シベリア鉄道9400キロ (角川文庫 緑 598-3)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041598030

感想・レビュー・書評

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  • 20年振りに再読しました。
    私は鉄オタではありませんが、宮脇さんの鉄道紀行が大好きで、ほとんどの作品を読みました。本作は私の好きな宮脇作品ベスト5に入れてもいいほど好きです。

    内容のほとんどが列車内のことで、退屈かと思いきや、無愛想な女車掌、ちゃっかりした食堂車のボーイ、色んな同乗者、不味そうな食堂車の料理·········などなど、自分もシベリア鉄道に乗っている気分で読ませてしまいます。

    宮脇さんが亡くなった後に開通した北陸新幹線や北海道新幹線、存命でしたら絶対すぐに乗られただろうなと思います。

  • 台湾に続く、宮脇氏の海外鉄道紀行は、あのシベリア鉄道です。タイトルもずばり『シベリア鉄道9400キロ』。
    シベリア鉄道は、一般的には浦塩からモスコーまでの約9300キロと言はれてゐますが、表題は「9400キロ」となつてゐます。本文によると、当時の浦塩は外国人の立ち入りが禁止されてゐたため、ナホトカからハバロフスクまでは別線を走る「ボストーク号」に乗り、ハバロフスクから「ロシア号」に乗車するルートをやむなく選択したさうです。その際、浦塩から乗るよりも乗車距離は長くなり、約9446キロとなるとのこと。ゆゑに9400キロは間違ひではないのです。

    日程は15日間。長い旅であります。初期の宮脇氏は普段一人旅が基本なのですが、さすがに今回はソ連を走破するといふことで、連れがゐた方が何かと安心であります。そこで、版元の編集者「ヒルさん」に同行を頼むことに。なぜ「ヒルさん」なのかと言ふと、「会社では昼行燈なのです」(本人談)とのことで、宮脇氏が命名しました。

    まづは横浜港から「バイカル号」による船旅。なぜか松竹歌劇団(SKD)のお嬢さん方と一緒になります。
    二泊三日でナホトカ着。ナホトカから漸く汽車の旅になりますが、まだロシア号には乗れず、ボストーク号なる夜汽車でハバロフスクへ向かひます。
    ハバロフスクでつひに「ロシア号」に乗車。六泊七日の大旅行であります。車内設備に関しては、有名な列車にしては今一つ質素といふか、日本人にとつては中中不便な住環境のやうです。
    一週間も汽車に乗り詰めだと、車窓風景にも飽きてきます。如何なる絶景でも数分眺めてゐれば腹一杯になるのです。さうすると、興味は勢ひ食事になるのですが、「ロシア号」の食堂車はどうも、充実とは言ひ難い内容らしい。メニューにあるのに片端から「無い」と断られるし、酒類は種類が少なく、甘くて不味いシャンパンしかない。酒飲みの宮脇氏としては痛恨の極みでありませう。

    そして同乗の乗客同士、情が移つて何となく仲良くなるのも洋の東西を問ひません。しかしカメラをぶら下げたイギリス人だけは、宮脇氏もヒルさんも虫が好かない。どうやら日本人に反感を抱いてゐるらしく、こちらの感情を害する言動ばかりするやうです。ヒルさんなどは激怒し、一発殴つてやらねば気が済まんなどと物騒な事を言つてゐます。そのイギリス人は途中駅で下車したので、特段のイザコザは起きなかつたのは何よりであります。

    ロシア号の第三日、「シベリアのパリ」ことイルクーツクで、ほとんどの乗客が下車します。バイカル湖見物などするのでせう。しかし我らが宮脇氏一行は当然乗り続けます。日本語が出来るガイドのワジム氏も下車するとのことで、ロシア語が出来ない宮脇氏たちを心配します。といふか、この有名観光地で下車しない二人を変人扱ひしてゐました。
    ワジム氏は親切にも、食堂車のミーシャに「くれぐれもこの日本人二人をよろしく」と念を押して下車したのです。そのおかげで、それまで不愛想だつたミーシャが、がらりと態度を変へ、まことに友好的になつたのであります。

    あまりに長大な旅ゆゑ、宮脇氏も本書執筆にはかなり呻吟したやうであります。しかしその苦しみの成果は、如実に表れました。同行のヒルさんを肴にするといふ禁じ手を犯しながらも、十分にシベリア鉄道の奥行と間口を感じさせる一冊となりました。海外篇の代表作の一つと申せませう。

    では今回はこんなところで、ご無礼いたします。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-606.html

著者プロフィール

宮脇俊三
一九二六年埼玉県生まれ。四五年、東京帝国大学理学部地質学科に入学。五一年、東京大学文学部西洋史学科卒業、中央公論社入社。『中央公論』『婦人公論』編集長などを歴任。七八年、中央公論社を退職、『時刻表2万キロ』で作家デビュー。八五年、『殺意の風景』で第十三回泉鏡花文学賞受賞。九九年、第四十七回菊池寛賞受賞。二〇〇三年、死去。戒名は「鉄道院周遊俊妙居士」。

「2023年 『時刻表昭和史 完全版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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