ユダヤ人とドイツ (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061490802

作品紹介・あらすじ

不幸なユダヤ人大量虐殺は、なぜ起こったのか?排除-依存の二面性のなかでゆれ動いたユダヤ人と、ドイツの錯綜した緊張関係を歴史的に検証し、過去の直視と克服がいかに可能かを模索する。

感想・レビュー・書評

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  • 難しい内容なのに、わかり易く書かれているのでスルスル読めた。ユダヤ人の前史からルターの反ユダヤ的提案、フリードリヒ二世のユダヤ人規定、早くにユダヤ人を解放したフランスに比べて遥かに遅れたドイツ人の認識。
    裕福で知識人として頭角を現すユダヤ人(ワイマール時代までにノーベル賞受賞者はなんと40人中11人がユダヤ人)に脅威をもつドイツ人が突き進んだホロコーストへの道。
    ネオナチの台頭。
    私達は何を学んだろうか、と各地の紛争に思ってしまう。

  • 古代からのユダヤ人の伝統とドイツ人の関わりからホロコースト、戦後を経て、本書執筆敢行直前に達成された東西ドイツ統一まで、主にドイツにおけるユダヤ人と、その迫害の歴史をまるで難解でなく、なめらかに、まさ筆致の基調に罪なくして弾圧され、圧迫され、大量に虐殺さえされるユダヤ人、ユダヤ系の人々への同情の念がありこの種のテーマはドライな態度で記述しようとする書籍類も少なくないだけに、最近類書を読んでいてなかなか感じなかった多少の安らぎを伴いつつ読了できた。概ね、ユダヤ人への、大規模な迫害を第1回十字軍(1096〜1099)から始まるとし、ホロコーストの終了までを概略的になおかつ飽きさせず専門的知識も最低限で済むように書かれた、優れた反ユダヤ主義と第二次世界大戦下におけるホロコーストの概説書であり、欧米近現代史の、「人類史上最大の犯罪 das schwerste verbrechen der Menscheit」に疎い人が少なくないと思われる日本人にとって最適に近い入門書として強く推奨できる書籍である。

  • 「ユダヤ人とドイツ」大澤武男著、講談社現代新書、1991.12.20
    254p ¥600 C0222 (2022.02.28読了)(2007.03.12購入)
    「ドイツのユダヤ人」という題名でもよかったのかなと思います。ドイツにおけるユダヤ人について書いた本と思われるので。

    ●「ユダヤ人と彼等の虚偽について」マルティン・ルター(58頁)
    反ユダヤ的な七つの提案
    一、ユダヤ人のシナゴーグや学校を完全かつ永久に破壊すべきこと
    二、ユダヤ人の家を打ちこわし、ジプシーのように彼等を一つのバラックか馬小屋のようなところへ集め、一緒に住まわせるべきこと
    三、彼等から全ての書物や律法書等を取り上げるべきこと
    四、ユダヤ教の祭司、ラビの活動を禁止すべきこと
    五、ユダヤ人の護送や安全な交通に関する保護を取り消すべきこと
    六、ユダヤ人に対し高利貸しを禁じ、彼等の全ての金、銀、財貨を奪い、別に保管すべきこと
    七、若いユダヤ人男女には斧やつるはし、シャベル、押し車などを与え、額に汗して日々の糧を稼がせるべきこと
    (ナチ政権の実行した反ユダヤ人政策の先取りと言える。狂信者の考えることは似ている。)
    ●ナチ政権によるユダヤ人の生存権剝奪(177頁)
    177頁から182頁まで1934年以降の反ユダヤ人規定や律法が年代順に紹介してあります。
    ユダヤ人の生存権がじわじわと剥奪されていったことがわかるようになっています。

    【目次】
    プロローグ
    1 前史――ユダヤ人とは
     宿命としてのディアスポラ
    2 ユダヤ人の財と賎性
     ゲットーの構造
     宮廷ユダヤ人に依存したドイツ
    3 後進ドイツとユダヤ人
     「ユダヤ人は我々の不幸だ」
    4 ワイマール共和国時代のユダヤ人
     ユダヤ人エリートの盛衰
    5 第三帝国時代のユダヤ人
     千以上もの反ユダヤ規定
     組織的な絶滅計画――ヴァンゼー会議
    エピローグ
    あとがき
    参考文献

