動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061495753

感想・レビュー・書評

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  • いわゆるオタク系作品、美少女ものや戦隊ものなどが、どのような時代背景から出来上がっていったのかわかる本。アニメ・漫画系のサブカルチャー、とりわけエヴァンゲリオンやうる星やつら、美少女ゲームをかじったことのある人であれば、「動物化」がイメージしやすいはず。

    全般的な時代の風潮として、現代にも直結する議論であると感じた。

    近年の傾向として、「異世界もの」が流行している。現代社会に生きていた主人公が何らかの理由で異世界(多くの場合は、中世ヨーロッパ・魔法とモンスターの世界)に飛ばされるというものである。これもまた、「異世界」というある種の理想郷と、何らかの要素(どのように転生するか等)と掛け合わせた、データベース的なものに過ぎないように思う。また、複数の異世界もの作品が流通しているのは、異世界もの好きな人がいるということに他ならない。すなわち、彼らは複数の小さな物語を欲望し、同時並行的に消費し続けている。




    以下、印象に残った文を引用。




    オタクたちが社会的現実よりも虚構を選ぶのは、その両者の区別がつかなくなっているからではなく、社会的現実が与えてくれる価値規範と虚構が与えてくれる価値規範のあいだのどちらが彼らの人間関係にとって有効なのか、たとえば、朝日新聞を読んで選挙に行くことと、アニメ誌を片手に即売会に並ぶことと、そのどちらが友人たちとのコミュニケーションをより円滑に進ませるのか、その有効性が天秤にかけられた結果である。そのかぎりで、社会的現実を選ばない彼らの判断こそが、現代の日本ではむしろ社会的で現実的だとすら言える。

    日本では、大きな物語の弱体化は、高度経済成長と「政治の季節」が終わり、石油ショックと連合赤軍事件を経た70年代に加速した。オタクたちが出現したのは、まさにその時期である。

    ポストモダンでは大きな物語が失調し、「神」や「社会」もっジャンクなサブカルチャーから捏造されるほかなくなる。

    九十年代には、原作の物語とは無関係に、その断片であるイラストや設定だけが単独で消費され、その断片に向けて消費者が自分で勝手に感情移入を強めていく、という別のタイプの消費行動が台頭してきた。この新たな消費行動は、オタクたち自身によって「キャラ萌え」と呼ばれている。

    ガンダム:エヴァンゲリオン=大きな物語:大きな非物語

    「キャラクター」は、作家の個性が創り出す固有のデザインというより、むしろ、あらかじめ登録された要素が組み合わされ、作品ごとのプログラムに則って生成される一種の出力結果となっている。(中略)もはやオリジナル・キャラクターのオリジナリティすらシュミラークルとしてしか存在しないとも言えるだろう。

    今や、個々の物語が登場人物を生み出すのではなく、ギャクに、登場人物の設定がまず先にあり、そのうえに物語を含めた作品や企画を展開させる戦略が一般化している。

    コジェーヴによれば、大きな物語が失われたあと、人々にはもはや「動物」と「スノビズム」の二つの選択肢しか残されていなかった。

    ポストモダンの時代には人々は動物化する。そして実際に、この10年間のオタクたちは急速に動物化している。その根拠としては、彼らの文化的消費が、大きな物語による意味付けではなく、データベースから抽出された要素の組み合わせを中心として動いていることが挙げられる。彼らはもはや、他者の欲望を欲望する、というような厄介な人間関係に煩わされず、自分の好む萌え要素を、自分の好む物語で演出してくれる作品を単純に求めているのだ。

    近代の人間は、物語動物だった。彼らは人間固有の「生きる意味」への渇望を、同じように人間固有な社交性を通して満たすことができた。言い換えれば、小さな物語と大きな物語のあいだを相似的に結ぶことができた。
    しかしポストモダンに人間は、「意味」への渇望を社交性を通しては満たすことができず、むしろ動物的な欲求に還元することで孤独を満たしている。そこではもはや、小さな物語と大きな非物語のあいだにいかなる繋がりもなく、世界全体はただ即物的に、だれの生にも意味を与えることなく漂っている。

