- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041123461
作品紹介・あらすじ
月岡美琴は、松本市郊外にある梓川病院に勤めて3年目の看護師。風変わりな研修医・桂勝太郎と共に、膵癌を患い、妻子を遺して亡くなった長坂さんを看取り、誤嚥性肺炎で入院中だが「生大根の子糠漬けなら食べられる」という88歳の新村さんのために沢庵を切る(「秋海棠の咲く頃に」))。秋、循環器内科での研修が始まった桂は、肺炎の疑いで緊急搬送された92歳の女性に3時間延命する処置を下す。その判断は老人の延命治療に懐疑的な通称”死神”こと谷崎医師の教えに反していたが、それは連絡を受けた孫が駆けつけるまでの所要時間だった(「ダリア・ダイアリー」)。”口から物が食べられなくなったら、それが人間の寿命である。その常識を変えた夢の医療器具「胃瘻」”の登場、「できることは全部やってほしい」という患者の家族など、地域医療ならではの患者との関わり合いを通じて、月岡と桂は、老人医療とは何か、生きることと死んでいることの差はどこにあるのか、悩みながら進み続ける。
感想・レビュー・書評
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「神様のカルテ」と同様に過酷な医療機関の現状が描かれている。地方の中小病院は老齢化により老人病院化している。症状も悪い方に安定して医療スタッフが介護に追われている。
本の中でも80歳以上の患者に積極的に医療を行わず、放置する死神と呼ばれる医者が出てくる。
一年目の研修医である桂と三年目の看護師月岡は揺れ動きながら成長して行く。安楽死を願う患者や全てを医者に委ねて考えを放棄する家族など、様々な状況に悩む主人公達。
その中で二人の関係が深まって行く。初々しい二人のやり取りが、死を含めて重い医療の内容に華を添えてくれる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日本の医療の現実を医師と看護師さんからの視点で描かれています。
読みやすく、けして暗くなりすぎずに物語は進みます。
老人医療とは何か。
自分はその時どうしたいのか。
色々と考えさせられました。
誰しもがおそらく考える事を小説を通して知れるので読めて良かったです。
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地方病院の医療現場のお話の中で
老人医療についてとても考えさせられるお話でした。
研修医一年目の桂先生やしっかりものの看護師
美琴が、日々の老人医療に携わる中で
生きるとは何か
治療とは何かと日々格闘しながら患者さんやその家族と関わっていきます。
桂先生の指導医である三島先生の言葉が心に
残っています。
大量の高齢者たちをいかに生かすのではなく、いかに死なせるのかというのが現代医療の問題点だ。
いかに看取るか…本当に難しい問題だと思います。
医学の進歩により、治る見込みのない患者さんを胃瘻や酸素吸入などで
ただ生かしておくことも可能な世の中で
長生きとは、
と現場の先生方や看護師さんたちの葛藤を
感じました。
合間の桂先生と美琴の爽やかなラブも
とても可愛かったです。 -
看護師の美琴と新人研修医の桂は地方の病院で日本の医療の現実と向き合う。
夏川さんといえば地域医療、という印象があるくらいですが、こちらも「神様のカルテ」と同じく疲弊する地域医療の現場と現実を描いたお話です。テーマはより深刻になりつつある高齢者医療について。増えゆく高齢者の患者をどう支えるのか、どこで線引きするのか、難しい問題を直球で突きつけてくるのは夏川さんの特徴でもあると思います。けっこう暗澹とするこれらの問題を論うだけではなく、その場で力なき個人として何ができるのか、エピソードの最後の一滴に救いを残すところがストーリーテーラーとしての夏川さんの真骨頂なのかな、と感じます。そして花を巧みに絡めてくる構成もステキでした。
ワスレナグサは家の近くにもたくさん咲きますが、たいていは移入種の花とされています。幼少の頃、登山に連れて行かれて母から教えてもらったワスレナグサは僕にとっても特別な花で大好き。しかしこれって種名じゃなくてムラサキ科の花の総称なんでしょうか。しっかり調べてみないと。 -
「神様のカルテ」の作者が送る日本が抱える高齢者医療問題。
長野県の安曇野にある梓川病院に勤める3年目の看護師の美琴と研修医1年目の桂の二人の目線で描かれる。
現役のお医者さんが描く高齢者医療の現場はあまりにも現実的で、時には辛いし、悲しくなることもある。
