天文学科でやっていることが天文学ということになるんですね。

    夜空を眺める話題の中にしばしば出てくる"天の川"という存在。
    子供の頃は東京(中野区)でも"天の川"は見えたし、星座の本を見ながら星座も見つけられました。
    北斗七星を探してから、北極星をみつけていた頃が懐かしく思い出されます。

    今は都心では1等星がやっと見えるくらいの感じなので星を眺めることも少なくなりました。
    星に魅せられて"天文学者"になりたい!と思う子供は随分減っているのでしょうね。

    本書は、太陽系の起源の解明につながる冥王星のような純惑星と呼ばれる小天体を見つけるための個人の観測所を作る物語です。
    「エッジワース・カイパーベルト」と呼ばれる小天体や塵の集団の観測が進んでいることは知りませんでした。
    伊与原新さんの作品は、このような話題を提供してくれるので好きです。

    冥王星は1930年に見つかって、2006年に惑星から外されました。
    ホルストの"惑星"が作曲されたのは1916年だから冥王星はなくて当然なのですね。

    天体と関係ない話題で魚の解剖を行うシーンが出てきました。
    「胃の内容物を、生物とプラスチックごみに分けて並べてみましょう」
    実際にこんな授業をしている学校はないと思いますが、
    魚の生息域にどんなごみが漂っているかが分かる、という環境教育に使っているんだと思いました。

    他の科学の話題では、オオルリの巣作り、アマチュア無線に触れられていました。

    物語としては45歳になった高校時代の同級生が地元で再会して、皆で天体観測所を作る話なのですが、45歳というのが絶妙な年齢だと感じます。
    45歳までの人生と、45歳以降の人生というような一つの分岐点になるような年齢だと言えます。

    このまま50歳、60歳と今の仕事を続けていけるのかという不安と、新しいことにチャレンジするには失敗の許されない年齢でもあるし、何より現状維持で精一杯だったりする。
    現代の働き方について考えさせられるような話でもありました。

    ユーミンの「ジャコビニ彗星の日」を聞き直しましたが、まさに本書のテーマソングとしてふさわしい曲ですね♪

  • 人生の折り返し地点を過ぎた45歳の大人たち。何かとこれまでの人生に思いを馳せ、この先の人生に対して不安を抱えるお年頃。思春期ならぬ"思秋期"ともいうらしい。
    みな高校時代の同級生。卒業してから28年、というと随分昔に思えるけれど、いざ集まってみると途端にあの頃に戻ってしまうのだから不思議で貴重な関係だ。

    高校3年生の夏に巨大な空き缶タペストリーを作り校舎の壁面に吊るした"青い"思い出を共有する面々が、今度は手作りの天文台を建てることに。一見するとロマンチックな話で終わりそうになるけれど、そこは伊与原さん。東京大学大学院で地球惑星科学を専攻されていただけあって、専門用語も沢山登場して実に本格的(素人にはちょっと難しかったかも…)。
    夜空をただ眺めてもはっきりとは見えづらい星たちも、知識を集結すれば星を見る方法もいろいろあることも新鮮で驚いた。

    45歳の日常は悩みが尽きなくて、18歳の頃に思い描いていた人生とはほど遠く、こんなはずではなかった、とため息ばかりのことも多いのが現状。けれどそれまで培った経験や知識を活かした大人なりのやり方もあるのだ、とこれからの人生に向けて背中を押してもらえた物語だった。

    主人公たちとは年齢が近いせいか、高校時代のエピソードや現在の仕事や家庭などの悩みに共感。
    作中出てきたユーミンの『ジャコビ彗星の日』を聴いてみた。しっとりとした曲調とユーミンの切ない歌声がノスタルジックさを煽って、今作にとても合っていた。とても素敵だった。
    そしてこの表紙。こういう天文カフェなんだとうっとり。

  • 伊与原さん3冊目。理系が楽しめる内容というよりも人間関係や登場人物の心情を追うと切なくなる。高校3年生の時に作成した空き缶タペストリー。45歳になったこのロスジェネ世代の男女が、再会し小さな天文台作りに挑む小説。天文学者、薬剤師、弁護士志望、高校教員、そして引きこもり。異なる人生を歩んできた30年間は長いようで短い。お互いの人生についてのカタルシスと天文台作成。その先にはオオルリと流星群。幻想的な光景と現実の45歳の人生。この対比が明確で奥行きを感じた。今後の彗子の人生は天文台とともに明るくなるはず。⑤

  • 45歳の夏物語の一冊。

    高校時代の仲間との再会が導く45歳のひと夏の物語はまるで28年前の仲間との光を今、受け取るようでしんみり沁みてくる。

    目標に向かってただがむしゃらだったあの時とは違い、それぞれが自分の輝きを見つけるために、その見つけた輝きがきっと自分の心を満たしてくれると信じて向き合っている様が柔らかく時に羨ましく琴線に触れて泣けてきた。

    大人になってからわかるあの時、大人になってから得る事ほど価値があるに違いない。

    時々星が瞬くように、天体と人生を絡めた言葉が耳に心に心地良く届く。
    もちろんコーンと共に。

  • 四十五歳になっても、再び集結した同級生達が同じ目的のために進んでゆく姿が眩しく映った。私にはそんな情熱を共有できる仲間がいるだろうかと、考えさせられた。心情的には久志が近く、それだけに読んでいて苦しい部分があった。

