日本沈没(下) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041091197

作品紹介・あらすじ

日本列島に驚くべき事態が起こりつつあるという田所博士の警告を受け、政府も極秘プロジェクトをスタートするが、関東地方を未曾有の大地震が襲い、東京は壊滅状態となってしまう。

感想・レビュー・書評

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  • 名著だと目にはしていたけれど…エンタメだろうと高を括っていた頭に鉄槌を受けた。映像作品に落とし込まれたものを一切目にしてこなかった私は「日本沈没をなんとか止める物語」だと、ハリウッド映画的な内容予測をしていたから。
    これほどの微に入り細を穿ったシュミレーションが50年もの昔に書かれていたとは。書かれた御本人が一番恐ろしかったのではないだろうか。地震が起こるたびに「このあと日本はどうなるか」なんて聞かれても「読んで考えろ」としか答えようがないと思うのだが…
    視点がとてもグローバルで、外から見る日本を少し理解できたと思う。

    地球内部の動きを、気象に当てはめて説明されるのは驚くとともにとっても面白かった。富士山が吹き飛び、日本が割かれ、没していく描写がリアルすぎて、いつも見ている富士山の方に視線をやるのが怖くなったほど。

    溢れ出る昭和感と今は使われない「裏日本」という表現に執筆当時の意識を感じた。良いも悪いもない。当時はそうだったのだから。
    日本民族のアジア諸国に対する優越感、豊かになりすぎて自分を見失う若者、官民の意識の差などは今もって横面を張り飛ばされるような鋭い指摘だと思う。

    最近の情勢も相まって、脱出する日本人の行く末を、どうしても受難の民族に重ねてしまう。
    日本人は民族として子供というのも頷ける。歴史を振り返れば、独立国としての今のあり様は不思議でしかない。多くの人の努力があった事は確かだけれど、綱渡りを幸運でもって渡っているという感覚がある。だけど平生、意識して生きていない。だからそれは守られている子供で間違いない。

    民族として安定するには国土が必要。それが物理的に無い。今ある以上感覚として理解できないが、考えるだけで背筋が凍る。絶対に体験したくない。

    「第一部完」で終わるとは知らず、驚いた。谷甲州共著の続編を読みたいと思うけれど、辛いものだろうな…
    タドコロ先生の熱っ苦しさ嫌いじゃないけど、こんな上司厄介だろうなぁ。オノデラさんは死んじゃうのだろうか…
    あぁ…もう日本は無いのだな…

  • Amazonオーディブルにて読了。 3.3
    1984、三体、プロジェクトヘイルメアリーとSFがマイブームになったので日本のSFもと思い1番有名?な日本沈没を読んだ。これまでのSFは宇宙や近未来の話だったが、この作品はほぼ現代の話でテーマも自分の専攻の地球物理ということもあり、没入感を持って読むことができた。物理モデルは難しくて理解怪しいけど。
    基本的には日本沈没に向けて、さまざまな人間が日本人を助けるために働く物語で、研究者、政治家、技術員などに焦点が当てられる。新社会人となる上で、理想的な日本人の職業人としてのあり方というもの感じれる素晴らしい作品だった。
    ワクワク感は上記のSF作品には及ばないが、リアルな怖さや働き方という面では良かったのでこの評価。日本人万歳!!!笑笑

  • もし国が消滅したら・・・敗戦の意味問い続ける

  • 地殻変動により日本列島で地震や火山の噴火が相次ぎ、最後には海面下に沈没してしまうというシナリオに突き進んでいく。

    ・不確定な未来に向き合うリーダーシップ
    ・社会情勢に興味を持たず、日常の延長が続くと信じたい心理
    ・国が何とかしてくれるだろうという無知な人達の環境依存
    ・有事の際における優先順位(命の選択)
    ・単一民族国家

    これらの要素は、コロナ禍&地政学リスクが向上している
    現代にも当てはめて考えることができる。

    「他国の侵略を受けにくい」「島国の閉鎖的で自己完結するマーケット」
    という歴史的に恵まれた環境に身を置いてきた日本人たちが、
    日本沈没により海外へ集団意味を余儀なくされ、将来どうなっていくのか
    とても興味がある。日本沈没第2部の続編も楽しみである。

  • T図書館 再読
    《内容》
    5章沈みゆく国 (本書の2/3が5章だ)
    政府、研究者達、海外の動き、スキャンダル、人間模様
    6章日本沈没
    エピローグ 竜の死

    《感想》
    上巻は事が起こる前の序章だった
    下巻はまったく書き方が異なり、今まで読んだ本の中で別格の大作!
    予想をはるかに越えた作品であった

    傑作と思わせてくれた一つに上げられるのは「空気感」だ
    起きていることをそのまま書くのではなく、「そうなんじゃないか?」といった雰囲気がえがかれていた
    はっきりしない記述が苦手な方は好まないかもしれない
    上巻の第2次関東大震災と称される地震は、単発だと高をくくっている人々
    しかし地震が多発、噴火も始まる
    「何か悪いことが起きているじゃないか」みんなが「何か変だ」という空気感が漂う
    小松氏も地震や沈没と書かず、「それ」「あれ」といった「こそあど言葉」を多用に使っていた
    はっきり書かないことで、不安や恐怖がさらに高まり、相乗効果をもたらしていた
    終盤、世間に日本が沈没すると知れ渡っても「政府が助けてくれる」「何とかしてくれるのではないか」という空気になる
    日本人特有の空気
    その風潮は昔も現代も変わらない
    真否がわからないうわさでも、右往左往することもある
    空気感とは、こういう危機的状況に合う表現のような気がした

