- Amazon.co.jp ・本 (407ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061857193
作品紹介・あらすじ
チェルノブイリ原発事故による放射能汚染食品がヨーロッパから検査対象外の別の国経由で輸入されていた!厚生省の元食品衛生監視員として、汚染食品の横流しの真相突明に乗りだした羽川にやがて死の脅迫が……。重量感にあふれた、意外性豊かな、第37回江戸川乱歩賞受賞のハードボイルド・ミステリー。
感想・レビュー・書評
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1.著者;真保氏は、小説家・脚本家、元アニメーター。「笑ゥセェルスマン」等の演出を担当した。仕事をしつつ、「連鎖」を書き、江戸川乱歩賞受賞、その後会社を辞め小説家に転身。「ホワイトアウト」で吉川英治文学新人賞、「奪取」で山本周五郎賞等受賞。主に推理小説・サスペンス小説を執筆。
2.本書;羽川(主人公)が、農薬の残留する汚染食品の横流しを調査していくうちに、チェルノブイリ原発事故による汚染食品に関する事件に巻き込まれていく物語。事件や人間が種々雑多に絡み合い、複雑に交錯する事実と伏線の下、結末を早く知りたいという読者の緊張感を高める。狂牛病や鳥インフルエンザ等の食の安全に関する問題が続発(連鎖)する中で、色褪せない物語。40節(話)の構成。
3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
(1)『第4節』より、「放射能に限らず、農薬、食品添加物、抗生物質の一部と、数々の有害化合物質が我々の周りを取巻いている。科学が進歩するにつれて、その数はこれからも飛躍的に増え続けていくに違いない。それらは、あらゆる環境を蝕み、動植物の体内で生態濃縮を繰り返し、やがては食物連鎖の頂点に立つ人間に集積される。そして、我々の体内で濃縮された汚染物質は、我々の子から孫へと、果てしなく繋がっていく」
●感想⇒今でも狂牛病・鳥インフルエンザなど、食を脅かす問題が日常茶飯です。本書は1994年出版。汚染食品を取り上げた走りと言えます。真保氏は、食品Gメンの仕事や食品輸出入・安全基準等の専門知識を綿密に調査しました。私は、本書によって食の安全に気付かされました。「輸入食品の表示からでは真の原産国は分からない」と言われると、食の安全を確保する術がありません。行政はマイナンバーカードを始めとする体たらくのオンパレード。自分の身は自分で守るしかありません。私は出来る事として食品添加物には気を付けています。着色料・保存料・殺菌剤等を出来るだけ、使っていない食品を買うようにしています。「我々の子から孫への」汚染物質の連鎖を何としても避けたいものです。
(2)『第13節』より、「(枝里子)私がつまらない人間だった。人を引き付ける魅力にない凡庸な人間だった。なのに、それをみんな赤い髪のせいにしてただけ。それだけよ。だってそうよね。皆がみんな、人を外見だけで判断なんかするはずないじゃない。人を引き付けるのは、外見じゃなくて、最終的にはやっぱりその人の内面でしょ」
●感想⇒「人を引き付けるのは、外見じゃなくて、最終的にはやっぱりその人の内面でしょ」について。確かに、人間の魅力は内面、則ち人間性(真摯、誠実、嘘を言わない・・・)にあると思います。内面はその人の言動に表れます。しかし、❝言葉では7%の情報しか伝わらない❞と言います。人間の本性を見極めるのは難しいという事ですね。以前に「人は見た目が9割」と言う本が話題となりました。著者は「言葉より見栄えの方が、よりその人の本質を表している」とまで言います。外見は人を知る入口です。オシャレをしろと言うわけではなく、清潔感があり、年齢に見合った身なりをするのが良いと思うのです。柴田錬三郎氏が言っていました。「歳を重ねれば顔に相応のシワが増えるが、人間の勲章だ」と。外見にうつつを抜かすより、精神的な内面を鍛えて、年輪を刻むシワを増やしたいものです。
(3)『第39節』より、『真由子は父の復讐をしようとしているのだ。「誰もがそんな事をしたらどうなるんだ。恨みを晴らす為に新たな犯罪を犯せば、また別の悲しい出来事が新たに生まれて、それをまた恨みに思ったものが、また復讐を・・・。そんな悲しい悪循環が続いてしまうだけじゃないだろうか」・・・どこかで誰かが涙を呑んで、歯を食いしばってでも、この救いようのない鎖を断ち切らなくてはならないのだ』
●感想⇒「歯を食いしばってでも、この救いようのない鎖を断ち切らなくて」と言うセリフは、ミステリーの常套句です。復讐は、復讐者に瞬間的な自己満足を与えるだけです。とは言え、大切な人が被害にあったら、仕返ししたいという心情も理解出来ます。例えば、我が子が度を超すいじめを受けたら、報復してやりたいと思うのが人の情だと思います。「誰かが涙を呑んで、歯を食いしばって」は私のような凡人には困難かもしれません。しかし、自制と熟慮を重ね、法を犯すような仕返しに走らず、大人としての対応が必要です。重要なのは❝将来に禍根を残さない❞行動でしょう。
