- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041114391
作品紹介・あらすじ
大正七年の秋、与謝野晶子は大阪で宙に浮かんでいた。夫である鉄幹と共に通天閣の足元に広がる遊園地「ルナパーク」を訪れたものの、夫の言葉に血がのぼり彼を置き去りにひとりでロープウェーに乗ったのだ。電飾まぶしい遊園地を見下ろし、夫婦というものの不確かさを嘆く晶子。そのとき突然ロープウェーが止まり、空中で動かなくなって……。(「夫婦たちの新世界」)
遠野には河童や山男など不思議なものがたくさん潜んでいるという。隣村を目指して朝もやの中を歩いていた花子は、「くらすとでるま…」という不思議な声を聞く。辺りを見回すと、そこには真っ赤な顔の老人がいた。かつて聞いたむかしばなしに出て来る天狗そっくりの老人から逃げ出そうとする花子だったが、今度は黒い頭巾に黒い蓑をまとった怪しい男から「面白い話を聞かせてくれないか」と尋ねられ……。(「遠野はまだ朝もやの中」)
ほか全8篇。
感想・レビュー・書評
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大正時代を舞台に、作家、芸術家、研究家、学者、活動家などの有名人たちが様々な事件と遭遇する8編。
探偵志願の学生・平井太郎(江戸川乱歩)が日本に潜伏中のインド人活動家を探すミッションを受ける…「カリーの香る探偵譚」
一時帰国した野口英世博士の前に現れたのは英世の娘だと名乗る美しい少女…「野口英世の娘」
鈴木三重吉が芥川龍之介に児童向けに雑誌への寄稿を頼むために不思議な話を聞かせると乗り気でなかった彼が目を輝かせて…「名作の生まれる夜」
島田抱月の死後明かされる、芸術倶楽部に造られた使われない階段の謎…「都の西北、別れの歌」
など8編。
かなりの短編なのでそれぞれの話はやや物足りなさもあるが、何といっても有名人たちが次々出てくるのが楽しい。有名人たちの背景をもっと知っていれば、実際のエピソードと物語との絡め方の妙も、もっと楽しめたかも知れない。
個人的に興味深かったのは「渋谷駅の共犯者」。
上野英三郎博士と言えば、忠犬ハチ公の飼い主というくらいの知識しかなかったが、農学博士としての顔も描かれていたのが新鮮で楽しめた。
また最終話「姉さま人形八景」は、タイトル通り「姉さま人形」が次々人の手を渡っていく様を時系列を遡って描かれるので、発端がどこなのかを辿っていくのが面白い構成だった。
発端は物悲しいものだが、最終的に山下清画伯によって美しく昇華されていくのが良かった。
山下清と言えば『裸の大将』というあだ名を思い出すが、それもこの物語で上手く使われていて楽しかった。
それにしてもこの時代は芸術も学問も百花繚乱、国としても時代としても成長期で面白い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
8編からなる短編集
大正から昭和を舞台にしたミステリー調
とにかく登場人物が豪華すぎます
文豪、歌人、学者、編集者
実業家、活動家
「名作の生まれる夜」と
「姉さま人形八景」が好きかな
史実と創作の融合が楽しめる作品です
新宿中村屋の創業者
相馬黒光さんを追っかけてみたい
図書館本 -
大正時代をメインに偉人たちを描いた、ゆるくつながる連作短編集。
メインになる偉人だけではなく、ほかにも実在した人物が多く登場。
豪華な面々が絡んでいくストーリーが、コミカルで人情味があり、おもしろかった。
謎解きはあるが、思ったよりミステリ要素は少なめ。
探偵事務所にしつこく売り込みに来る、探偵小説愛好家。
想像力豊かな平井太郎がコミカルな「カリーの香る探偵譚」が楽しかった。 -
大正時代を彩った著名人たちが大集合の一冊。
実際の逸話に著名人を溶け込ませ、ほんのり謎解きをも楽しませてくれる贅沢な時間を味わえた8篇はどれも甲乙つけがたい面白さ。
名探偵が生まれ、名作も生まれるこの描き方は青柳さんらしいウィットに富んだ世界。
ほんとうにこんな時間や絡みが…と一人、錯覚妄想に陥るほど。
しかも主役に見える人物が決して物語を引っ張るわけではないのもナイス見せ技。
まるで教科書では教えてくれない著名人の姿を知ってしまった気分になれたのも楽しかった。
まだまだこの時代を味わっていたい、どストライク作品。 -
誰もが知っている文豪たちとその著書、プロフィールなどなどを元にしたほんのりミステリ、ほんのり不思議な短編集。
個人的には少し読みにくい文章だったが、元ネタが有名なので内容的には分かりやすく、オチもすんなり入れた。導入がもう少し入りやすければと思うが、単に好みの問題かもしれない。 -
歴史上の人物の共演そしてフィクションとノンフィクションのマリアージュがたまらない。
「名探偵」とあるので、事件やハプニングの謎解きがメインかなと思いきや、どの物語も人情ストーリーでまとめられているハートウォーミングなお話ばかりの短編集。
史実から想像を膨らまして、歴史上の人物同士の共演(実際は交友無かったかもだけど?)が実現してたりで明治大正時期好きの私にとってはもう、たまらんです。
脇役のような人物がのちに大物になるアノ人だった、とか、序盤のお話から最後のお話が実は繋がってた、など、仕掛けも沢山あって楽しめました。
個人的に好きな話は3つ
●新宿中村屋のカレー誕生秘話×若かりし頃の江戸川乱歩
●与謝野夫妻×松下夫妻 松下製品「二股ソケット」誕生秘話
●上野英三郎ハチ公×仕立屋銀次 -
いやぁ、おもしろかった!
楽しかった!!
短編集なんだけど引き込まれて
あっという間に読んでしまった。
この人があの人?!
とか、フィクションって分かってるのに
えぇー!と驚く。笑
まったく別のお話かと思いきや
繋がっていたり、ひっそりでてきたり。
前情報なにもなしで
ただ表紙に惹かれて手に取った本だったから
そこまで期待もなかったからか
読後の満足感がめちゃくちゃあった。
与謝野晶子のお話が好き。 -
青柳先生の本は基本的に読むようにしているが、『浜村渚』シリーズや『むかしむかしあるところに』シリーズなど先生得意の軽快なタッチが特徴的な作品とは異なり、久しぶりにしっかりとミステリーだなと思って読んでいて楽しかった。