ムーンライト・イン

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 91
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041110782

作品紹介・あらすじ

「わかっちゃった。あなたもムーンライト・フリット(夜逃げ)でしょ」。人生の曲がり角、遅れてやってきた夏休みのような時間に、巡り合った男女。高原に建つ「ムーンライト・イン」で、静かな共同生活が始まる。

感想・レビュー・書評

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  • 予想と違ってお別れの話なのに何故か清々しい。再会が予想出来るからか? だがこの後予想通りに上手く行くかは誰にも分からない。また始まりに戻って袋小路に嵌まるかも知れない。再会出来ないかも知れない。けれどそれぞれの旅立ちがそこにある。

    元ペンションだった家で共同生活をすることになった五人の老若男女。家主の老人・虹之助、車椅子の老女・かおる、介護士の塔子、フィリピン人で看護師資格を持つマリー・ジョイ、自転車で旅する拓海。
    虹之助以外、皆が何かから逃げてきて何かに抑圧されている。それだけにそれぞれが距離感を保ち、それでいて暗黙の連帯感もある。
    虹之助の家での程よい解放感と緊張感。しかしその夏休みのような日々はやがて終わりを迎える。

    それぞれが抱える鬱屈が分かると苦しい。
    ジェンダー問題を提起したいわけではないだろうが、女性だから見下され女性だから侮られというシーンが多い。そしてマリー・ジョイもまた外国人だから辛い目に遭い、その元を辿れば男性の無責任さに繋がっている。
    そんな嫌な男性と真逆な虹之助と拓海だが、どこか頼りない。お気楽な虹之助と自分が心許なくて言いたいことが伝えられない拓海。
    二組のカップルの行方が気になる。

    後半から終盤はみんなの行く末が気になって仕方なかった。マリー・ジョイの涙、かおるの叫び、どちらも胸に突き刺さった。塔子の息子を巡っての様々な苦しい思いも理解出来る。
    みんなの問題や鬱屈が完全に晴れたわけではない。多分一部はずっと抱えながら生きていくのだろう。

    いつかは旅立つ場所と分かっていても寂しい。だが拓海が言うように『実家』のように折々に訪ねていける、いざとなれば帰る場所があると思うだけでも心の支えになるのだろう。
    またみんなが再会する日は来るだろうか。

  • 人生で行き詰まった時、避難できる場所があるととても助かる。がんじがらめになった自分を温かく受け入れてくれる。それだけで心から安堵できる。
    しかも景色も良くて食べ物も美味しくて、一緒に暮らす人達もいい人達ばかり。
    そんな居心地の良い場所があれば、もう言うことはない。

    トラブルを抱えた人達が夜逃げ同然に駆け込んだ先で、ひっそりと穏やかに住まいと時間をシェアする共同生活。
    それぞれの悩みも取り敢えずは脇に置いて、互いに束縛することなく楽しく暮らす。
    けれど、それはあくまでも一時避難でしかない。
    いくら居心地が良くても、どんなに楽しくても、長く居着くことはない。長くは続かない。
    束の間の長期休暇を終えると、帰るべき場所へ戻っていく者もいれば新天地へと旅立つ者もいる。
    休暇っていずれ終わりが来るから休暇なんだな。
    終わりが来ないと、それは日常生活になってしまって、楽しめる場ではなくなってしまう。

    「いつでも戻っておいで」
    そう言って自分を温かく迎え入れてくれる人がいることの心強さ。
    日常に疲れてまた現実逃避したくなったら、いつでも戻れる場所がある。そんな居場所を持っていることは、日常を生きる上での励みになるはずだ。
    夢のようなひと時とは、あくまでも夢であって現実ではない。

    それにしても、男性ってロマンチストなのね…。一時の感情に走れる生き物なんだ。
    女性の方がよっぽど冷静に現実的に物事を捉えている…まぁそれもちょっと淋しいけれどね。
    フィリピン人のマリー・ジョイがいい味出していて、最後まで楽しませてくれて物語全体を救ってくれた感じ。
    かおるさんはマリー・ジョイの読み通り、いつか虹サンの元へ戻ってくるかな。

  • かつては賑やかだった元ペンション「ムーンライト・イン」
    雨の夜にずぶ濡れでドアをノックをしたのは フリーターの拓海、35歳。

    そこでは、70代のオーナー・虹之助 と 女性三人が共同生活をしていた。
    80代のかおる、50代の塔子、フィリピンから来た20代のマリー・ジョイ。
    三人はそれぞれ秘密を持ち、事情を抱えて、ここへ逃げてきていたのだ。

    雨をしのぐため、一晩だけ泊めてもらうはずだった拓海だが
    怪我をして治療が必要になり、四人目の同居人になる。
    「マリー・ジョイ、わかっちゃった。
    あなたもムーンライト・フリット(夜逃げ)でしょ?」

    年齢も性別もバラバラな五人が、それぞれ役割分担をして暮らす。
    適度に一人になれて、適度に他人が身近にいる居心地の良さ。
    高原の美しい景色と 採れたての新鮮な野菜。
    まるで天国のような平和な世界での静かな生活。
    そこでは不思議な調和が保たれていた。

