古墳とはなにか 認知考古学からみる古代 (角川ソフィア文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044007638

作品紹介・あらすじ

なぜ、日本列島に前方後円墳のような巨大古墳が生まれたのか。長をまつる巨大な墳丘を「見上げる」行為や、石室の位置や様式、埴輪、また鏡・刀などの副葬品から、古代の人びとは何を感じとっていたのか。竪穴式石室から横穴式石室への大転換はどのように起きたのか。人の心の動きの分析を通じて解明。神格化の装置から単なる墓へ。3世紀から7世紀の日本列島に16万基も築かれた古墳とは何であったかを問う、認知考古学の最前線。

感想・レビュー・書評

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  • 松木武彦さんは、私の三大リスペクト考古学者の1人である。他2人は、故近藤義郎先生、故佐原真さんだから、現役は松木さんだけ。最近はビジュアルの良さとハッキリモノいうスタイルが評価されているのか、良くテレビ出演するようになった。見た事ある方もおられると思う(3人のうち松木さんだけ、少し直接質疑応答をしたことがあるのが、私の密かな思い出)。

    考古学で未来を測るという態度は、3人とも同じなのではあるが、松木さんは認知考古学をイギリス留学までして本格的に日本に持ち込んだ。2010年代からその成果を次々に本に書いてきていたが、本書は2011年に単行本化された時には、関心外の古墳のことだと思って私はスルーしていた。今回読んで本の殆どは、正しく私の最も知りたかったことがゾクゾクと書いていて不明を恥じた。弥生時代から古墳時代に移る、「日本の姿」を墓を通じて明らかにしただけでなく、吉備国のその後、世界から見た古代日本にも言及していたのである。

    文庫本後書きで、認知考古学の「方法」についてこのようにまとめている。
    「古墳とは何かを明らかにするためには、それを作り出した「人間」とはなにかを知る必要があり、さらにそのためには、それ自体が著しい進化の産物である人間=ヒトの心と身体のメカニズムを、進化科学の知見に沿って理解しておく必要がある。本書の副題の認知考古学とは、その理解に沿って考古資料を分析・解釈する方法のことを指している」(303p)
    世界的に流行っている「人類史」は、そういう科学的発展の基に書かれているのだと予想することができる。今のところ、この観点で考古学を著述しているのは日本では松木さんだけなのだから、考古学のトップランナーなのではないか?

    今年5月文庫化に際して、加筆・修正したようだ。最新で、日本のトップレベルの考古学の成果がここに明らかになる。

    実は、この後延々といつものように私的学んだ事をメモしていたのだが、本を読みながらうたた寝していると、気がつくと、書いたものを全部一文字づつ「消去」していた。つまり復元不可能の消去がなされていた。それは私的にはかなりショックの出来事であり、もう一度書き直そうとこの1週間何度も思ったけど、気力が湧かなかった。幸いにも図書館から借りたのではなく、手元にある文庫本なので、みなさんには、あまり興味もないであろうメモ部分は、省略することにした。大変面白かった、という最もレビュー的には面白くない結論を添えておく。



  • 松木武彦「古墳とはなにか」:思っただけじゃ学問じゃないですから。 - 山形浩生の「経済のトリセツ」(2011-08-16)
    https://cruel.hatenablog.com/entry/20110816/1313513535

    「古墳とはなにか」松木武彦著|日刊ゲンダイDIGITAL(2023/07/06)
    https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/325559

    松木 武彦|研究者紹介|研究|国立歴史民俗博物館
    https://www.rekihaku.ac.jp/research/researcher/matsugi_takehiko/

    「古墳とはなにか 認知考古学からみる古代」松木武彦 [角川ソフィア文庫] - KADOKAWA
    https://www.kadokawa.co.jp/product/322302000118/

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    kuma0504さんの本棚から
    「私の三大リスペクト考古学者の1人」だそうで期待大。

  •  本書の主な内容
    〇前方後円墳の成立年代
     ・鏡や土器の型式の検討、年輪年代、放射性炭素といった複数の手続から、纏向の前方後円墳は3世紀前半には出現し、半ばごろには箸墓が完成していた(76頁)。
     ・一方で経済の中心については、生産技術の一つのメルクマールである鉄器を見ると、鉄センターの拠点は九州北部と考えられる。
       ⇒ツクシとヤマトの関係 