  • 2019.7.15
    今更読む。僕が学生の頃、宮台真司あたりが終わりなき日常を生きろみたいなことを言ってたけど、あれからもうだいぶ経ったんだなぁ。

    人間が大きな物語を志向していた事自体が近代の幻想な気がするよ。

    現在のオタク達は結構な強度をもっているよなぁ。

  • 「動物化するポストモダン」東浩紀著、講談社現代新書、2001.11.20
    193p ¥735 C0236 (2019.04.30読了)(2014.07.19購入)(2012.08.24/25刷)
    副題「オタクから見た日本社会」

    【目次】
    第一章 オタクたちの疑似日本
    1 オタク系文化とは何か
    2 オタクたちの疑似日本
    第二章 データベース的動物
    1 オタクとポストモダン
    2 物語消費
    3 大きな非物語
    4 萌え要素
    5 データベース消費
    6 シミュラークルとデータベース
    7 スノビズムと虚構の時代
    8 解離的な人間
    9 動物の時代
    第三章 超平面性と多重人格
    1 超平面性と過視性
    2 多重人格

    参考文献・参考作品
    謝辞

    (「MARC」データベースより)amazon
    いま、日本文化の現状についてまじめに考えようとするなら、オタク系文化の検討は避けて通ることができない。コミック、アニメ、ゲームなどオタクたちの消費行動の変化から現代日本文化を読みとってゆく。

  • ポストモダンをオタク文化をモチーフに読み解く。ただのアイディアだけではなく、だからこそ見えてくるより複雑な社会的表層を見事にくみ取っている。まさに東的仕事だと感じた。

  • いまさら読んだ。書かれてからわりと経つけどデータベース消費の理論はいまなお有効だしあらゆることにいえる。終盤のインターネットの話はちょっと学生のレポートを読んでいるような気がした。

  • 見田宗介、大澤真幸ら、気鋭の社会学者の言う理想の時代、虚構の時代という枠組みは、よく理解できる。
    だが、オウム事件や阪神大震災以降の大澤真幸の言う、不可能性の時代というのは、非常に、解りづらい。
    その点、この東浩紀の言う、オタク社会から切り取った動物化という概念は、大澤の持つ熟慮や深みには欠けるが、非常にわかりやすい。
    久々に、読書の醍醐味を、少し味わった。
    古い世代に向かって語ると、この東のデータベース、シュミクラールという議論は、
    丸山真男の「日本の思想」のササラ文化、たこつぼ文化に相通ずる。
    問題は、人間は、やはり、物語を必要とする。
    時代は、どう進むかだ。
    また、大きな物語が終焉後、人々が、大文字を語り出したのには、関連性があるのであろうか?
    残念ながら、90年代にTVを賑わした多重人格は、現在の心理療法の世界では、眉唾ものであり、本気には、取り上げられていない。
    乖離性障害というのは存在するが、
    あのTVの世界の人々は、無意識的にか、誰もが赤ちゃん、お母さんとわかるものを演じ、TVを見ている者は、それを通して、その背後のお母さんという大きな物語を了解し、多重人格という物語を紡ぎ出したに過ぎない。
    大きな物語は、消滅したが、人々は、派遣と言えば劣悪な環境というイメージを抱き、新たな無数の小さな物語を語り出す。
    ここには、人間の脳の機能が関係している。
    人間の脳は、単なる事実の羅列よりも、ストーリーとして捉えた方が、記憶に定着しやすく、理解が進むのである。

    続編を期待して読むことにしよう。

  • 00年代の古典?

  • 「データベース消費」なる語をあちこちで見かけ始め、なおかつ「大きな物語が存在し得ないポストモダン」みたいな言説に「じゃあ現代とは?」と思っていた中で、格好の本だった。
    最後の一文によく現れているように、これを受けて、まさに今を生きる人々が、それぞれにそれぞれの眼前の課題をどう認識するか、という問題なのだと思う。

  • 動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)

  • オタクと日本のあいだには、アメリカが、存在する。

    読んでいて、面白い。
    非常に解りやすい言葉、文章で書かれているが、非常に重要な事を述べている。

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著者プロフィール

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』など。

「2023年 『ゲンロン15』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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