    しかし、逃避の原因になった現実が消えたわけではない。
    パワハラ、セクハラ、家族の意見の相違、外国人技能実習生の問題など。
    女性たちは、いつまでもこの「休み」が続くことはないと認識し
    ここでの安らぎを力に、再生への道を探り始める。
    一方、男性二人が夢を見つづけようとする姿は対極的で面白い。

    とりわけ、フィリピンの若い女性、マリー・ジョイには拍手。
    彼女はずっと、元気で楽しくて素敵だったけれど
    最後のシーンは、あっぱれ!!としか言いようがない。

    手に負えないことから いったん逃げて休んで。
    そんな場所と時間があったら、人はもっと元気になれるかも…ね。

  • お互いが特技を出し合い

    生活が回っていく

    とても夢のある

    共同生活



    こんな生活が長く続けばなー

    と思うんですが

    やはり 問題から

    目を背け続けるわけには

    いかなくて

    決着をつけていくと

    理想の輪は終わってしまうんですが



    その先にもまた

    新しい輪が始まる予感を

    感じさせます

  • いろんな「事情」をかかえた他人同士5人が共同生活を送る話。
    現実にもこういう、人には軽く言えない事情をかかえている人多そう…

    マリー・ジョイと拓海のやりとりがほほえましかった。ちょっと展開早いなあと思ったけど、まあお互いいい大人なんだしいいでしょう、と。

    お互い事情があるのを、なんとなく察していて、だけど詳しくは聞けなくて、自分のことも詳しく話せなくて、っていうの、わかるなぁ。
    だけどだからといって距離をとるのではなく、お互い事情があるからこそ、ほどほどに思いやって、気心が知れているのは、過ごしやすそうだなと思った。

    かおるさんが最後あの決断をしたのはよくわからなかったな。まだまだ私の人生の経験が足りないからかな…

  • 久々の中島京子さん。

    職を失い自転車旅行に出た栗田拓海は、とある高原エリアで豪雨に見舞われてしまい、泊めてもらう為に一軒の建物を訪れます。
    件の建物・・元ペンションだった〈ムーンライト・イン〉にはオーナーの老人・虹サンこと中林虹之助の他に、車いすの老女・かおると元介護士の塔子、フィリピン人で看護師のマリー・ジョイという、年代もバラバラな3人の訳アリ女性達が暮らしていました。
    拓海は頼まれた屋根の修理中に足を怪我してしまい、治るまでそこに滞在することになりますが・・・。

    一応、拓海がメインキャラではあるのですが、登場人物5人の視点がくるくる変わって展開する、群像劇のような構成となっております。
    語り口が軽く、読みやすいのでスラスラ進みますが、3人の女性達が抱える事情はそれなりに重い物があったりします。
    空気や食べ物がおいしくて、緑あふれる環境も最高で住人同志の距離感もほどよい〈ムーンライト・イン〉は、“避難場所”としては居心地が良すぎて、ずっとこの場所でぬくぬくしていたいと思わせる桃源郷みたいな素敵なところなんですよね。
    ですが、やはり各々が抱える“解決しなくてはいけない”問題と向き合わなくてはいけない時がやってくる訳で、最初は息をひそめるように暮らしていた女性達や根無し草だった拓海にも徐々に変化が訪れます。
    とりわけ印象的なのが、キャラとしても好きだったマリー・ジョイですね。
    彼女の真っ直ぐな心が眩しくて、絶妙に拙い日本語もいい味出ていました。
    なので、マリーさんが外国人ということで受けた様々なハラスメントもにも心が痛みますが、せっかく勇気を出して連絡をとった(拓海も尽力して)、彼女の“実父“と“その嫁”の仕打ちには、本当にやるせない気持ちになりました。
    マリー・ジョイには幸せになってほしいな・・できれば日本に戻ってきて、この“クソみたいな国”も悪くないかも・・って思ってほしいです。
    で、それは拓海にかかっているので失望させないでほしいですね。
    それから、終盤のかおるさんの決断には驚きましたが、息子に言いたかったことをぶちまけることができたので、一度きちんと話し合う為にも良かったのかもと思います。
    マリー・ジョイも予想していましたが、多分息子の嫁の“協力”で結局〈ムーンライト・イン〉に戻ってきそうですしね。

    余談ですが、話の中で登場人物が「アップルサイダー」を飲む場面があるのですが、ずいぶん前にスターバックスでも冬季限定でこのドリンクがあって、すごく好きだったのを思い出しました。
    温かい「アップルサイダー」を飲みながら、本を読む時間は間違いなく天国タイムでしたね。
    また復活してほしいな~・・と、本書の内容と関係ない話で締めたいと思います~。

    • ゆのまるさん
      あやごぜさん、こんばんは!

      余談の「アップルサイダー」。私は飲んだことがないのですが、これは温かい飲み物なんですね……?!
      サイダーなのに...
      あやごぜさん、こんばんは!

