遥かなる大和 上 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043828098

作品紹介・あらすじ

大和朝廷で改革を進める聖徳太子の期待を背負い、遣隋使に加わった留学生・高向玄理と南淵請安は、隋都で大使・小野妹子から密命を受ける。通事(通訳)・鞍作福利が、奪われた隋帝の国書を追って失踪したため、その行方を探ることになったのだ。高句麗侵略の準備に騒然とする隋で2人が見たのは、帝国の疲弊した現実だった。国書は誰に、なぜ奪われたのか?東アジアの視点から古代日本を活写する、全く新しい歴史小説の誕生。

感想・レビュー・書評

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  • 職場Tさんおススメ

  • 良い。実感の湧かない飛鳥・奈良時代を躍動感あふれる描き方をしている。高向玄理らが主人公というのがポイントだね。この時代はつい聖徳太子に目が行きがちだけれど、彼らに焦点を合わせることによって当時の国際問題も取り上げられているし、当時の面白い所を漏らすことなく描けている。
     本当、もれなく面白い。

     日本史の授業ででてくる影の薄い、高向玄理や旻や南淵請安ら渡海学生たちについて知りたくて読み始めたのだけれど、大当たりだった。まだ先は長くて飽きる人が多いみたいだけれど、今はそれを感じない。隋に対する革命の要素があって、適度なバトル物だから胸熱。

    ______
    p16 高向玄理の出自
     河内の高向の貧しい帰化系技術集団の中で育ち、その英知を認められ学生になるまで、非常に貧しい暮らしをしていたようである。

    p35 盗まれた国書
     小野妹子はかの有名な「日出処の天子…」の国書を隋帝に提出しに行った帰りに、隋帝から返事の国書を預かっていた。しかし、帰途、百済に寄った際に何者かにかすめ取られてしまっていた。大問題じゃん!!
     そのため小野妹子は流罪の刑にあったが大赦を得て、この小説のように再び高向玄理らと隋に派遣されている。

    p40 蘇我氏は新羅寄り
     蘇我氏は新羅寄りの人間で、日本の国政を新羅有利に進めようとしていたという説。新羅寄りというのは、新羅が蘇我氏を使って日本を味方につけようとしているということでもある。当時の日本は百済、高句麗寄りの政治を聖徳太子をリーダーに進めていた。

    p51 舟
     煬帝のつくったお城のような巨船「竜舟」船の長さは100mをゆうに超えて、運河の両側に作られた御道に千人もの人足に引っ張られて運河を移動する。水上の安房宮と玄理に思わせた。

    p89 裴世清の派遣ってすごいことだった
     超大国である隋から日本という海を隔てた小国に裴世清という大使(13人もの使節団を率いて)が派遣されたというのは、それほどのVIP待遇がされるだけの理由があったはずである。
     その事実から推し量ると、小野妹子が紛失した国書の中にはよっぽど重要なことが書かれており、その返事を受けるためにわざわざ大使をつけて小野妹子を帰国させたのかもしれない。
     この頃の隋の対外政策を考えると、紛失した国書の内容が推察される。煬帝は高句麗遠征を精力的に行っていた。ということは、高句麗にとって隋と闘っている背後に脅威があってほしくない。日本は高句麗の脅威になるよう、隋と同盟を組むよう国書に書いてあったのかもしれない。かもしれない。かもしれない。

    p118 隋から日本を護れ
     もし高句麗が隋に敗れたら朝鮮半島は怒涛の勢いで隋の勢力圏内に入る。その次に待つのは海を隔てた日本が隋に席巻されるだろう。
     そういった未来を防ぐために、隋にいる革命勢力を支援すること、壁になってくれている高句麗を支援すること、高句麗の背後を脅かそうとする新羅をけん制すること、、、日本はこれらの方策に取り組まねばならない。
     しかしその最大の障害になるのが、蘇我氏である。絶大な権力を握る蘇我馬子が日本の最大の敵になっているとは…

    p123 崇峻暗殺
     崇峻天皇は暗殺された。いまでも公式には東国の民が犯人とされるが、真実は蘇我氏がやったとみんなが知っていた。馬子は倭漢駒を使って天皇を暗殺した。

    p136 雀のごとし
     蘇我馬子は小柄で色黒な細面のおっさんだったらしい。物部守屋が馬子の太刀を佩いた姿を見て「猟矢負える雀のごとし」と言っている。
     彼は武官などではなく、知力と政治力と経済力でのし上がってきたタイプなのである。

    p141 小野妹子の罪
     小野妹子が煬帝の国書を紛失した罪は聖徳太子によって大赦を得た。しかし、蘇我馬子は自分のおかげで妹子は助かったのだからと恩着せがましく迫った。

    p165 崇峻天皇暗殺の理由
     公式の理由は胡散臭さぱない。崇峻天皇が暗に蘇我氏を排斥したいというような言葉を吐いた。それに危機感を覚えた蘇我馬子が自衛のために崇峻を討ったという。
     証拠もない嫌疑で天皇を殺すとかありえない。もっとまともな嘘をつけよ。

    p224 経済の者こそが力を持つ
     蘇我氏は経済力によって台頭した。それゆえに金によって歪んでしまった。とはいえ、大伴金村や物部守屋など軍人が経済の人間にやられているのだから、変化の時代だったことを表している。

