火あぶりにされたサンタクロース

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (124ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044002206

作品紹介・あらすじ

戦後フランスで巻き起こったサンタクロース論争を起点に、現代社会における大人と子ども、死者と生者、そして人類にとっての贈与の意味に切り込んでいく。日仏の人類学者が競演するクリスマス論の名著、新装版。

感想・レビュー・書評

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  • 『火あぶりにされたサンタクロース』クロード・レヴィストロース著・中沢新一訳/解説

    サンタクロースというのは何者なのか?
    サルトルが寄稿依頼をした本文献では、異教徒とキリスト教会の折衷、贈与世界という宇宙観を絡めながら説明していく。
    クリスマスを考える上で、異教徒的な宇宙観でこの時期がどのように考えていたのかを抑えておきたい。秋から冬至にかけては、太陽の力が最も弱まる時期であり、多くの死者の霊が生者の土地に来訪すると考えられていた。生者は彼らに対して、様々な贈与を行うことで、冬至までの間に死者の世界に帰ってもらうよう懇願する。(ざっくりすぎるかもしれないが、日本でいうお盆に近いだろうか)
    その中で、死者に対して確実に贈与を行ったことを人々が認識されるためには、何者かが死者の代理とならなければならない。それが、未だイニシエーションを受けておらず、社会の成員として認められていないマージナルな存在たる子供や若者であった。古代ローマのサトゥルヌス祭では、この時期に、一切の身分や秩序を廃したヨコの連帯(無礼講)と若者組や子供組の組成というタテの分断が二つのダイナミズムとして現れる。前述の通り、若者組や子供組は死者の代理であり、子供組は死者の仮装をして生者やの世界に対して贈与を懇請する。(ハロウィンの風習である。)一方、若者組はその膨大なエネルギーを余ることなく使い果たし、放蕩や乱暴の限りを尽くす。このような、死者の代理としての、若者や子供に対して、生者として歓待し、贈与を行うことで、死者に対しての義理を果たし、次の秋までは現れないという確約を取り付ける。これが異教徒的な秋から冬至までの解釈である。
    果たしてキリスト教会は、この太陽の力が弱まる時期=闇の時期に未来の救世主が誕生するというキリスト降誕の世界観を接ぎ木することで、異教徒的世界観を同化し、吸収したのであった。同時にキリスト教会は、この若者・子供たちの暴動と大人たちの歓待という厄介な冬まつりを引き受けねばならなかった。
    このような厄介な冬まつりの伝統は、フランス革命に端を発する近代のエートスと啓蒙のムーブメントの名の下で、糾弾され、消滅していった。近代のエートスは社会から死者=他者=若者・子供という外部を徹底的に内部化していった。そして、啓蒙の名の下で、子供や若者は教育の対象として暴動や贈与の懇請を行うことを拒絶された。そして、それは近代社会の出現とともに、人間にとって「死」という存在が恐怖を感じるに足る存在ではなくなったことを意味しており、「死」への畏怖の減少は、子供・若者への畏怖の減少となり、彼らは都合よく社会に吸収をされていった。さらには、贈与という観念すら、商業主義の波の中に併合されかけていった。
    しかし、贈与がもたらす人々への霊的な繋がりや、人々の深層心理に潮流する秋から冬至にかけての生命力の弱まりを、完全に駆逐することはできなかった。そこで、近代社会は、子供や若者を自らの内部においておきながら、彼らに贈与を行う外部から到来するイマジナリーな存在を要請したのである。それがサンタクロースである。サンタクロースは近代社会の中で、手を尽くしても駆逐することのできない「死」という外部の存在を鎮静化する為に、資本主義の中で、人々が深層心理で欲望する「贈与」を代理表象するために、生み出された想像的な外部である。まさしくチャールズ・ディッケンズがクリスマス・キャロルをして描こうとしたのは、資本主義精神を徹底的に身に着けたスクルージが、クリスマスに登場する霊的存在により、贈与により再教育され、死者に接近し、そして突き放されることで生命力を賦活される物語なのである。ここに、サンタクロースの出自が描かれるのである。

    この本を読んでいて思うのは、ハロウィンの起源も、基本的には子供を通じた死者への贈与と歓待であることである。そして、ハロウィンにおいて、昨今社会を騒がせている問題が、渋谷の若者の暴動であるだろう。この本を読んで思うのは、所謂「渋谷ハロウィン」なる若者の暴動は、死を恐れず、贈与をせずに富を滞留させている現代社会のエスタブリッシュメントに対する死者の怒りを若者が代理表象しているのではないかという一つの見方である。
    これはいささか都合のよすぎる解釈かもしれない。渋谷ハロウィンで仮装し、酒をのみ暴れまわる人々は、人々が集まり、愚行の限りを尽くして、社会外部の復権と贈与の復興をさせようとしているわけでない。しかし、本書を読んで、サンタクロースの召喚までの道のりを概観するに、そのような行き過ぎた発想も看過されても良いものではないかと思い、ここに記すのである。

  • 1952年に発表された論文。
    冬至の頃の生命エネルギーの低下、死者の力の隆盛に対して、贈与のエネルギーをもってして鎮めようして行われた祭りが古来からの連綿と続いてきた。
    その異教的パワーをそぎ落とそうとしてキリスト教はこの祭りをキリストの生誕祭、クリスマスとして吸収しようとした。
    ところがそのプリミティブパワーがアメリカさんの持ち込んだ資本主義のおかげで息を吹き返してしまった。
    それに対抗しようとした教会がサンタクロースを1951年、ディジョンの大聖堂広場で火炙りにする。
    ところが、実はその行為自体が、まさに連綿と続く贈与のパワーのシナリオを補強し、完結させることになっている皮肉。
    レヴィ=ストロースの本文は半分ほど、残りは中沢さんの解説。