    〇前方後円墳の形(第2章)
     ・箸墓を例に取ると、箸墓の前方部が、後円部の上からゆるやかに、しかし深く降下し、そこから再び前方部の前端に向かってせり上がる、逆放物線のスロープ面を作る形を目指した結果としてできた形(99頁)。
     ・後円部は石室と棺
     ・天理市柳本行燈山、渋谷向山古墳では、後円部頂から前方部へのスロープは極めて急になって、両脇の後円部斜面とあまり変わらなくなる一方、前方部は端まで長くなり、プラットフォームのような形になる。そのため古墳全体の長さも伸びることとなった(127頁)。
     ・大型前方後円墳の築造が奈良市の盆地北辺部に移ると、箸墓型のスロープ上の前方部が復活してくる(129頁以下)。
     ・前方後円墳に大規模かつ典型的に表現された古墳のカルトは、畿内を本源として各地に伝わっている。何かの利を願って主を神格化するカルトが畿内で整備され、同じ利を願う各地の人々がそれに同調したところに、古墳を大きく入念に営む慣わしが、きわめて短期間のうちに広がったと考えられる(149頁)。
      ⇒当初の利の一つが、生産を支える鉄の可能性にあったのではないか。
     
    〇「巨大古墳の世界」(第3章)
     ・3世紀後半から4世紀にかけて、大型前方後円墳が奈良盆地東南部に集中しており、そのほかの地域はほとんど空白に近い。その不均衡は何を意味するのか?
       →地域の頂点に立つ長がサミットメンバーとして大和に墓を営むべく地元を 「留守」にしたためではない か(164頁以下)。
     ・4世紀後半になると、古墳の分布パターンが激変する。各地に前方後円墳が築造されるが、そのスタイルや要素に高い共通性が認められる(177頁)。
       →王と侯のような関係だったのではないか。
       ⇒さらにその背景として、各地の長の戦略が、それまでの交易から、自らが支配していた土地に生産拠点を建設し、その産物も活用して農業生産の進展を図る、という交易から殖産興業へと転換したのではないか(198頁)。

    〇第4章「古墳文化の衰亡」(第4章)
     ・5世紀以降、古墳の小型化、墳丘の衰退、横穴式石室の普及という現象が見られ る。こうした変化は、それまでの英雄を仰ぎ見るための古墳から、地域支配者の一族の墓へと変貌したことを表しているのではないか(252頁以下)。
     ・その背景としては、列島の暮らしを支える基幹資源である鉄の国内生産が可能となり、外交や交易を征して資源や文物をもたらす英雄=プロバイダーの性格が変わってきたことによるものである(同上)。

    最終章の「第5章 世界のなかの古墳文化」では、東アジア墳墓文化、さらにはヨーロッパの墳墓文化をも見据えた上で、日本の古墳文化を考えていく必要があることが述べられる。

     一口に古墳と言っても、時代や地域による違いがいろいろあることについて詳しく説明がされているし、古墳が作られた社会的背景等についても十分な考察が加えられていて、非常に勉強になった。
     ただ、本書の副題の「認知考古学からみる古代」という点について、著者も本文で「認知考古学とは」と多少の説明はしてくれているのだが、どういった考察が認知考古学による成果なのかということが、十分には理解できなかった。

  • 2011年に選書で出た本を文庫化。古墳の在り方、副葬品や構造から読み取れる文化的な背景など、これまでの古墳論(曰く前方後円墳は大和朝廷が下賜しその権力の伝播の証である、三角縁神獣鏡は卑弥呼が魏から賜った鏡である等、読んでも「んなワケねーだろ」と感じていた昭和の頃の見方)をまったく無かったことにして、違う視点からその古墳を支えた社会がどのような社会だったかを読み解きながら、その成り立ちとどのような集団が古墳を作ったのか、その造営を後押ししたものはなんだったのかが明快に説かれていて、とても面白かった。特に前方後円墳が巨大化したのは、封建制が始まっていたのと、宗教カルトとして広まったから、との捉え方が面白い。また、同時代の東アジア、西ヨーロッパと比較し、形は違えどまったく同じ頃に同じように各地で古墳が巨大化し、その後いきなり作られなくなっていくのがシンクロしているのが面白かった。古墳が巨大化したのは、紀元後の気候変動(寒冷化)が原因というのもなるほどと思ったし、その直前にローマと漢の大帝国の栄華に翳りが見え始めたことに呼応している説も面白い。古墳が各地で廃れるのはキリスト教と仏教という、より精神性に関心がある宗教に取って変わられたせいだという説にも大賛成。世界はやはり互いに影響を受けながら連動しているのだな、と思った。

