すぐそばの彼方 (角川文庫 し 32-3)

  • KADOKAWA
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感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (412ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043720033

感想・レビュー・書評

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  • ずいぶん前に読んだのでうろ覚えだが、序盤のほぼ廃人のような生活から中盤の政治家として手腕を発揮するまでにかけての移り変わりが、主人公の目を通して描かれているところが面白かった。
    そして感動のラスト。ネタバレになってしまうため詳しくかけないのが残念だが、このラストを読むためだけにこの本を買ってもいいくらい。
    白石一文の著作の中で一番いい。

  • 白石一文第3作

  • 話の展開が素敵。
    思わず寝るのも忘れて朝まで読み耽ってしまった。

  • えーと、京都〜福岡間で読んだ本。一度自分を見失った人の再生のお話。けど、最後にたどり着くところは、とても良かった。その感触だけでもいい本だと思った。欲を言えば、気付くのが遅すぎたってことですかね。

  • もってる白石一文の中ではこれがいい

  • ちょっと弱いよね…と思いました。

  • 読んでみての感想ですが、うん、面白かったです。ただ、難しかった。まだ一度しか読んでないですが、世界観(政治的側面)や構造(時間軸が交錯する)が少々僕のオツムには高尚過ぎた感はあります。もう一度読まなければ…。

    で、その上でレビュー。てんで頓珍漢なこと述べてしまうかもしれませんが、そこはまあご愛嬌というところで。

    著者が早稲田の政経卒ということもあってでしょうか、政治に対しての洞察は深いものがあったと思います。国内、国外の政治に関する詳細なデータが所狭しと書き綴られ、また歴史的な事項に関する記述も相当にありました。政治や歴史などに関しては完全に門外漢である僕(いや、単純な勉強不足です。はい)は、いきおい、読み飛ばさざるを得ない箇所も多々…汗顔のいたりです。

    世界は全て主人公の主観を通して展開されています。

    ある事件を通してカミーユばりに精神崩壊してしまった主人公が、政治の世界を通して徐々に再生していく様が描かれているんですね。なので、作品の中では徹底して「政治の傍で生きる人」と「それ以外の人」という二項対立が描かれています。

    前者は極めて理知的、というか世俗的、端的に言えばおそらく僕たちが政治家に対して抱いているであろうイメージそのまんまで描写されています。
    一言で言うと「なーんか、嫌な奴らだなぁ…コイツラ…」みたいな感じですか。確かに嫌な感じの奴らなのですが、それでも彼らの悲しみや苦しみ、そして政治というものが原初的に内在している業というものを分かりやすく描いていた。

    『金はそんなに汚いか。(中略)織田信長のように鉄砲買ってそこらじゅうでぶっ放すやり方と、太閤さんのように大判小判バラまいて笑って宥めすかすのと、どっちが日本人は好きなんだ』

    今の政治のあり方、確かに良くない部分も多々あるんでしょうが、それでも長い時間をかけて構築されてものです。
    『暴力につぐ暴力による制圧、それがもたらす退廃的な世界』
    とか、
    『くだくだしく対話して、悠久とも言える時間をかけておいて結局事態は一歩も進まないという無力感』
    を政治家は誰よりも感じているんでしょうか。

    金を全ての尺度として計ること…世俗にまみれたやり方でありながら、しかし最も合理的で生産的なやり方−−と、妄信的に思うことはできませんが、しかしそういう側面はあるんでしょう。

    それはともかくとして、後者、つまり政治の世界から遠い人たちも登場します。

    主人公は最初はこちらの側から段々と政治の世界へとスライドしていくことになります。おそらく単純な政治小説ならばどちらかの視点のみに重点が置かれたのかもしれないんですけど、主人公が最初「とてつもなく弱い人間」として描かれていたので、政治・非政治の間で揺れ動く様はそれなりの説得力がありました。悪い言い方をすれば『どっちつかず』とも取れますけど。

    中盤あたりから政治色が一気に強くなるので、作品に流れる空気としては非政治な人たちに対する言外の侮蔑感ってのはあったと思うんですよ。その中で主人公も徐々に政治の側で生きようと決意していく。

    それはおそらく、政治の世界に生きる人間の強さ、たくましさ、もしかしたらしたたかさ、に魅力を感じたからなのでしょう。明確な記述はありませんでしたが主人公がそういう憧れを抱いたであろうことは推察できます。彼は己が精神崩壊したことにかなり自責の念を感じていました。強くなりたい、自分が強くさえあればああはならなかったはずだ…というような感じで。

    その彼にとって、政治家のタフさは輝いて見えたはずです。ある意味で情緒や感情などを一切捨てて、政治という戦争の世界に身を置く彼らが誰よりも強く見えた。反射的に、感情論や建前論ばかりに終始する非政治な人たちの中に身を置くことが苦痛になる。政治の世界に行かなければ自分はまた弱くなるかもしれない、と葛藤する。その中で彼は政治の世界へ身を投じていく。

    しかし彼を再生してくれたのは、他ならぬ政治の傍にいなかった人たちなんですよね。つまり主人公が蔑み始めた人たち(非政治的な人)が「前提」となり、彼は政治の世界に身を投じるという「結果」が得られる。確かに非政治的な毎日の中で主人公は自己崩壊をきたしたのですが、それを救済したのは政治ではないんですよね。この辺りが物語のコアでした。単純な「政治家マンセー!」的な作品じゃなかったというか。まあ、ありがちとも言えますけど…。


    概ねこんな感じでしょうか。ラストは、ああ、まあ、そうくるかー、ってなもんですか。賛否両論あるみたいですね。僕的にはもう少しボリュームが欲しかったかもしれません。

  • 沼田さん推薦

  • 読んだことのないタイプの本だった。
    終始、政界のいろんな話が出てきて、政治に興味のない私は、途中で読むのをやめようかという気にもなった。
    けれど、物語の本質はそんなところにあるんじゃなかった。
    結局は人間の物語。
    総理大臣を目指す龍三の次男として産まれた主人公の龍彦は、甘い考えで大切なものを失ってしまう。
    自らも精神的なショックから手首を切り、自殺を図るが、一命をとりとめる。
    いろんな人が龍彦のことを支えてくれる。
    みんな大人で気付かないのは龍彦だけ。

    まるで自分の人生をみているような錯覚に陥る。
    最後の最後に、失ってはいけなかったものに気づく。
    何がハッピーエンドなのかは解釈の違いはあるけれど、裏切ってでも守らねばならないものもある。

    この本を何も感じずに読める人もいるのだろうか。
    私は深く落ち込んだ・・・

  • 大人になるにつれて「うまくやる」ことを覚えて、器用になって、でも、純粋さに代表されるようななにかを少しずつ失って。そうある自分やまわりにうまくなじめなくて。でも、結局は純粋になっていく。そんな主人公。政治の話は難しいのかもしれないけれど、それはこの人がストーリーの中に「難しい世界の中に生きるからこそ」シンプルでピュアなものの大切さをすりこませたものだと思う。

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著者プロフィール

1958年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋に勤務していた2000年、『一瞬の光』を刊行。各紙誌で絶賛され、鮮烈なデビューを飾る。09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、翌10年には『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。巧みなストーリーテリングと生きる意味を真摯に問いかける思索的な作風で、現代日本文学シーンにおいて唯一無二の存在感を放っている。『不自由な心』『すぐそばの彼方』『私という運命について』など著作多数。

「2023年 『松雪先生は空を飛んだ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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