    ☆関連図書(既読)
    「物語 ドイツの歴史」阿部謹也著、中公新書、1998.05.25
    「ドイツ史10講」坂井榮八郎著、岩波新書、2003.02.20
    「ヒトラーの抬頭」山口定著、朝日文庫、1991.07.01☆関連図書(既読)
    「わが闘争(上)」ヒトラー著・平野一郎訳、角川文庫、1973.10.20
    「わが闘争(下)」ヒトラー著・平野一郎訳、角川文庫、1973.10.20
    「アドルフ・ヒトラー」ルイス・スナイダー著・永井淳訳、角川文庫、1970.06.30
    「ヒトラーとユダヤ人」大澤武男著、講談社現代新書、1996.05.20
    「白バラは散らず」インゲ・ショル著・内垣啓一訳、未来社、1964.10.30
    「荒れ野の40年」ヴァイツゼッカー著・永井清彦訳、岩波ブックレット、1986.02.20
    「ナチス追及」望田幸男著、講談社現代新書、1990.08.20
    「ナチス裁判」野村二郎著、講談社現代新書、1993.01.20
    「ドイツ人のこころ」高橋義人著、岩波新書、1993.01.20
    「ぼくのドイツ文学講義」池内紀著、岩波新書、1996.01.22
    「脱原発を決めたドイツの挑戦」熊谷徹著、角川SSC新書、2012.07.25
    「ドイツリスク」三好範英著、光文社新書、2015.09.20
    「世界最強の女帝メルケルの謎」佐藤伸行著、文春新書、2016.02.20
    「ルポ 難民追跡――バルカンルートを行く」坂口裕彦著、岩波新書、2016.10.21
    内容紹介(amazon)
    不幸なユダヤ人大量虐殺は、なぜ起こったのか? 排除――依存の二面性のなかでゆれ動いたユダヤ人とドイツの錯綜した緊張関係を歴史的に検証し、過去の直視と克服がいかに可能かを模索する。
    過去の直視と克服――終戦後、ナチの残虐行為が全世界に知れわたった時、ドイツ国民は「ドイツ人であること」をこの上なく恥じ、くさいものにはふたをし、一日も早く忘れ去ろうとした。ドイツの学校でもこのテーマはタブーとされ、ほんのわずかしか取り扱われなかった。しかし、1979年1月、アメリカ映画「ホロコースト」がテレビで放映された時、初めてドイツ国民は大きなショックとともにナチ時代における残虐行為の全貌を知ったのである。ドイツ人にとって、明らかに情報不足があった。これとともに広まった加害者意識は、過去の問題を隠すことなく、それに真剣に取り組もうという勇気を生みだした。……それは、ドイツ国民の罪や責任云々よりも、「過去の直視と克服」の問題である。――本書より

  • ユダヤ人に対して、ゲットーに住めとか、職業組合ギルドに入るなとか、それがヒトラーまでくるとホロコーストになる。「ユダヤ人であること以上の悲しみはない」と言ったユダヤ人の気持ちは、大変な苦しみだろう。

  • 第一次大戦中、すでに西方化し、ブルジョアとして知識階級が比較的多かったドイツのユダヤ人にとって東方ユダヤ人との出会いは、初めて生きたユダヤ教信仰との出会いであった。当方のユダヤ人はその大多数がきわめて貧しい、憐れむべき状態で生活していた。しかし彼らは信仰の希望に生き、楽観的で陽気な民だった。

    反ユダヤ感情を盛り立てた1つの大きな要因としては第一次大戦前後に急増した東方ユダヤ人の存在である。終戦直後、ドイツには約16万の東方ユダヤ人が住んでいたが、そのうち約7万人は大戦中、ドイツにあった軍事産業角田市による人手不足のもとで、安価な労働力として東ヨーロッパより半ば強制的にドイツへ連れてこられたユダヤ人だった。

  • ユダヤ人が、なぜ世界各地に分散し、迫害を受け、国家樹立しようとしたのか知りたくて、本書を手に取りました。
    そもそもユダヤ人って民族ではなく、信仰によって括られてるんですね。
    歴史的に、金融業等、キリスト教徒には禁じられた職業を独占した(させられた)事により、富裕で知的な集団を形成し、それによって、危険な外的因子と思われたのでしょうか。
    ヒトラーも、恐怖心からユダヤ人への憎悪をつのらせていったんですね。