高齢の患者さんに延命の為だけに治療をするほど、日本の医療は恵まれていないと言う桂の指導医の言葉は、とても重く、桂の心の揺らぎが手に取るように伝わる。
どんなに患者さんに誠意を尽くしても、高齢の患者さんはある日突然急変し、あっという間に亡くなってしまう現実・・・それは本当に全国の中核病院で起きている現実なのだろう。
テレビや他の医療ものの小説では取り上げられない静かで厳しい現実がこの作者の作品の中にはある。
「神様のカルテ」が地域の救急体制の問題を描いているので、比較して読むことをお勧めする。
超高齢者が増える一方の日本で、医療を巡る問題は決して明るいものではないが、桂の花に対するエピソードと安曇野の四季を描くことで、読む者の心も救ってくれる。
個人的には桂が救急で運ばれた患者さんの家族の為に3時間だけ延命治療を行い、指導医の谷崎に反抗するが、その理由を聞いた谷崎が納得するシーンが好き。
涙がこぼれるが、このシーンは全ての人への愛に溢れていると思う。
「神様のカルテ」を読んでいる人だけに分かるサービスも。
終わり方が終わり方だけに、簡単に続編は出ないだろうけど、研修が終わり、梓川病院と美琴の元に戻ってくる桂を楽しみにしたい。
そして。
今も地域医療に精魂を注いでいる作者に敬意を表したい。 -
これは良かったね、猫を最初に読んだのだけれど、優しすぎるファンタジーだけの思ったのと違うと手に取るの躊躇った。高齢者医療が非常に気になり やっぱり読もうと、花屋の息子で勿忘草にダリアにとうんちくもあるし、花がきっかけで恋人同士になれた、季節の移り変わりもいいし、すんなり恋人同士になれたのもいいし あくまで病棟の物語が頼もしい。桂先生の患者の根が切れてる、もう見取りませんか、かたややゑさんの根は切れてないですと、見る所が凄い 判断材料が正しいと思う、こんな先生なら命を任せられる。一本15000円のコロナワクチンを打たせて進めて副反応あるのに黙って、危険なワクチンは医師自身打たない、こんな病院ばかりの世の中で、勿忘草は胸を打つ、エゾムラサキが目に浮かぶ。 ラストの谷崎先生の行動もグッとくる。次神様のカルテだね
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松本市郊外の梓川病院で働く、研修医1年目の桂と看護師3年目の美琴とが主人公の医療小説。
安曇野の描写と、様々な花が登場するゆえ、爽やかな若い二人の青春小説の趣があるが、彼らが出会うのは高齢者医療という日本にとっての喫緊の問題である。
テレビドラマなどでは、劇的な治療や感動的な話ばかりが描かれているが、現代の医療が直面しているのは「生」ではなく「死」に向き合うこと、大量の高齢者を、いかに生かすかではなく、いかに死なせるかという問題であることを突きつける。
「この国はもう、かつての夢のような医療大国ではないんです。山のような高齢者の重みに耐えかね悲鳴を上げている、倒壊寸前の陋屋です」と、一人の人物に言わせるのは、著者が現役の医師で現代の医療現場に立ち会っている証左だろう。
深刻な医療現場を描きながら、それでも暗さを感じないのは、著者が造形した主人公たちのキャラクターからきているのでは。 -
2か月程前に義父が誤嚥性肺炎で入院しました。
入院手続き、医師の説明があったと同時に確認されました。高齢の為、急変した場合の処置について…
心臓マッサージしますか?どれくらいの延命処置しますか?
えっ?今決めるの?と内心びっくりでした(*_*)
まさにこの作品が私自身タイムリー過ぎて
医療系の作品は何冊も読んで来ましたが、まぁとにかくリアルで身近な内容で…読んで良かった!
神様のカルテもいいけど
こちらの作品も良かった〜ヽ(´▽`)/ -
初めての作者。ずいぶん色々な医療小説を読んで来たが、上位にランクインする。誠実な医者や看護師の成長物語には、どっぷりのめり込んでしまう。舞台が自然豊かな安曇野で、研修医桂の実家が花屋という設定も良い。
単に成績が優秀ということだけで医者になる若者が多いと聞くが、こういう医者に診てもらいたい。ぜひ続編を! -
安曇野の病院では、入院患者のほとんどは後期高齢者。治療することに意味があるのか悩むことの多い研修医と、見守る看護師、指導医師・・・という図式で、悪人は出てこない、純化された抽象世界に仮託して、高齢化社会の医療についての倫理と、医療関係者の本質的な善根を描写。
癒やされるし、ハートウォーミング。ただし、(夏川のマーケッティング戦略かとは思うが)女性のセリフ、独白が、あまりに古めかしい。