最後の祈り

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041109939

作品紹介・あらすじ

受刑者の精神的救済を行う教誨師・保阪宗佑は、実の娘・北川由亜を暴漢に殺された。妊娠中で幸せな生活を送っていた由亜を含む三人を惨殺し、死刑執行を望む犯人。彼は裁判で、自分の唯一の楽しみは「若い女をいたぶりながら殺すこと」と笑い交じりに話した。激しい復讐心に駆られた宗佑は、由亜の育ての親から「犯人に生きたいと思わせることで由亜の無念を晴らしてほしい」と頼まれた。希望どおり犯人の教誨を担当するようになった宗佑だが、彼の変化を感じて葛藤に苛まれる――。最後の1ページまで先が読めない長編サスペンス!

感想・レビュー・書評

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  • 千葉刑務所の教誨師である保阪宗佑は仙台在住の北川真理亜と由亜の母娘と親しくしていて由亜には東京のおじさんと呼ばれています。

    由亜には木本康弘25歳と婚約を知らされ妊娠中であることも告げられます。そして父親のいない由亜と一緒にバージンロードを歩いて欲しいと頼まれます。

    そんな幸せのさなか由亜が石原亮平25歳に無残な殺され方をします。石原は「若い女をいたぶりながら殺したかった」と供述し「生きていてもつまらないから早く死刑になりたい」とも言っていました。

    保阪は実は昔、真理亜の妹の優里亜と交際していましたが、姉の真理亜に一目ぼれしてしまい、そのことをたまらなくなって優里亜に告げると優里亜は行方不明になり1年後由亜という子供を遺して飛び降り自殺をしていました。
    由亜は真理亜が引き取り保阪とは結婚できず、実の父でありながら「東京のおじさん」として会い続けていました。

    真理亜は保阪に「由亜を殺したあの男に、もっと生きていたいと思わせて、死ぬ直前に地獄に叩き落す言葉を突き刺してほしい」と教誨師として亮平に会うことを頼みます。
    保阪も「クリスチャンではいられなくなるが、由亜の無念を晴らしたい」と同意します。

    そして保阪は東京拘置所の教誨師鷲尾に近づき、亮平の教誨師となることにまんまと成功します。
    果たして、保阪は亮平に本当に仇討ちをするのでしょうか…?



    薬丸岳さん、読ませるのが上手いなあと思いました。
    読みやすい文章で、最後は私には珍しく涙が出ました。
    とてもヒューマンな物語でした。

  • ★5 死刑囚と教誨師の苦悩… 極悪非道でもなく清廉潔白でもない人間たちの命のやり取り #最後の祈り

    ■きっと読みたくなるレビュー
    教誨師と死刑囚の物語。人間関係の設定やプロットの出来が素晴らしすぎて、小説としては文句なし。さすが社会派小説のベテラン先生で、感服いたしました。

    本作は死刑制度や死刑囚、教誨師の現実を丁寧に書き記しています。しかも単に社会問題としての死刑制度ではなく、犯罪に関わったり巻き込まれた人たちの弱さや冷酷さ、そして深い繋がりを描いています。

    人間だれしも清廉潔白ではない、はたまた極悪非道でもない。
    ひとりひとりが背負った人生が、あまりにも辛辣で読んでいて息苦しいです。

    作中にでてくる、強い強いメッセージ。
    犯罪とは、死刑とは、人間とはなんなのか… 読み手に強烈に突き付けてきます。

    ・死刑判決を受けた人は、当然家族からも見放される。自分が抱えている問題に一緒に悩んでくれる存在すらいない。
    ・死刑囚の精神状態が乱れているときは執行されない、だから教誨師が必要である。
    ・殺害された人も、死刑囚も、教誨師も、死刑を執行する刑務官も同じ人間である。

    なんといっても教誨師が苦悩がシンドイ。死刑囚を送る際、どんな語り掛けをすればいいのか。少しでも恐怖や苦痛を和らげるにはどうすればよいか…

    教誨師から吐き出る魂の言葉は本当に身に沁みる。どんな人間であれば、正しい答えを導き出せるのでしょうか。

    そして本作一番の読みどころは、主人公教誨師と死刑囚の石原が関わっていく中、二人の心に変化が生み出される部分。
    恵まれない人生を通じ、凝り固まったしまった自らの基準や価値観は、そう簡単には解凍できるわけではありません。生きるのは難しく失敗ばかりですが、どんなに小さくてもいいので、希望の光や人の愛情を大切にしなければいけませんね。

    この本を読む以前からなんですが、私は死刑制度が嫌いです(反対といっているわけではない)。
    憎むべきは、犯罪や至ってしまった背景や環境や教育であって、その人そのものではないと信じたいからです。そしてあまりに刑罰や執行の負担が重すぎます。

    とはいえ悲しい重罪が発生してしまう現実もあり、もちろん被害者も家族もいるわけで、大変難しい問題です。いろんな考え方がありますが、付和雷同することなく、ひとりひとりが考えなければならない社会問題であると認識すべきですね。

