生き残った帝国ビザンティン (講談社現代新書 1032)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061490321

作品紹介・あらすじ

偉大なるローマを引き継ぎ、古代から中世を生き抜いた帝国ビザンティン。イコンに彩られた聖ソフィア教会、百万都市コンスタンティノーブル…。興亡はげしい文明の十字路に君臨した大交易国家の「奇跡の一千年」を鮮かに描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 東西分裂以来なんとなく存在感が薄い印象のある東ローマ帝国ことビザンティン帝国の歴史が、首都コンスタンティノープルの成立から1453年の滅亡まで皇帝を中心として書かれています。
    塩野七生の『コンスタンティノープルの陥落』で滅亡の時の印象が強かったのですが、西ローマ帝国より約1000年長く存続した帝国の歴史には一筋縄ではいかないものを感じました。
    ある時期にはうまく機能した制度も時代が変わると弊害になり、時代に応じた柔軟な対応が必要になるということが、同一帝国の1000年の歴史を通すと良く解るような気がします。

  • ローマ帝国の危機を前にして、キリスト教を取り入れたコンスタンティノス一世、古代民主政治に否を突きつけたユスティニアヌス一世からはじまって、イタリアよりスラヴ人への世界へと目を向けたコンスタンティノス五世、地方貴族の台頭を前にして、彼らとの提携へと支配体制を根本的に転換したアレクシオス一世、みずから国営模範農場に力を注いだヨハネス三世、バルバロイ(野蛮人)と軽蔑されてきた西欧に援助を求めたマヌエル二世。いずれの皇帝もただ伝統を守ったのではなく、新しいことを行なったのである。(pp.245-246)とあるように、柔軟にその形を変えていったこと。"「ローマ」理念に民衆の心を深くとらえたキリスト教を融合させて、その国家イデオロギーとしたところに、国家の強靭さの秘密があったのである。"(p.54),"血統や家柄には関係なく、実力と運さえあれば皇帝にさえなれるという、開かれた社会をビザンティン帝国はもっていたのである。"(p.76)という強さの秘密。これらがビザンティン帝国を生き残らせたのだ、と。そして、著者のキリスト教観も縦横に語られる。いわく、支配者に服従することとの親和性。異端とは聖書に忠実な人、と定義すべきではないか、という問いかけ。聖像崇拝を禁止することそれ自体は、はたして神を冒涜することであったのだろうか。"全能の神が、人々を救うために、人間の姿をとって地上にあらわれた、と説くところにキリスト教の最大の魅力があったのである。"(p.136)/

  • ビザンティン帝国の虜となるきっかけになった本。ビザンティン(東ローマ)帝国の通史で、主要な皇帝の時代を興味深いエピソードとともに描いている。「ローマ」としての意識を持ち続けながら時代に応じて巧みに変化し「生き残った」帝国の一千年の姿を魅力的に浮かび上がらせる良書。西欧中心的な西欧の役にたった存在としてのビザンティンではなく、主体的な存在としてのビザンティンを描き出す。2008年に講談社学術文庫から再版されている。その魅力的なビザンティン帝国の描き方で、今後も多くの人々を新たにビザンティンの虜にしていくことだろう。

  • ビザンツ帝国の歴史について、当時最新の研究成果のようだ。ビザンツ帝国の、特に業績を残した皇帝についての説明は興味深い。
    ただ、現在ではもう古いかな。今は研究の結果を反映して、教科書レベルでも西欧中心史観が薄れてきている。

  • 1990年刊。著者は大阪市立大学文学部助教授。

     イスラム圏からの防波堤、古代ギリシャ・ローマ文化の保管庫。あるいはバルカン半島住民の教化役・教師役と目されてきたビザンティン帝国。
     が、これは西洋から見たビザンティン史観でしかない。

     著者は、アラブ/トルコ・イスラムやイタリア都市国家・十字軍等の挑戦を受け続けながら、また文明の十字路というべき小アジアを基底としつつも千年余り続いた当該帝国の栄枯盛衰を、帝国内部からの視点・代表的人物の評伝という手法で解説する。
     
