アメリカ (角川文庫 カ 2-3)

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (458ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784042083054

感想・レビュー・書評

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  • 審判、城に続く、孤独三部作。
    審判や城では、手探りで何も見えない大きな機構や仕組みに取り残された、閉鎖空間に閉じ込められた叫びが感じられた。その一方で、このアメリカは、そういうところから離れてどこかのびのびとしているような気がする。
    どちらかと言えば、偶然に偶然が重なって、システムの中を漂流し続けなければならない、そういった類のものであると感じられる。行く先々で、システムに溶けこもうとするも、ちょっとした縺れからすぐに異分子として爪はじきにされてしまう。どこまでいっても、この広大なアメリカという土地では、カールは異邦人でしかない。
    転々としていくだけでは、おそらく書いていて辿りつく場所が見えなかったのだと思う。漂流に漂流を重ねても、カールがカールであることに変わりはないし、いくらでも漂流先を変えることで、引き延ばすことができる。おそらく、船や叔父の家、ホテルや奇妙な共同生活だけでなく、カフカの中には、徒弟や政治家秘書といった、多くの漂流先が用意されていたに違いない。漂流なんて、ちょっとしたことがきっかけで決まるし、行った先のことは行った時に考えればいいだろうから、わざといくつかのスケッチを残しただけで筆を置いたのだろう。
    この作品では、漂流というものがある種、独特の不条理さを生んでいる。漂流先が決まるのも、漂流が決まるのも、偏にカールの望んだものではない。ヘッセのの漂泊の旅は、基本的にしたくてしているものだが、このカールの漂流は、望んだわけでも、望まれたわけでもない。ちょっとした行き違いや誤解、そういうものによって転がり落ちていくような、そんな感じ。しかも、シェイクスピアのように強い思惑があってのズレではなく、ほんの些細なズレによるところが大きい。何気ない行動のひとつがいとも簡単に、漂流の種となってしまうのだ。びっしりと描かれたカールの行動のいきさつや様相も、簡単に、数行の出来事の後には、漂流へとなってしまっている。その緩急の使い分けが、閉鎖空間にあっても冗長さを感じさせないのかもしれない。漂流するとは、追放されることだが、追放されても、いつまでもふらふらしてるわけではなく、辿りつく先は、これまた意図せずちょっとしたことで決まってしまう。「たまたま」、そういうことばが最もよく似合うのが、カールの漂流であると思う。
    終盤のサーカスの場面は、明らかに審判や城の様相を呈している。やはり、カフカにとって、未知なる閉鎖空間というテーマは外せなかったものなのだろう。残念ながら、閉鎖空間の最初の部分だけでその不可解さや複雑で不条理なものはわずかしか描かれていない。けれど、わずか数十ページで城や審判同様の設定を敷いているあたり、スケッチや思考実験としての機能をこの作品は果たしていたのかもしれない。

  • カフカを読むとどうにも気持ちが重暗くなってしまう。こういう不条理を客観的に読むにはそれなりの素質が必要な気がする。自分が経験しているような辛さがある。この作品は比較的明るいのだけど、そのぶん不条理な出来事の落差が激しい。

  • 喜劇的な要素をふんだんに含み、現実的なストーリーで、一見カフカっぽくない作品でした。
    しかし、無経験な十六歳の少年が、異国の地アメリカで戸惑い、つまづきながらも必死で生活を確立させようとする姿は、現代の混沌とした社会で自身を確立しなければならない私たちの苦悩と共鳴します。

    学生時代にこの作品を読むと、さらに深く感銘を受けることができたかもしれません。

  • 主人公は、訳あって単身アメリカに送られたカール・ロスマンというドイツ人少年。ロスマンが新天地アメリカで波乱万丈の人生を歩き始める物語である。カフカの長編のうちで最もストーリーらしいストーリーを展開する。とはいえ、紋切り型のサクセスストーリーでは勿論ない。ロスマンの新生活は、不合理だが支離滅裂でもない出来事――いわば無合理な出来事――の連鎖に翻弄されつづける。翻弄されながらも、それを必要以上に悲観せずに健気に受け止めるロスマンのキャラクターが魅力的である。そして当然のように未完。

著者プロフィール

1883年プラハ生まれのユダヤ人。カフカとはチェコ語でカラスの意味。生涯を一役人としてすごし、一部を除きその作品は死後発表された。1924年没。

「2022年 『変身』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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