      余談の「アップルサイダー」。私は飲んだことがないのですが、これは温かい飲み物なんですね……?!
      サイダーなのに温かい、とは不思議な感じです。

      中島京子さんは読んだことがないのですが、あやごぜさんの感想を読んですっかり気になってしまいました!
      2024/03/01
    • あやごぜさん
      ゆのまるさん。 コメントありがとうございます♪

      そうです「アップルサイダー」はホットドリンクです~。
      「サイダー(Cider)」とい...
      ゆのまるさん。 コメントありがとうございます♪

      そうです「アップルサイダー」はホットドリンクです~。
      「サイダー(Cider)」といっても、あのシュワシュワの炭酸ではなく、温めたリンゴジュースにシナモン等のスパイスを入れた飲み物です~♪
      スタバのは、この“アップルサイダー”にホイップ+キャラメルソースがのっていて、確か「キャラメルアップルサイダー」という商品名でした(うろ覚え・・汗)。
      シナモンが効いていて身体も温まるし、まるで“飲むアップルパイ”みたいで好きでした(*´▽`*)

      中島京子さん。読みやすいので、ゆのまるさんの気が向いたら是非読んでみて下さいませ~(^^♪
      2024/03/02
    • ゆのまるさん
      そうなのですね!
      温めたリンゴジュースにシナモン……体の中からポカポカになりそうですね〜♪
      次の冬にはぜひチェックしたいと思います!

      詳し...
      そうなのですね!
      温めたリンゴジュースにシナモン……体の中からポカポカになりそうですね〜♪
      次の冬にはぜひチェックしたいと思います!

      詳しく教えてくださってありがとうございます(⁠*⁠´⁠∀⁠`⁠)⁠
      2024/03/02
  • 『ムーンライト・イン』中島京子著 どうしたって幸福になりたい生き物 | 47NEWS
    https://nordot.app/745402571060215808?c=39546741839462401

    「ムーンライト・イン」 中島 京子[文芸書] - KADOKAWA
    https://www.kadokawa.co.jp/product/322010000474/

  • 高原(清里あたりと思われる)のかつてのペンションを舞台にした物語。それぞれに事情を抱えた人が暮らすこのペンションにやはり事情を抱え流れ着いた拓海(35)。年齢も国籍もばらばらでそれぞれが何かを抱えた5人の男女の話だが、高原の爽やかな空気や雄大な自然がそうさせるのか、どろどろした感じはなく、淡々と話の進んでいく感じが良かった。登場人物のうち、1人だけ外国籍の「マリー・ジョー」の拙い日本語が非常に上手く描かれているなと思った。とても絶妙な終わり方で、読後感も良い。

  •  関東近郊の高原にある仕舞屋ペンション(?)が舞台の群像劇。12章からなる。

         * * * * *

     やはりうまいなあと思いました。

     その古びた建物の名は「ムーンライト・イン」。かつてペンションだったそこは現在シェアハウスになっています。

     家主は善良そうな老紳士ですが、入居者の3人は皆いわくありげ。老・中・若と年齢がバラバラの女性たち。
     そこに紛れ込んできたのがバックパッカーの男。もう 35 歳にもなって根無し草人生を送る、いわくがありそうで人物です。
     ということで、つかみはバッチリの幕開けです。

     結局、全員が逃亡人生で「ムーンライト フリット」(夜逃げ)となって「ムーンライト・イン」に集結したというよくできた設定の物語。

     それぞれが抱える事情はミステリー小説のような深刻極まるものではないのだけれど、それが却って身近に感じられるところも、物語の魅力のひとつになっています。

     逃亡人生には必ず終わりが来るものなので、この4人の住人にも清算の日がやってきます。そのクライマックスへの持って行き方も絶妙でした。ミステリー小説でもないのに何かドキドキします。

     クライマックスでかおるさんが虹さんのもとを去り、長年にわたる純愛が潰えたかと見せておいて、エピローグでマリー・ジョイにさり気なく謎解きをさせ、さらにそのマリー・ジョイと拓海の仲を成就させてしまうエンディング。いやまったく最高のデザートでした。

     個人的にはすごく好みの作品です。

  • 虹さんがかつてペンションを営んでいたムーンライトイン。そこに集まり、一時を一緒に過ごすこととなった虹さん、拓海、マリー・ジョイ、塔子さん、かおるさん。その5人それぞれにドラマがあり、その様がとても面白かった!今後のこの5人の行方をまだまだみたい、そんな物語です。

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著者プロフィール

1964 年東京都杉並生まれ。小説家、エッセイスト。出版社勤務、フリーライターを経て、2003 年『FUTON』でデビュー。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木三十五賞受賞。同作品は山田洋次監督により映画化。『かたづの!』で第3 回河合隼雄物語賞・第4 回歴史時代作家クラブ作品賞・第28 回柴田錬三郎賞を、『長いお別れ』で第10 回中央公論文芸賞・第5 回日本医療小説大賞を、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞を受賞。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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