  • <Le Père Noёl supplicié>
      
    写真/芳賀日出男、芳賀八城(芳賀ライブラリー)
    装幀/小林剛(UNA)

  • 国際教養学部 南郷晃子先生 推薦コメント
    『「サンタクロース」を入り口に、高名な文化人類学者の思考の一端に触れてみませんか。』

    桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPAC↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/597494

  • 凄く面白い。クリスマスに贈り物をする行為にはキリスト教が存在する遥か古来の人々の根源的な恐れが発端となっているという解釈がされている。現在のクリスマスにあたる季節は冬至の時期にあたり、太陽の光が1年のうちで最も弱まるため、死者の霊が帰ってくると考えられていた。生者はそれを恐れ、死者の霊に扮した子供(社会参加が不完全であるため、生者と死者の中間に)への贈り物を通し、死者に贈り物の霊を渡すことで、黄泉の国へ帰って貰うようにした。その風習は贈り物

  • 著者: Claude Lévi-Strauss(1908-2009)
    訳・解説: 中沢新一
    装幀:小林剛(UNA)
    底本:『サンタクロースの秘密』(せりか書房)
    定価:1,980円(税込)
    発売日:2016年11月25日
    在庫:×
    ISBN : 9784044002206
    サイズ :四六判   
    頁数: 124
    寸法(横/縦/束幅): 128 × 188 × 15.0 mm

    戦後フランスで巻き起こったサンタクロース論争を起点に、現代社会における大人と子ども、死者と生者、そして人類にとっての贈与の意味に切り込んでいく。日仏の人類学者が競演するクリスマス論の名著、新装版。
    https://store.kadokawa.co.jp/shop/g/g321608000602/

    【目次】
    口絵 
    新版のための序文(二〇一六年十月) [001-005]
    目次 [007]

    火あぶりにされたサンタクロース  009
      原注 061
      訳注 062

    解説 [071-113]

  • 1951年、ディジョン大聖堂前で聖職者の同意の下で火あぶりにされたサンタクロース。
    なぜ聖職者はサンタクロースを危険視したのかをサンタクロースの背後に潜むキリスト教以前の信仰、儀礼から考察する本でした。
    本の前半はレヴィ=ストロース 、後半は翻訳者による解説。
    大人と子供、霊の世界を『贈与』を通して考えることはアメリカ的商業重視のクリスマスプレゼントとは違う捉え方で新鮮で奥深かったです。

  • 火あぶりにされたサンタクロース

  • 中沢新一:序文「じつにクリスマスは、キリスト教世界の生んだ習俗の世界的ヒット作と言っていい。」と、のっけから惹かれるあおり。
    冬至は、現世の生者の世界とあの世、死者の世界のとの境界の力が薄まり、境目が弱くなるという伝承は日本でいうお盆のようなものだろうか。「死」を身近に感じつつ、それを遠ざけるため、境界の弱まる冬至に戻ってくる死者たちが、自分たちを連れていくことなく、死者の世界に機嫌よく戻ってくれるために贈り物をしたのだと、この本では紹介されている。ハロウィーンもその一つか?
    こうして死者たちが引き上げていき、冬至に最も弱まった(とされる)太陽が死に、生まれ変わり、新年となり春、夏に季節が向かっていくという考えは、世界のあちらこちらでみられるようだ。
    サンタクロースが広がることは、クリスマスの拡大を補する役割を果たすことになり、火あぶりにされる必要はないように感じたのだけれど、新しく広まったサンタクロースのイメージが従来のキリストの生誕祭としての宗教的イベントとは離れていることが一つには問題だったようだ。加えて、この本でストロースは、現代のクリスマスのプレゼント、贈答とイベントは、かっての原始宗教時に行われていた死者への贈答、祭りでの異集団の一体感、高揚感と類似性がある、心の中の異教的傾向への断罪が、サンタクロースの火あぶりだったとしている。
    この辺りは、若干十分理解しきれないところもあったのだが前書きと解説を書いている中沢新一先生が、『NHK100分de名著 レヴィ=ストロース 野生の思考』に寄せている解説の方が、その関係が理解しやすかった。

  • 確かに、キリストの降誕を冬至の日近くにしたというのが、死と再生の物語に好都合であったということ説には、納得させられること大であった。
    冬至とキリストの降誕のことはよくわかったが、南半球ではどう扱われていたのだろう。たぶん、ローマ教会がキリストの降誕を12月に設定した当時は、南半球は世界ではなかったということなのであろう。

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著者プロフィール

1908年11月28日ベルギーに生まれる。パリ大学卒業。1931年、哲学教授資格を得る。1935年、新設のサン・パウロ大学に社会学教授として赴任、人類学の研究を始める。1941年からニューヨークのニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチで文化人類学の研究に従事。1947年末パリに戻る。1959年コレージュ・ド・フランスの正教授となり、社会人類学の講座を創設。1973年アカデミー・フランセーズ会員に選出される。1982年コレージュ・ド・フランス退官。2008年プレイヤード叢書(ガリマール社、フランス)全1冊の著作集Œuvres刊。2009年10月30日、100歳で逝去。著書『悲しき熱帯』(1955)〔全2巻、中央公論社、1977、中公クラシックス、2001〕、『野生の思考』(1962)〔みすず書房、1976〕、『神話論理』四部作『生のものと火を通したもの』(1964)〔みすず書房、2006〕『蜜から灰へ』(1966)〔みすず書房、2007〕『食卓作法の起源』(1968)〔みすず書房、2007〕『裸の人』(1971)〔二分冊、みすず書房、2008/10)他。

「2023年 『構造人類学 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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