リヴァイアサン (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061591400

作品紹介・あらすじ

世界の部分秩序である国家を、「主権」という、唯一神の「全能」の類比概念によって性格づける国家論は、基本的に誤った思想であり、また帝国の「主権国家」への分裂は、世界秩序に責任をもつ政治主体の消去をもたらした、人類史上最大の誤りではないか…。ホッブズ、ケルゼン、シュミットという西欧の三人の思想家の「国家論」を基軸として、国家史の再構成を試みた画期的論考。

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  • 法学の泰斗である著者が、ホッブズ・ケルゼン・シュミットの思想を手がかりにしながら、抑圧装置としての国家を批判している。ホッブズにおける理性概念の分裂など、非常に興味深い論点が多かった。

  • 法哲学の巨匠・長尾龍一先生の学会誌等で掲載した論文を集めて作られた本で、法学部や政経学部でも難解に感じるものが多いだろうと思われる逸品。ケルゼンやシュミットに興味のある学生は一読あるべし!

  • 憲法改正や緊急事態条項が政治課題となる中で、近年シュミットについての研究書や解説書が続々と出版され、関心は高まる一方だが、その好敵手であったケルゼンは、アカデミズムの内外を問わず、かつてに比べ殆ど注目されなくなっている印象を受ける。法哲学の教科書を覗いてみても、カント哲学をベースにしたイデオロギー批判者として一定の注意は払われながらも、法実務に即して言えば、ケルゼンは観念論的な法実証主義者として文字通り過去の人となりつつあるのかも知れない。

    二人はともに法学を通じて国家のあり方を問うた。それは法学の限界を極限まで突き詰めることで、法学の外部、即ち「政治」を問う営為でもあった。シュミットは例外状態という法学の限界を鮮やかに照射し、それを乗り越えるべく法学の革新を企てた。国家によって国家の隘路を突破する試みと言ってもいい。対するケルゼンは、あくまで科学としての法学を純化し、法学の外部(=政治)を法学から放逐することで、国家を法学の内部に閉じ込めようとした。この違いは二人の国家観の違いによる。シュミットにとって国家は自己の実存をかけた具体的な存在であり、その再生が急務であった。一方ケルゼンには国家はどこまで行っても支配者の道具に過ぎないという諦観がある。

    著者の長尾龍一氏は、日本でいち早くケルゼン法学の認識論的基礎を明らかにし、そのイデオロギー批判の意義を説いた人だが、当然ながらケルゼンの国家観に共鳴する。だが好むと好まざるとに関わらず行政国家化が進展する中で、支配者の道具という国家観、ひいては国家に対峙する自立的な市民という問題構成はリアリティを失っている。国家を相対化し、コスモポリタニズムを称揚するケルゼン=長尾氏の「イデオロギー批判」も所詮は一個のイデオロギーに過ぎない。勿論、シュミットの時代に輪をかけて世俗化と脱政治化が進んだ今日、実存の対象としての国家というものが多くの共感を得られる筈もない。シュミットの国家観がカトリシズムに根差す特異な終末論的歴史観と表裏をなすことは本書の指摘する通りだ。

    本書は20世紀前半という危機の時代に類稀なる知性がどう向き合ったかを知るには格好の書物であるが、出版が30年近く前ということはあるにせよ、もはや今日的な意義は乏しい。(もっとも、シュミットやケルゼンとの対比で論じられるホッブスに、マキャベリストにして規範主義者という両義性があるとの指摘は思想史的に極めて興味深い。)だが本書末尾に描かれるように、人間がシステムによる完全な制御の対象となるおぞましい未来図は、あながち荒唐無稽とも言えない。我々は国家に過度な期待も幻滅もせず、適切に制御しながら、その現代的な役割を再定義しなければならないだろう。だがその道筋はシュミットの方向にもケルゼンの方向にもない。

  •  ホッブズから始まった「国家」に対する思索を、ケルゼンを中心に解説・批判していく。
     国家の成り立ちの歴史から解説していくので、歴史の流れを理解しやすかった。国家観の違いによって、独り善がりな戦争が起こったりするのが中世から近代だったらしいが、現代に近づくにつれてアメリカ的な「正義」の色が濃くなっていく。それがもたらしたものが現代の国際関係だとすると、一体なにが正解なのだろうか。

  • "純粋法学"で有名なケルゼンとその対立項に位置するC.シュミットの戦前ドイツでの"国家論"論争を軸にその時代背景と二人の人間ドラマを描き出しています。

  • 2009年2月18日購入

  • \105

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