    ■きっと共感できる書評
    物語を読み終えて、ふと父のことを思い出しました。

    私の父は、すでに日本人男性の平均寿命を越えています。正直なかなか難しいところも多い父でして、息子としては苦労も多かったです。でも心根は優しく、大人になるまで育ててくれたことは、本当に感謝をしています。

    これから父に対して何ができるか考えたい、そしてできる限りの恩返しをしたいと思いました。

  • 非常に内容の重い小説だった。読み終えるのに 一週間以上掛かってしまった。
    教誨師は中山七里さんの小説で知ったが、ここでは死の直前にも立ち会うということで大変な仕事と思う。その上に、相手が自分の娘を殺した殺人鬼であり、大変さが増してくる。殺された娘の義理の母親が、主人公に執拗に殺人者の教誨を勧める姿にも狂気を覚える。
    鬼畜のような殺人者達が全部では無いが、裁判でも反省すら見せないのに、教誨師によって反省と死への恐怖が宿るのが不思議な光景に映る。切っ掛けを求めていたということだろうか?
    息を呑む最期の展開は、呆気ないほどの幕切れ。これで良かったのかな?

  • 死臭が漂う殺人、そして、憤怒と復讐。主人公で教誨師の宗佑の娘が殺される。さらにお腹の子どもとともに。娘の命の懇願をも蹴散らした殺人者・石原。宗佑は自分の娘が殺されたことを隠し、教誨師として石原に近づき、死刑執行直前の教誨の際に石原を言葉で地獄に落とすことで復讐を計画する。石原との教誨により、考え方が変化する。石原が死の恐怖を抱く。死刑執行の直前、宗佑は石原と対峙し、死への恐怖を訴える石原。そこで宗佑の復讐が終了し、石原は視界から消える、1本の縄が揺れる。復讐とは、正義とは、何なのかを考えさせられた。⑤

  • とても重くて簡単に言葉で表せないほど。
    死刑に直面する人たちの思いは、わかろうとしてもわかるものではない。
    だからこそなのか、教誨師が必要なのは。
    ひとりではなく一緒に悩んで一緒に考えてくれる人がいれば救いになるのだろうか。


    保阪は、自身の過去を悔いることがあって牧師となり教誨師として人を救うために祈っている。

    だが娘を殺した死刑囚に対しても今までと同様の教誨師としての勤めが全うできるのだろうか…。

    ただ自分の殺したい欲望のために殺人を犯して、贖罪や反省すらない犯人に対して、罪の意識を感じさせて心に救いを与えることができるのだろうか…。
    そして死刑執行のときには地獄に叩き落とす言葉を突き刺すことが…。

    苦しむ保阪に対して少しずつ心を開いていく石原の変化に教誨師の凄さを感じる。

    死刑執行のそのとき。



    タイトル「最後の祈り」




  • 薬丸さん…またすごい作品を(꒪⌓︎꒪)
    読んでいる間ずっと息苦しくて辛い。
    登場人物全てが苦悩してます。
    娘を殺された教誨師の苦しみがもう凄まじくて…

    裁判の最中から一貫して、平然と残虐な殺人の事を語り死刑を望む言葉を繰り返していた石原。
    石原への復讐の為に教誨師として関わる事に成功した保坂。
    保坂と石原の教誨の回数が進むにつれて壊れそうになる保坂が辛い。゚(゚´ω`゚)゚。
    保坂と石原を見つめ続ける刑務官の小泉の苦悩も辛い…辛い人ばかりでもう苦しい…けど読みたい…

    死刑廃止論者ではないけど、執行のスイッチを押す三人の刑務官…下で待ち受ける二人の刑務官…
    執行場面の描写がたまらなくて苦しかった。

    薬丸さんらしい素晴らしい作品でした。
    そして辛く苦しいけど読みやすかった…


    • みんみんさん
      そうなのよ〜葛藤がすごいの〜
      当然だけど病むの〜。゚(゚´ω`゚)゚。
      そうなのよ〜葛藤がすごいの〜
      当然だけど病むの〜。゚(゚´ω`゚)゚。
      2023/08/12
    • おびのりさん
      こちらも教誨師なんですね。今日、中山七里の死にゆく者を読んで、珍しいところくるなあと思っていたけど
      こちらも教誨師なんですね。今日、中山七里の死にゆく者を読んで、珍しいところくるなあと思っていたけど
      2023/08/12
    • みんみんさん
      七里さんより10倍重かったわ〜
      こちらはガッツリ人間ドラマ(꒦ິ⌑︎꒦ີ)
      七里さんより10倍重かったわ〜
      こちらはガッツリ人間ドラマ(꒦ິ⌑︎꒦ີ)
      2023/08/12
  •  またやられた!また難問を突きつけられてしまった。

     私にはめちゃくちゃ可愛がって育ててきた息子と娘がいます。今でも可愛くてしょうがない子どもたち。さて、自分の子どもを無惨に殺されたあなたは犯人を許すことができますか?