  •  ユダヤ人とは誰のことか、なぜユダヤ人は迫害されたのか、どのように迫害されていったか、なぜヒトラーの独裁が始まったのか、ということが分かりやすく解説されている。
     ポーランド旅行中に読んだ本で、アウシュヴィッツに行く前後もこの本を読んでいた。世界史オンチで、それまでホロコーストについて全く知らないおれでも、よく理解できる。特に、ホロコーストの事実そのものを知るよりも、その歴史的社会的背景を理解することが大切だと思う。この本を読めば、ユダヤの人々に対するヨーロッパ人の意識や、またヒトラーは何を考えて、どのように人々を利用していったのかということを知ることができる。
     アウシュヴィッツの収容所では、日本人唯一のガイドという中谷さんという方にガイドをしてもらったが、中谷さんの話ともよく調和する内容で、理解が深まった。(13/08/14)

  • そもそもユダヤ人がなぜ迫害をうけたのかが知りたかったため読了。
    時代時代で、強く悲しく生きていくユダヤ人達。

    殺害や迫害、近いところで言えば、イジメ。
    ここで共通する加害者側の意見は、異物に対する「嫌悪」と「恐れ」

    自分の暮らしのバランスが崩れているのを誰かのせいにするのに
    手っ取り早い相手は「異物」
    時代が悪ければ、悪の根源は全てユダヤ人のせいにされた。

    自分の環境が悪ければ、自分は誰に責任を転嫁するだろうか?
    政府。会社。親。親戚。家柄。地域。コミュニティー。色々あると思うが、
    そのどこかになんらかの異物があるとすれば、自分はそれを徹底的に憎むであろう。


    それがユダヤ人だった。
    イメージの刷り込みにより、国全体が動き、
    600万人が死んだ。

  • ユダヤ人はなぜ差別されているのか。キリストを裏切ったのはユダヤ人のユダだったから?(キリスト自身もユダヤ人のはずだが・・・。)キリスト教で禁止されていた貸金業を営んでいたから?(職業選択の自由が少なかったから仕方ないと思うのだが・・・。)お金持ちが多かったから?(貸金業を営んでいたら自然の成り行きだと思うが・・・。)

    今まで色々な理由を聞いてきたが、いまいちよくわからないユダヤ人問題。この本を読んで出た前述の答えは、全てイエスであり全てノーである。つまり、明確な理由がないからこそ、漠然と煙たがられてきたというのが現段階での私の答え。

    キリスト教地域において、異教徒であること。それは、同じ地域に異文化の人を内包するということである。当然習慣も違えばルールも違う。でも一緒に住まなくてはならない。そういう場合、少数派は多数派によって差別され、廃除の対象となる。それこそがヨーロッパに住むユダヤ人であった。

    特に中世キリスト教社会では禁止されていたお金に関する職業についていた人が多かったため、近代資本主義社会に移行するとユダヤ人は社会で影響力を持ち始める(戦費はユダヤ人資本家の同意がないと出ない等)。そういった中で、今まで優位だと思って暮らしていた多数派の人々の間で危機感と強烈な嫉妬心が現れ、極端なホロコーストにまで至ったのだろう。

    ユダヤ人とは、人種ではなくユダヤ教を信じる人々であるということが、いまいちホロコーストの「ユダヤ人絶滅」という概念とリンクしなかった。人種ではないのだから、改宗で事足りるのではないかと。本書によれば、ヒトラー政権により、ユダヤ人の定義が定められる。それは、祖父母の代に1人でもユダヤ教を信じていればユダヤ系、両祖父母のうち3人がユダヤ教を信じていればユダヤ人ということになる。この規定により、自身はキリスト教徒であっても、ある日突然ユダヤ人というレッテルを貼られてガス室に送られた人が大多数であったという。

    ヨーロッパでの差別によって約束の地イスラエルや自由の国アメリカへ散って行ったユダヤ人たち。彼らが現在の紛争の火種になり、また新しい歴史を作っていることを忘れてはならない。ユダヤ人問題はまだ終わっていない。

  • ナチスドイツによる、狂気のユダヤ人全滅政策を歴史的に丹念に追っていて、大変分かりやすかった。
    移民排斥運動に至る過程、他人事だと関心を払わぬうちに最悪の事態を招いた失態、ともに現代への貴重な教科書である。

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