  • ・松木武彦「古墳とはなにか 認知考古学からみる古代」(角川文庫)を読んだ。私は単なる古墳の書であらうと思つてゐた。ところが「はじめに」にはかうある。例へば「なぜ前方後円墳なのか」等々「といつた根本的な疑問(中略)これらの問題にアプローチするには、歴史学としての考古学よりもむしろ、人類学や社会学や認知科学としての考古学が力を発揮する。(原文改行)この本では、それらのうち認知科学を用いた考古資料の解釈法=認知考古学を加味して、古墳の成立から発展を経て衰退にいたる道筋をさぐってみた。いわば、心の考古学による古墳の理解である。」(7〜8頁)「心の考古学」とは何かと考へてしまふのだが、 同時に「古墳の成立から発展を経て衰退にいたる道筋」ともあ る。これはたぶんごく普通の考古学だと思はれる。古墳時代である。実に多くの古墳がある。 それらの成立から衰退の過程は 普通の考古学でわかるはずであ る。だからこそ古墳に関して様々なことが言はれてきたに違ひない。
    ・古墳時代以前の九州北部、「棺に物を入れられるような立 場の人たちが、おたがいの優劣を、物の種類や量によって絵解きされながら葬られてい」 (27頁)たといふ。副葬品の質や量でその人物のその集団に於ける位置、地位が、あたかも絵で描いたやうに見えるといふのである。これも初めは「墓地を営んだ親族集団内部での位置づけや関係を物語るものにとどまっていた。」(同前)が、や がて「九州北部一円におよぶ広い範囲での結びつきや、そのなかで位置づけを絵解きするもの」(28頁)となつていく。 それが古墳時代に入ると、「古墳は、生前自分たちの主であ り、リーダーであった首長を、『神』に転化する装置」 (「神」に「ゴッド」のルビつき、121頁)となる。本書で はここで初めて「神」が登場するのではないか。もしかしたらこれが「心の考古学」といふものであらうか。「古墳の長は、 沖ノ島の『神』と同じ扱いを受 けている。長を『神』と同化させることも、弥生社会とは明確に異なる古墳社会の特徴であり、長をそのようにする機能こそが、前方後円墳を冠とする古墳の本質のひとつだった。」(122頁)古墳のことはほとんど知らないので、そこに葬られる「長」を神とするなどといふことがあつたのかと思ふ。確かにあの大きな古墳に祀られるのは「神」こそがふさはしい。「古事記」以前の時代である。記録として残されてゐなくても 沖ノ島の状況から想像できる。たぶん、当時の列島中で行はれたことであらう。人が神になつたことを確認はできない。古墳時代か、古墳以前か。いづれにしろ古い昔のことである。それを知らうとするのが「心の考古学」なのであらう。だから逆に 「神々のたそがれ」(276 頁)もあるし「神はどこへいった?」(251頁)といふ疑問もある。この言はば理屈つぽい説明は、「個人の記念碑から一 族の奥津城へと墳墓を変質させ、まもなく消滅へと追いやったのは、横穴式石室化の波だった」(279頁)といふことになる。それはまた宗教とも関はる。日本や東アジアでは仏教(280頁)である。これもまた「心」の問題である。宗教に関はつて古墳、つまり墳墓が変はる。大体、お釈迦様は紀元前、イエス・キリストは紀元1年に生まれたことになつてゐる。日本への仏教伝来は6世紀、当然さういふことも起こる。「心の考古学」が神や仏のみで終はるはずがない。その他にも関はつてゐる。それでもなじみないものだが、ただ、古墳の歴史といふ点から見れば実におもしろく刺激的であつた。なかなかかういふ書はない。私は考古学者を単なる土掘り屋さんと思つてゐたらしい。反省である。

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著者プロフィール

松木 武彦(まつき・たけひこ)
1961年愛媛県生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士課程修了。岡山大学文学部教授を経て、現在、国立歴史民俗博物館教授。専攻は日本考古学。モノの分析をとおしてヒトの心の現象と進化を解明、科学としての歴史の再構築を目指している。2008年、『全集日本の歴史1 列島創世記』(小学館)でサントリー学芸賞受賞。他の著書に『進化考古学の大冒険』『美の考古学』(新潮選書)、『古墳とはなにか』(角川選書)、『未盗掘古墳と天皇陵古墳』(小学館)『縄文とケルト』(ちくま新書)などがある。

「2021年 『はじめての考古学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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