- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043073047
作品紹介・あらすじ
福沢諭吉が60余年の人生を回顧した自叙伝。青年時代の緒方洪庵塾での猛勉強、学友を諌めるために書いた遊女の贋手紙、蘭学塾の創設、幕府の遣欧使節に随行したヨーロッパ巡検、洋学者を狙う暗殺者におびえた日々、拒み続けた新政府への仕官-。福沢は抜群の語学力によって教育に啓蒙にと文明開化を導いたが、また勇気と人情に厚い数々のエピソードを残した。話し上手な福沢の思い出話に世相がリアルに伝わる。
感想・レビュー・書評
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福沢諭吉が、最晩年の64~65歳頃(1897~98年)に書いたと言われる自伝。
文字通り、全体としては、豊前中津藩の貧しい武士の家に生まれた福沢諭吉が、他人からの資金援助を受けずに勉学をして、一身の経済的独立を果たし、更に一国の独立を唱導する立場にまでなった自らの経験が記されているが、教育面で文明開化をリードした福沢諭吉の「自伝」らしい特徴をもっている。
ひとつは、福沢諭吉には、本自伝を書くにあたり、「独立自尊への道を示す」という明確な主題があり、そのためには健康な身体が何よりも大事であるということや、権威や伝統、迷信を嫌うエピソードが、その主題に沿って語られていると思われる。それは、アメリカ合衆国建国の父の一人として讃えられるベンジャミン・フランクリンが、「成功者への道はいかにして開かれたか」というテーマをもって記した、アメリカのロング・ベストセラーの一つである『フランクリン自伝』の影響を受けているという。
もうひとつは、「一身の独立」を果たすために、「身体の健康のためには、食事に注意し、適度な運動が必要」、「勉強は、理論の為ではなく、現実社会での実践が目的である」、「商売をして豊かになることは否定すべきものではない」、「子どもの教育には手間暇を惜しむべきではない」などの、実践的な人生訓が散りばめられているという点である。
また、福沢諭吉の性格であろうが、基本的なトーンが明るく、楽観的に感じられる点も、本書を馴染みやすいものにしている。
社会人になって読んでも十分に楽しめるが、望らくは学生時代に読んでおきたい作品であろう。
(2010年6月了)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
あの「学問のすすめ」を著した福沢諭吉が、晩年に自身の人生を振り返った自伝である。
しかし注意しなければならないのは、語られるべきだが触れられていない人々が数多いるそうだ。例えば福沢に実学を重視するという思想を植えたのは「海防学」で有名な野本真城だが語られていない。
また、故郷中津藩にあった改革党は実学派と尊皇派の二派閥があり、福沢は後に学友から命を狙われた。そういう過去を隠したかったのか、中津の友人たちについては黙している。そういう意味で自伝とは言いながらも語っていない部分も多いのだということを頭の片隅においておかなければならない。
それにしても福沢諭吉という人は偉大な人物だから、どんなに素晴らしい人生を送ったのかと思ったら、意外にもとんでもないことを種々やらかしている。大坂の緒方洪庵の適塾では、大酒を飲んで暴れたり、喧嘩を仕掛けたり、ひどいことをよほどやったようだ。
そのかわり勉強もした。儒学、朱子学の系統を嫌い、蘭学を志した。そのうち蘭語があまり役に立たないと知ると、あっさり英語に転じ、米国へ何度も行って知識や情報を吸収してくる。帰国後、翻訳や著作を多くしたのは知られているとおりである。
終始一貫しているのが「貧乏や身分制度など、一身の独立を阻害する敵を、品位を損なうことをせずにいかにして打ち破ったか」という一点に収斂されている。
あの一万円札で有名な福沢さんがどんな一生を送ったのかを知るのに大変良い一冊である。 -
『福翁自伝』はその名の通り福沢諭吉の自伝です。福沢諭吉の口述を文字起こししたものなので、本人の言葉遣いもそのまま文字になっていて、話を聞いているように読めました。
貧乏だった幼少時代、長崎遊学時代、大坂の適塾時代、海外視察、維新、暗殺に怯えた日々などなど、本書が書かれた60歳頃までのことが書かれています。 -
福沢諭吉が60年近くの人生をふり返りながら口述筆記させてまとめた自叙伝。
本書を読むことで、福沢諭吉の人柄だけでなく、幕末から明治維新の頃の雰囲気を知ることができます。
また、巻末の解説を読むことで、自叙伝では書かなかった事柄やそれに対する福沢諭吉の思いも感じることができます。 -
尊敬に値する人物かどうかは疑わしいですが、憎めない親父であることはわかりました。表紙の写真はカットされてる部分にこそ意味がある。編集者は写真の意味が分かっていない。
1.この本を一言で表すと?
・変人の一生 − 変人だからこそ歴史に名を残した
2.よかった点を3〜5つ
・禁酒から煙草(p93)
→どんな奴やねんと突っ込みたくなる内容。最後に反省しているところがお茶目。
・英学発心(p119)
→これまでの蘭学、漢学を一切すてれる思追い切りの良さ。
・刀剣を売り払う(p188)
→合理主義、思い切りのよさ、捨てる勇気に関心。
・幕府の攘夷主義(p213)
→権力への批判をくどいほど繰り返しているのでよほど権力をきらっていたか、あるいはよほど日本の行く末を心配していたか。おそらく後者のほうが強い?
・学者をほめるなら豆腐屋もほめろ(p230)
→平等主義、芯が通った考えを貫きとおせる強さがいい。
2.参考にならなかった所(つっこみ所)
・ところどころ自慢話が入っている
・家族の事はごくわずかしか書かれていない。
3.実践してみようとおもうこと
・何かを思い切って捨ててしまって新しいことに挑戦するのもいいかもしれない。
4.みんなで議論したいこと
・現代でもこれほど名を残せている理由は何だと思いますか?
5.全体の感想
小説のような感じで楽しく読めました。いろんな面白いエピソードがありますが、勉強に対する猛烈さ、教育に対する熱さは本を通して強く感じました。 -
司馬遼太郎は、「この国のかたち 六」の「言語についての感想(五)」で、本書(福翁自伝)について、「明晰さにユーモアが加わり、さらには精神のいきいきした働きが文章の随処に光っている。定評どおり自伝文学の白眉といっていいが…」と絶賛していたので、読むのを途中でやめてしまっていた本書を再読。
本書を読んで感じる福沢諭吉像は、よく言えば独立独歩、悪く言えば唯我独尊、強情、意固地といったところか。ただ、解説によれば、諭吉は「フランクリン自伝」を参考にし、「独立自尊への道を示す」ことを主題として、この主題にそぐわない事実は取り上げなかったようであるから、政治や政府に積極的に関わるなど、実際の諭吉はもっと合理的でリーズナブルだったのかもしれない。 -
こちらの解説が興味深い。
フランクリンの自伝からの影響。それも、彼の人生という物語そのものへの影響の話。
二つの近代化の話。
大隈と共にこの立場に立つところのイギリス式近代化と、プロイセン式の近代化。
明治14年の政変が画期。なかなか面白い。