テロリズムの罠 左巻 新自由主義社会の行方 (角川oneテーマ21 A 95)

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  • 角川学芸出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047101777

感想・レビュー・書評

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  • 先の衆議院選挙で自民党が圧勝したことにより、政治の世界は再び「新自由主義」の傾向を強めることが予想され、そもそも「新自由主義」とはどのようなものか理解を深めたくて手にした本。

    著者の立場は序章で明らかにされている。新自由主義は、国家(=官僚により維持されるシステム)の暴力性を強化する傾向があり、一方で貧富の差の拡大、国家の弱体化、政治的無関心などをもたらすので、これに歯止めをかけなければいけない、というもの。この視点を軸に、様々な時事問題(鈴木宗雄事件・情報漏えい事件)や政治について分析・議論を展開していく。

    興味深かった箇所は、2007年の第一次安倍政権の分析。小泉政権が新自由主義的だったのに対し、それを引き継いだ安倍政権は、より保守主義に重心を移そうとしたが、最終的には新自由主義と保守主義という相反する路線の矛盾を解消できずに自壊したという点。今回(2012年)の安倍政権が、この過去の教訓を、どのように生かしていくのか気になる。著者の保守主義についての定義(以下引用)もなるほど、と思った。

    “保守主義は、過去の歴史的出来事や伝統から、特定の要素を抽出して、再構成し、国民を統合する物語を作り出す。知的に高度な能力が求められる思想である。”(160ページ)

    ただ、ほとんどの章の初出はWebマガジンで、個別の事件や出来事についての分析を集めた本という印象があり、新自由主義そのものについての論説があまり多くない点は、少し物足りなかった。

  • あとがきの「テロとクーデターを避けるために」がテロリズムの罠というタイトルを非常に簡潔にわかりやすく説明されている。
    第1章「国家と社会と殺人」、第2章「蟹工船」異論と第4章「農本主義と生産の思想」がより面白かったかな。
    全体として右巻きよりもはるかに読みやすかった。
    もう一度左巻きも読みなおしてみようかな。

  • 官僚出身だからなのか、
    国家・官僚とは暴力的存在である。というのには、ドキッとした。

    文中、半分くらいが別の本や新聞からの引用で、
    引用し過ぎなのでは?と思った。
    明記しないときちんと述べられないというのもあるのかもしれないが、
    著者の考えを読みたいのに、何ページにも渡って引用されるとがっかりする。

  • 右巻よりかは、ぼくの好みでした。
    ちょっと主観よりかなーって気もしますが、強烈に鼻につく感じではないので読めます。
    『蟹工船』読解は面白かったです。

  • 蟹工船の章は蟹工船を読んでいないのと昔の小説を引用しているため、理解が進まなかった。

  • 佐藤優 雑誌等の論文をまとめた 左巻

    新自由主義がはびこる社会が、次々にやってきていることがわかる本。

  • 右巻に比べるとさらさらと読めた気がする。

  •  新自由主義と国家、テロリズムとの関連性を論じた本。左巻は新自由主義の抬頭について論じられている。国家=暴力(権力)装置というのが左右両巻に通底する流れである。

     死刑を執行する主体は国家の法務官僚の組織であり、これは可愛くない国や人を排除して「きれいな世界」を志向するというものという考えはよく知らなかったので感銘を受けた。弱い国家も弱い人間もすぐに暴力に頼るということだろうか。

     日本における新自由主義の抬頭は、ソ連型社会主義の崩壊が田中角栄型政治(政治家が選挙区に利益や公共工事などの仕事を誘導する政治体制)を破壊したことによるとされる。

     その結果、個人のアトム化(孤立化)、自分のことしか頭に入らない、政治的無関心の広がりが問題になる一方で、構造改革、既得権打破、規制緩和、小さい政府といったことが声高に叫ばれた。

     興味深い点を2点ほど紹介すると、
    ・権藤成卿『君民共治論』における社稷国家論
     下からの共同体国家、民衆自治・共存互済の体制が国体で、天皇の祭祀が複数の共同体をまとめるというもの。この他、社会制度を急激に変えようとすると、反動が起こるので、民衆の内面が徐々に変化するようにするべき、との見解も私のものに似ていると思った。

    ・新自由主義と保守主義は矛盾する
     新自由主義は規制緩和、小さい政府を志向するが、突き詰めればこれらは無規制、無政府に繋がる。無規制、無政府の方向に高度な知性も理論も必要ない。一方で、保守主義は「社会を急激に変えることはできない」という考えに基づいて伝統や慣習を重んじつつ、社会を漸進的に変えるという高度な知性なしに実行できない思想。

     その両方の思想の矛盾をポピュリズムで克服したのが小泉政権で、小泉政権よりも保守主義に比重を傾け、ポピュリズムを嫌って失敗したのが安倍政権。

     よく金融機関が国に守られていた手法が「護送船団方式」と呼ばれて批判されていたが、広く捉えれば、これは経済成長と企業に守られて来た日本社会全般に当てはまると思った。その護送船団方式が廃れつつあっても、その代替案がまともに講じられてこなかったと。社会保障制度も行動経済成長期とさほど変わらないし…

  • [ 内容 ]
    秋原原無差別殺傷事件、うち続く政権崩壊…。
    二〇〇七年から「最悪の年」二〇〇八年にかけて起きた国内の数々の事件・出来事、そして一大ブームとなった『蟹工船』の犀利な読解・分析を通じ、日本国家を弱体化すると共に暴力化し、日本社会の中に絶対的貧困とテロリズムへの期待を生み出した新自由主義の内在論理を徹底的に解読する。

    [ 目次 ]
    なぜいま国家について語らなくてはならないのか
    第1部 滞留する殺意―暴力化する国家と社会の論理(国家と社会と殺人 『蟹工船』異論 控訴棄却 農本主義と生産の思想)
    第2部 沈みゆく国家―新自由主義と保守主義の相克(内閣自壊 情報漏洩 支持率二パーセントでも政権は維持できる 北方領土と竹島)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  •  小泉政権で純度の高い資本主義へ移行を図った我が国は、新たな貧困層を生み出してしまった。世論でなく事件に屈した形での、国政転換を行ったが如く受け止められることは、極めて危険であることを説いている。
     また、平和ボケによる幕僚長の確信犯的「文民統制破り」。これは日露戦争からノモンハンまでの平和期間と酷似していると指摘している。
     いずれも「普遍的」で出るべくして出た事件であるという著者の見解は、世界的な視野で歴史を見ている証左である。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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