     蘇我氏は新羅から賄賂を受け取っていたが、巧妙に横領をしていた。新羅からの日本への供物を受けるのは屯倉を管理していた蘇我氏である。新羅の使者は倉庫に入った供物がそこから何割が朝廷に運ばれるかは知らんぷりした。つまり、その削った分がそのまま蘇我氏に横領されていたのである。新羅の南にある任那は金の産地だったから大量の金の延べ棒をもらっていたようだ。

    p267 曇徴の役割
     慧慈は高麗からの渡来の僧で、高麗王:大興王との繋がりもある。その彼から小野妹子は紛失した国書の内容を聞いた。
     紛失した国書は大興王のもとにきて隋の戦略を把握した。それを大和に伝えるために雲徴に持たせて慧慈に伝えたのである。曇徴は製紙法だけでなく、もっと大事なものを持ち込んでいたのだ。という説。

    p279 国書を失ってよかった
     聖徳太子曰く「国書は無くなってよかった」という。もし国書が直接推古天皇に渡っていたら、日本は隋に味方するか、敵対するか、運命の選択を迫られていただろう。裴世清らの使節もいるから、返事を避けることはできない。それならいっそ紛失したということで、随意に協力するかの返答を避ける方が得策だったと言うのだ。すごい、超政治的な判断だ。小野妹子から国書を盗んだものも、これを狙っていたのかもしれない。
     
    p334 煬帝のせい
     隋軍が遼東城に攻め込んだ際、その戦力差を恐れて降伏する者がたくさんいた。中国らしい寝返り戦術である。中国の武将は強いものにつく。寝返ったものが次の日には敵の最前線でこちらに攻めてくる、ということも茶飯事である。そういう国である。
     しかし、煬帝はあまりに管理主義で上意下達を厳しくしすぎた。戦略上、なにがあっても勅命を得てから行動しなくてはいけないと規則を作った。そのせいで、敵の降伏を受け入れるのにも勅命が必要で、その返事を待っている間に降伏が無しになってしまうことがしばしばだった。

    p342 食糧の問題
     餓えた兵は、敵の町を奪ったら即座に略奪漢になって血眼で物を奪い漁るだろう。戦争は兵士を餓えさせる。それによって死に物狂いで敵から奪おうとする。戦争は餓えの問題とも考えられる。

    p388 革命に大義はもてない
     革命は大義のもとに集まるものだが、それを成就させるのに正義はいらない。正義だけでは大志は達成できない。
     楊玄感は言う「大義では食えぬ、大義では兵は集められんのだ。勝ち続けること、兵を食わせ続けること、この二つによってだけ革命は成される。」
     確かにきっかけは大義で集まっても、そこに賞賛が無ければ革命軍という烏合の衆はすぐに離散する。
     革命は大義を持つが、大義でやるもんじゃない。深い言葉だ。
    _________

     
     後半の中国の合戦の話が面白すぎて、日本の飛鳥時代が題材の小説だということをすっかり忘れた。

     でも続きが非常に楽しみな終わり方だ。すぐに読もう。

  • 煬帝の悪政に国が乱れた隋への遣隋使の派遣。新羅を従えて高句麗を征服し、朝鮮半島征服後には倭国をも飲み込もうとする隋。高句麗を助け、隋の侵攻を食い止めようとする厩戸皇子らと親新羅の蘇我馬子の対立。3回に及ぶ高句麗侵攻で国力は衰えたが、楊玄感率いる反乱軍は鎮圧され・・・。

  • この時代は、国内的には権力闘争が激しく、国際的にもとても緊張感があります。また、多彩な人材が輩出されるので、誰か魅力的に描いて欲しいものです。

  • 吉士雄成、コク斯政、李密が素敵すぎる。

  • 全3巻。
    「青雲の大和」「大和燃ゆ」へ続く、
    著者古代史三部作の1作目。

    聖徳太子のもとで、
    日本を新しい国家へと生まれ変わらせようと奮闘する
    遣隋使・小野妹子と、
    旧体制の権化とも言うべき蘇我馬子の政争を、
    大陸、朝鮮半島の事件を絡めて描くスケールの大きな物語。

    先に読んでしまった「大和燃ゆ」にくらべ、
    日本語の変な言い回しや忘れ去られるキャラが少なく、
    登場人物のメジャーさもあって結構引き込まれる。

    が。
    物語は前半・中盤・後半と、
    焦点の当たっている事件が移り行くのだけど、
    中盤は完全に中国の物語になってしまっている。

    それが必要だったとはいえ、
    ちょっと深入りしすぎな気がした。
    途中に別の小説が挟み込まれてる感じ。
    そのせいで、物語の背骨と言うか、
    全体を通した物語感が少し弱くなってしまった気がする。
    登場人物達への感情移入が阻まれ、
    いまいちのめり込めなかった。

    とはいえ、
    いろいろと考えさせられた物語ではある。
    国家の中枢に反国家的な物欲主義の政治家がいたり、
    中国の周辺国に対する姿勢だったり、
    半島の国々の処世術だったり、
    いまの世の中に置き換えて読むことができる。
    小説とはいえ、
    どんな昔からそんな事してんのよと思わずにはいられない。

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著者プロフィール

1939年兵庫県生まれ。京都大学文学部卒。63年産経新聞に入社し、大阪本社編集局社会部長、同編集長、東京本社論説委員長を歴任。92年『ソウルに消ゆ』(筆名・有沢創司)で第5回日本推理サスペンス大賞受賞。古代史を体系的に描いた「古代からの伝言」シリーズで話題になる。

「2010年 『青雲の大和 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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