田中角栄研究全記録 上 (講談社文庫 た 7-1)

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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (435ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061341685

感想・レビュー・書評

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  •  今まで身内かそれに準ずる人たちからしか田中角栄についての話を聞いてこなかったので、ロッキード事件は濡れ衣だ、賄賂なんてなかった、後にも先にもこんな素晴らしいリーダー気質の政治家は存在しなかった、というような輝かしい話がほとんどだった。さすがに若干の胡散臭さを感じつつも、まあ別にいいや否定する根拠も意欲もそこまでの興味もないしとりあえずそういうことにしておこうという気持ちだった。

     この本は、そういう私が今まで聞いてきたことを膨大なデータや数値を用いて真っ向から全否定し、田中角栄を日本の政治史上前代未聞の金脈問題を起こした張本人として糾弾している。でもたぶん人として嫌いとか憎んでいるとかじゃなくて、こういう事実がありますよ、いまだに感情論で彼を称賛している皆さん大丈夫ですか、というテンションなんじゃないかなと勝手に推測した。悪意のない純粋な事実の羅列。他の政治家も多少なりとも問題は起こしていることを認めつつも、田中角栄は金銭的な規模の面で別格なのだということをあらゆる方向から論証していく。終盤はもう田中角栄批判というより、日本の政治体系そのものを批判しているように思えた。事前情報が何もない状態でこの本を読んでいたら、全く仰る通りです以外の感想はなかったと思う。

     でもなんだろう、全然腹が立つとか悲しくなるとかはなくて、よくも嘘を教えやがったなと今更恨みつらみを言いたくなるような気持ちにもならなかった。政治と企業との関係とか、献金と賄賂の違いとか、一般的に選挙には大体どれくらいお金がかかるとか、今まで全く知らなかったから目から鱗で、面白かった。身内が書いた本はどれも感情論が多い一方、この本は全部記録とデータが根拠だから、きっとこの人が言ってることの方が事実に近いんだろうなぁと思う。一方で、それでもやっぱり田中角栄は偉大だったとか今の日本にいてくれたらよかったのにとか根強く支持している人が今でも大勢いるところを見ると、それもそれで一つの事実なんだろうと思う。

     読了後、物事にはいろんな面があって、見る人によって感じ方や捉え方がここまで違うんだなあという至極一般的で面白みのない結論に至った。しかしこんな小学生でもちょっと勉強すれば自力で至れそうな結論に至るためにわたしは数日かけてこの分厚い本を読んだのかと思ったら、なんだか拍子抜けというか、自分自身が情けなくもなった。


    最後に、冒頭に書かれていた著者の言葉がとても印象に残ったので引用しておく。かっこいい人だなぁと思った。

    「単なる自慰行為としてものを書く人がいる。しかし私は、自慰のためなら他の行為を選ぶし、ものを書くなら、人を動かしたいと思う。それによって人を動かせないなら、物を書くという行為にそれほど魅力を感じない。(P.4)」

著者プロフィール

評論家、ジャーナリスト、立教大学21世紀社会デザイン研究科特任教授

「2012年 『「こころ」とのつきあい方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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