     いずれは読みたいと積んでいるギボン著「ローマ帝国衰亡史」。その前座として読みだしたが、なかなか興味深い一国史である。

     教科書等で細かく言及されたとの記憶はないビザンティン定刻の通史的な書籍であるが、その内実を見ると、千年紀においては幾度も存亡の危機を迎え、その情勢に即して制度や支配層を変え、脱皮していく。
     一見するとローマという錦の御旗、統一かつ一貫した帝国のように見える国家に隠された内実とは、革命的な変遷過程ということなのだ。
     また、皇帝職といえば、血縁的世襲を想起させるが、ビザンティンはこれと違い、事実上非世襲(実力主義)であったということと併せ、印象的な一書である。

  • イスラム教を理解するうえで、同時代のビザンティン帝国を避けて通ることはできない。
    そういう理解で、以前「ビザンツ帝国史」を読んだが殆ど役立たなかった。それは翻訳本であることと、著者が西洋人であることが原因であった。
    西洋からの視点ではどうしてもキリスト教の影響抜きに語れない。
    逆に、イスラム教徒が本を書いても同じである。
    その点、無宗教者である日本人の書いた本は、限りなく中立の視点で見ることが出来る。

    この著者はぼくより5歳も年上だけれど、この本を書いたのが43歳と若い。

    ぼくは常に、歴史をホンマかいな?という目で見るクセがある。
    その点、この著者とはやたら波長が合ってしまう。
    ぼくが疑問に思うことを、先回りして答えてくれている。
    この前に読んだ本とまるで異なる興奮を覚える。

    もちろん著者はビザンティン帝国の専門家である。
    ホントーに優れた歴史学者であるからこそ、面白く書けるのである。

    薄っぺらい新書に、実に豊富なポイントを整理して詰め込んでいながら、しかも読みやすい。

    図書館で借りてきたけれど、すぐに書店で購入してしまった。

    是非手元に置いておきたいと思ったからである。

  • 406149032x 254p 1991・1・25 2刷

  • 最近学術文庫化された一冊。この本は、僕が持ている本の中でたぶん最も古い本である。記憶に残っているのは中学二年の時に読んでいた記憶だから、たぶん初めて通して読んだ新書だと思う。
    これでしばらく、僕はローマの歴史が研究したくなっていた。
    真摯な研究者が淡々と資料をもとに歴史を語る。しかし、その言葉の一つ一つにドラマがある。こんな不思議な味わいは、現代風身に味付けされた歴史小説からも、歯ごたえをいとわない学術論文からも味わえない。
    新書というしょもつのもつ意義はここになるんだろうなと思ってします。
    登場人物の中では、圧倒的にマヌエル二世が面白い。斜陽の帝国、迫りくるオスマン軍、援軍を請う西洋旅行、「ギリシア人の皇帝」、、、。一つの国が滅びるとき、「古き良きもの」=ステータスを一人の人間が体現することがある。昭和天皇を知っている世代ならばだれしも想像がつくかもしれないが。そんな哀愁と耽美を最後の章からは感じることができる。

  • テオドシウス帝死後のローマ帝国の東西分裂からオスマン・トルコによる滅亡(395ー1453)まで1000年以上続いたビザンツ帝国(東ローマ帝国)について書かれています。
    内容はコンスタンティヌス帝のコンスタンティノープル(現:イスタンブール)建設からオスマン・トルコによる滅亡まで書かれています。もっと深くビザンツ帝国について知りたいという方には、少々もの足りないかもしれませんが、手始めに読む概説書としてはわかりやすい良い本だと思います。

  • 面白くて読みやすい。政治史、人物伝、制度史、社会史、エッセイ風雑文などそれぞれの記述のバランスがよく取れていて、かつ情報が取捨選択されてよくまとまっている。

  • <a href="http://www.bk1.co.jp/product/00735963"><B>生き残った帝国ビザンティン</B></a><br>(講談社現代新書 1032)<br> 1990.12<br><br><br>カテゴリーは「地中海」ですが、ビザンティン帝国に関する図書です。<br><br>目次より抜粋:<br>ローマ皇帝の改宗<br>「新しいローマ」の登場<br>「パンとサーカス」の終焉<br>栄光のコンスタンティノープル<br>苦悩する帝国<br>ビザンティン帝国の落日

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著者プロフィール

大阪市立大学名誉教授、元佛教大学歴史学部教授。専門はビザンツ帝国史。京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。

「2023年 『さまざまな国家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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