    そして徹底的に書いているのは「人間の心情」だ
    もちろん地震の凄まじい状況も書かれてはいるが、意外に少なめで、書きたいのは状況ではなく、あくまでも人間の方だと察する
    前半にある首相の嘆きは、10ページ近くあり圧巻で読みごたえがあった
    「滅びるかもしれない」「決断は荷が重すぎる」「神をも代行する冷酷な狂気」「なりたくて最高権力者になったのではない」等、吐露するのだ
    「決断を委ねられるコンピューターが出現したら…」なんて、1973年で成田氏のようなことを書くなと思ってしまった
    これだけの分量があったのに、国民に向けての演説は、背後にあるテレビから流れているという設定で、要所要所で1文載っている程度
    メインは研究者達の会話だった
    引き算の美学でしょうか!
    そのような感じを受けた
    所詮演説なんて、そんなの十分わかっているでしょうと言った感じなのだろう

    小野寺という中心人物の心情も大変苦しかった
    首相の演説は2週間後に決まっていた中、母親の葬儀で兄と話す
    兄は仕事をやめカナダへ行こうと考えてた
    「早く(カナダへ)行った方がいいよ」と言うだけにとどめ、首相の発表前のため日本が沈没することを言えずに煩悶する
    「みんなに逃げろと大声で叫びたくなってきた」に、言っちゃえ!と感情移入したが、まじめな彼は秘密をしっかり守るのである
    まだ心労は続く
    結婚を決めた彼女と日本を脱出する当日、奮闘する仲間をみて、逃げたくなくなったと心変わりする
    その気持ちもわからんではないが…
    しかし突然彼女から電話が入り、噴火に巻き込まれ、ガリっという音を最後に不通となってしまうのだ
    気味の悪い汗、呆然となる
    これはキツイ
    言葉を失くした

    沈没まで10ヵ月のカウントダウン
    使える空港や高速道路が、地震の影響で沈下や水没で、少なくなっていった
    脱出できたかできなかったか、生き延びたか否か、詳しく書いていないものの、人々の結末を察することができる
    終盤は、田所博士と渡老人の「最後」の会話、研究者達の疲れた様子の会話、ある島に少女といる小野寺の会話で終わっていた
    この様子から小野寺は助かったとわかった
    しかしハテナだった
    すぐ続きを書くつもりで、こういう結末にしたのかわからないが、続編は33年後に書かれ、内容は日本沈没から25年後の設定だという
    読むか迷うところだ
    違う作品も読んでみたい

    解説
    1973年日本列島は海底に沈みかけたことがあった、沈没ブームの1年だった
    小松氏は造船中の地球深部探査船「ちきゅう」を視察している
    出版直前から続いていた浅間山噴火
    西の島の海底火山噴火 、根室半島沖地震6月があり、異常気象が言われていた

  • 当たり前のようにある大地が無くなってしまうという現実がきた時、自分だったらどうするか。
    準備する間もなく選択を迫られる日がいきなりやってくる。考えただけでも恐ろしい。
    けれど沈没しないにしても地震や災害で住む場所が無くなったり、戦争などで、故郷が無くなり移民する人達など、今同じ時代にたくさんいる。
    50年前の本だけど今読めて良かった。

  • 本作品が出版されてちょうど50年とのこと。完全なるフィクション、とあるが、そうとは思えない読後感です。

    相当科学は進歩したんでしょう。でも「日本沈没」が起こらないなんて言えない。
    自分が突然難民になったら、なんて想像をしたことがない。そんな必要もなかった。ホント自分のいるところは平和なんだ。

    著者の息子さんによる「文庫版にあたって」に、執筆動機は「戦争」だったと。「日本」を愛しているがゆえ、叱咤を込めて、日本人とは何か、日本とは何かを考え直したと。

    天災も怖いが、人災も怖い。

    長らく執筆をためらわれた『第二部』をしばらくしたら読んでみよう。

  • 富士火山帯が火を噴きまくり、中央構造線(九州東部から関東へ横断する断層)に沿って大地震が頻発、日本の国土は崩壊の一途をたどります。諸外国への避難民受け入れ交渉に各国の思惑が入り乱れ、東西世界の緊張が高まっていきます。祖国を失い難民となった日本人が自我同一性を保てるのかということが下巻の主題だと思いました。

  • 言葉を失う展開
    悲しみと絶望が錯綜する中、それでも日本人としての誇りを持って生き延びようとする者、沈みゆく大地と心中する者、様々な人間模様が垣間見れる
    それらは全て「日本人」であるからこその行動である
    アイデンティティの本質を考えさせられる気がした

  • 日本という島が沈む時、「日本」は消え去ってしまうのか。この作品を通して、歴史や文化という側面から改めて日本を見つめ直したと思う。
    私はこの作品は地震という自然災害をテーマにした科学ドラマのように思えるが、この作品が描くのは、日本人の内面に焦点を当てた、文化的要素が強いと思う。
    科学的根拠に基づいて描き出される地震のリアリティはもちろん圧倒されるが、それ以上に主人公を含めた様々日本人の心が生み出す描写に、自分自身の心境を重ねてみたくなる。

    ・もし、日本が沈むとしたら、あなたはどうしますか?

    作品を通して、骨格にあるのは、この問いかけなのではないか、と私は思う。

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著者プロフィール

昭和6年(1931年)大阪生まれ。旧制神戸一中、三校、京大イタリア文学卒業。経済誌『アトム』記者、ラジオ大阪「いとしこいしの新聞展望」台本書きなどをしながら、1961年〈SFマガジン〉主催の第一回空想科学小説コンテストで「地には平和」が選外努力賞受賞。以後SF作家となり、1973年発表の『日本沈没』は空前のベストセラーとなる。70年万博など幅広く活躍。

「2019年 『小松左京全集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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