  • 国立天文台の研究員だった〈スイ子〉こと彗子が、秦野に戻ってきた。
    久しぶりに集まった同級生を前に、天文台を作ると言い出し……。

    高校3年生の文化祭と、45歳の現在、ふたつを軸に進む。

    だんだんと明らかになる、空き缶タペストリーの顛末と、その後の事件。
    単純にキラキラな想い出ではなく、その陰が見える。

    長い年月を経ての現状と、それぞれの悩み。
    葛藤がありつつも、最後は学生のノリで、さわやか。

    彗子がやろうとしている研究システムは、実在するモデルがあるとのこと。
    高い予算をかけた大規模設備ではなくても、こんな発見ができるという事実に、夢がある。

    夫婦共に教師で共働きなのに、千佳が「主婦が毎週末遊び呆けて」と嫌味を言われるのは、引っかかる。

  • 伊与原新さんの長編小説。
    四十五歳大人達によるひと夏の青春物語。
    高三の文化祭でクラスの展示物制作を担当した五人の仲間たちは、メンバーの一人である彗子の展望台建設を応援すべく、再び集結する。

    四十五歳という人生の折り返し地点に立つ五人は、それぞれが仕事や家庭に悩みを持つ。表向きは彗子や梅ちゃんのために協力しているように見える他の三人にとっても、展望台作は前に進むための一つのきっかけとなる。

    展望台建設のなかで見えてきた親友の死の理由。完璧に見えていた彼が抱えていた苦悩。そして全てを見通す強い女性だと思っていた彗子の人間らしい一面。彗子の口から過去と秘密が語られる場面は、その孤独な日々を想うと切ない気持ちになる。

    "みんな、同じだ。こんなはずではなかった。なんでこうなってしまったのか。ときにそんなため息をつきながら、四十五歳を懸命に生きている。 十八歳のときに思い描いていた人生とは、まるで違う日々を。"
    四十五歳の青春は、十八歳の頃の青さがない代わりに、たくさんの経験から刻まれた皺と傷があり、青春小説とは一味違う重みと切実さがあった。共通しているのは、一つのゴールに向かって協力する楽しさは、いくつになっても味わえるということ。

    私は中学高校大学就職と全て違う都市で過ごしており、過去の交友関係が希薄だから、彼らのように再集結し、同じ目標に向かって何かをするというのはとても羨ましいものに感じられた。また、中学高校の頃は自我が剥き出しで意見の衝突も多いが、四十五歳にもなると角が取れて穏やかに協力し合えるのもいいなと思った。

  • こう言う作品は分かりやすくて好きだなぁ♪
    高校最後の文化祭イベントで少人数ながらも空き缶1万個の巨大なタペストリーを校舎外壁に完成させて達成感を共有した仲間達も今や人生の折り返し点を過ぎて、各々の道に疑問やわだかまり等を抱える45歳になった。その面々が何故だかとある目標を共有することになって汗と涙する物語。

    群像の設定がお定まりとは言えなかなかよく出来ていて感情移入のし易い作品に仕上がってますネ。

    あるようでいてホントにはなかなか無い高校時代の緩そうで固い絆の持続性が何だか羨ましい展開で心地良いです。

    著者ならではの天文学知識あるあるいっぱいで、素人にドが付く私も興味深く読ませていただきました。
    著作のきっかけが2019年に某小さな研究チームが市販小型望遠鏡を使って極小天体を初めて発見したという素晴らしい挑戦と成果に感銘を受けての事だと後書きに書かれていますが良い作品になりましたね!

  • 私が読む、著者の作品の2冊目。

    数人メインの登場人物がいる中で、その内の久志と千佳の章が交互に配置される構成となっている。

    久志の1章で、夫がこんな感じだと妻の和美は嫌だろうなとサブキャラの和美の方に肩入れしてしまった。
    45歳の主人公達の鬱々モヤモヤとした感情に、そんな年齢はとっくに過ぎ去った私はあまりついていけず、やや読書熱とスピードが低下。

    こういう時(この本を私は読み続けられるのかな?やめようかな?と迷う時)にたまにやることなのだが、一度他人様(ひとさま)のブクログレビューを少し拝見してみた。
    そして、読み続けることにした。

    千佳の2章で、千佳には惹かれたし、千佳だけが知っている恵介と和也についての情報も出てきたので、読み続けることができた。

    そして久志の3章の、彗子のプレゼン(著者あとがきから、たぶん本書のキモ)の数ページでまたも頓挫する。
    私は地学に興味がある方だが、流石に専門的過ぎて何言っているのかわからず、プレゼン箇所は読み飛ばす。

    その後、4章の彗星についての詳細や、やたらと細かい建築用法にもついていけないので、そういう箇所は読み飛ばす。
    作っている途中の天文台の構造も、図が無いと私には文章のみでは想像も理解もできなかった。

    しかし、しかしだ。
    最終章でユーミンの『ジャコビニ彗星の日』を聴きながら読み、最後には少し涙ぐんでしまった。

    調べてみると、今年の10月9日は月も明るいし流星の数も少なく、おそらく家から肉眼で空を見上げたところで観測はできないだろうということがわかった。
    でも、『10月9日』について何も知らずに、たまたま10月9日の直前に本書を読了したのはグッドタイミングだ。
    忘れなければ、空を見上げてみるつもり。
    (追記 忘れなかったが、思いっきり曇天だった)

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著者プロフィール

1972年、大阪府生まれ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。2010年、『お台場アイランドベイビー』で第30回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー。19年、『月まで三キロ』で第38回新田次郎文学賞を受賞。20年刊の『八月の銀の雪』が第164回直木三十五賞候補、第34回山本周五郎賞候補となり、2021年本屋大賞で6位に入賞する。近著に『オオルリ流星群』がある。

「2023年 『東大に名探偵はいない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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