4.まとめ;本書は、江戸川乱歩賞受賞作品です。食品検査にまつわる取材も行き届き、選考委員会では満場一致で受賞に推されたそうです。主な選評です。五木氏「アクチュアルなテーマの選び方と、主人公の職業の設定に新鮮さを感じた」。阿刀田氏「社会派推理小説らしい骨子を備えた手厚い作品」等です。当時は、このテーマの目新しさが評価されたのでしょう。しかし、良い作品だと思う一方で、私の嗜好に合わない点があります。一つは、話の展開が目まぐるしく、言いたい事の骨子がよく見えない事。二つ目は、ミステリーとは言え、人間物語なので、人生や生き方に関する著述が少ない事です。乱歩賞作家でも、池井戸氏「果つる底なき」の様に、主人公が銀行員の立場よりも、人間としての生き方を優先させる記述に魅力を感じます。(以上)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
緻密な仕掛け・ストーリーが楽しめる一作だと思います。いかんせん細切れで読んでいる私は、どうしても頭の中にはいってこず・・・
ぜひ一気読みをお勧めします。 -
1991年の江戸川乱歩賞受賞作であり、この作品から真保裕一のファンになったもんだ。
書棚から何気に手に取り、そのまま15年ぶりに再読。
パソコンも普及せず、ワープロ花盛り、携帯電話もない時代の作品に、今更ながらに隔世の感を味わう。
所謂、小役人シリーズと言われた最初の作品であるが、けっして古さは感じられない、そこは真保裕一たる所以か。
警察で自殺と処理された友人の死に疑問を抱き、殺人事件の立証に奮闘する食品Gメンの活躍。
自殺を装うトリックは推理小説の妙であり、放射能汚染食品、輸出入食品の積戻し疑惑、ココム違反、、等々の事案が満載され、ハードボイルドと情報小説との融合ともいえる。 -
テレビで本を取り上げる番組に出てきた作家は、
作家らしい雰囲気を持っていなかった。
しかし、犯人が捕まって、刑務所から出てきて、
それまでのことをどう考えるかを考える作品がないといって、
書いたという新作を紹介していた。
どうも、その表現が気に入った。
「殺人」という行為。
そのあとの人間的考察が、おもしろい。
汚染された食品は、日本でどのようにくい止められるのか?
食品Gメンは、捜査権を持っていても限界がある。
放射能で汚染された食品が、いろんなルートを通って、
日本にやってくる。
日本は、ある意味では、汚染食品の天国かもしれない。
牛肉、ココア調整品。
どのようなルートで、日本にやってくるのか?
当然、水面下のことを知りながら、輸入する人がいる。
羽川という検疫所につとめる食品衛生検査官が主人公
小役人をベースにする。
小役人に、何ができるのか?
参考文献がおもしろい。
「レッドフォックスを追え」 日経産業新聞編
「恐るべき輸入食品」 港湾労働組合・ 合同出版
「よくわかる輸入食品読本」 全税関労働組合 合同出版
「チェルノブイリ食料汚染」 七沢潔 講談社
「食卓にあがった死の灰」 高木仁三郎+渡辺美紀子 講談社
「気をつけよう輸入食品」 小若順一 学陽書房
「肉の教科書」 山口勧 富民協会
「牛肉ー自由化の戦い」 横田哲治 富民協会
「農薬毒性の事典」 植村振作 三省堂
ある意味では、食糧の自給率を守れというより、
食料がこうやってすれすれのものがきているという実体を
推理小説の中で暴くという手法は、おもしろい。
作者は、「謙虚で、虚勢を張ることがない。」主人公が好きだという。 -
彼の作品は2つ目だけど今回も後半は相当込み合ってくるね。食品Gメン。いいよ〜いいよ〜、カッコいいよ。
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面白かったです。堪能できました。篠田まではなんとなくわかったけどまさか高木までとは・・・脱帽です。1991年の作品で食品汚染(偽装)をテーマにしてるけど20年近く経ってる今でも旬のテーマといえるでしょう。そう考えると人間って奴は進歩しないなぁ・・・・
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輸入食品の汚染を摘発する仕事に就いている主人公のもとに、汚染食品の流通の実態の取材・寄稿をしていたかつての友人の死の知らせが。
真相を究明すべく調査に乗り出す主人公の身に危険が迫る。。。
中国からの汚染食品が社会問題になっている今、タイムリーな小説。 -
小役人シリーズと呼ばれてるとか。
これまたテーマが食品汚染と難しいが、物語の巧さについのめりこませる作品。
食品汚染の話かと思ってたら、次々に次へのテーマへと移り変わる。途中too muchな情報で、展開についていけないところもあるが、全体としてみると関係ない。
結局のところ、罪滅ぼしとしてやってたことは 友情なんだと思う。 -
江戸川乱歩賞受賞のミステリ。
小役人シリーズ第1作。
これは掛け値無しに面白い。
チェルノブイリで汚染された食物が
三角貿易(や、密輸)により日本へ・・・。
おっそろし〜。
398ページとは思えないくらいの内容。 -
新保裕一デビュー作。読んでからしばし牛丼食うのが恐かった記憶がある