     私はもちろんNO。その犯人を許せないし、この手で殺してやりたいと思う。

     さて、物語を読んでいきましょう。教誨師の宗佑には妊娠中の娘がいた。訳あって娘には父親とは名乗っていなかったが、近くにいて相談事を聞いたりと寄り添ってきた。

     その娘が、ある日突然、残虐な犯行によって命を奪われてしまう。犯人は前にも同じような手口で若い女を殺していて、全く反省がないまま死刑を望んでいた。

     宗佑は犯人に復讐するため、生きる希望を導き出し、最後に地獄に落とすべく犯人が入る拘置所に教誨師として入り込むが・・・。

     犯人である石原は、初め若い女を殺すことに喜びを感じ、拘置所に入ってからは、その楽しみもなく、早く死刑を望んでいたが、宗佑の教誨を受けるようになり、次第に人間らしさを取り戻していく。

     もちろん自分の身になって考えると許せるはずもないのだが、読み進めていくうちに、石原を許してしまいそうな自分が出てきてしまうものだから、薬丸岳の手のひらのうえで転がされていることに気付く。それにしても深い。そして思いっきり重い。

     薬丸岳は2冊連続では読めそうにない。

  • 身内を殺された人が犯人を許せるか?小説にはよくあるテーマですが、そこを突いて更に掘り下げようとする薬丸さんの心意気にまず感動しました。
    とても面白く読んだのですが、最後だけ、あまりにさっと行ってしまって残念でした。物語としてはそう終わるとは想像つきますが、呆気なさすぎるというか、私としては納得がいかないというか、、
    それでもとても読みごたえある一冊でした。
    登場人物の女性たちの名前はちょっと苦手だったかな。

    • 傍らに珈琲を。さん
      average totoさん

      今丁度、丸善の帰りです。
      沢山積ん読ってるのに、また買ってもぅた。。。

      ドライな方、大人です。
      クールです...
      average totoさん

      今丁度、丸善の帰りです。
      沢山積ん読ってるのに、また買ってもぅた。。。

      ドライな方、大人です。
      クールです。
      憧れます。
      適切な判断と対処が出来る人になりたいなぁ。

      この一冊だけ読んでも何も問題ありません。
      完結します。
      文庫をお手に取られたら、まず冒頭のカラーページを少し眺めてみてください。
      そこには螺旋年表なるものがありますので、
      どうしてこの一冊だけでも問題ないのか?
      何がどう他の7作品と繋がるのか?
      等がザックリ分かると思います♪
      2023/10/01
    • avec totoさん
      珈琲さん、詳しく教えていただいてありがとうございます。しっかりとそのようにしたいと思います!
      丸善、いいなぁ。私の住んでるところは田舎で、丸...
      珈琲さん、詳しく教えていただいてありがとうございます。しっかりとそのようにしたいと思います!
      丸善、いいなぁ。私の住んでるところは田舎で、丸善は元々なく、この前ジュンク堂すら潰れました…
      県民の教養レベルがこの事からもわかると思います。なので、他県に旅行に行った時は、必ず本屋さん巡りをします(笑)
      2023/10/01
    • 傍らに珈琲を。さん
      本屋さん巡り、素敵~!!
      通販でも買えますが、並んだ書棚をアレ見たりコレ見たり…ってしながら買いたいですよね。
      お気持ちお察ししますー

      こ...
      本屋さん巡り、素敵~!!
      通販でも買えますが、並んだ書棚をアレ見たりコレ見たり…ってしながら買いたいですよね。
      お気持ちお察ししますー

      ここは最寄り駅の大きな本屋さんは旭屋書店なのですが、2駅乗ると駅前に丸善があるのです。
      行ってしまいます。
      で、様子見とか言いながら買ってしまうのです。
      予算オーバー、トホホです。
      2023/10/01
  • 身勝手な犯行に、反省も謝罪も、死への恐怖もない殺人犯。

    何の苦しみも後悔もないまま、本人の希望通り死刑にはさせない。
    被害者遺族が、教誨師という立場を利用して、犯人へと近づいていく。

    被害者遺族だけではなく、死刑執行にかかわる人間の葛藤もあり、重たいテーマの作品。

    それぞれの葛藤は、読みごたえがあった。

  • とてもとても重く、難しいテーマに真正面から向き合った作品。
    いったいどのような結末を迎えるんだろう?
    このテーマに結論なんて出るんだろうか?
    わたしならどう考え、どう行動するだろう?と自分なりに考えながら読んだ。

    そして、受刑者たちにこんなふうに接して働いている方々がいるということ、そういった仕事についていることの大変さに改めて気付かされる。
    死刑執行の場面に立ち会い、その執行に加わらなければならないなんて…いったいどれほどの精神的負担だろう。

    最後の最後まで途切れない緊迫感。
    長さを感じさせない作品だった。

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著者プロフィール

1969年兵庫県生まれ。2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年、『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に刑事・夏目信人シリーズ『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』、『悪党』『友罪』『神の子』『ラスト・ナイト』など。

「2023年 『最後の祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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