- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061960084
作品紹介・あらすじ
妻の情事をきっかけに、家庭の崩壊は始まった。たて直しを計る健気な夫は、なす術もなく悲喜劇を繰り返し、次第に自己を喪失する。不気味に音もなく解けて行く家庭の絆。現実に潜む危うさの暗示。時代を超え現代に迫る問題作、「抱擁家族」とは何か。<谷崎潤一郎賞受賞作品>
感想・レビュー・書評
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『アメリカンスクール』の煮詰まった文体から力が抜け、以降小島信夫の作品を彩るのはのらりくらりと抽象的でどこか滑稽な語り口。
転換点とも言える本作の、シリアスな内容なのに笑えてしまうギャップが最高に面白い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
フェミニズムやジェンダーに興味があった頃に、なにかの本で紹介されていて購入した本。
H31.4.30再読。
平成最後に読み終えた本となった。
もう、早く読み終わりたくて仕方がなかった。
文章自体は読み易いので、すぐ読了できたけれども、読んでいて始終苦痛だった。
奇妙で不愉快。
当時まだ主流であった(今だってまだまだ拭い去れない)「家父長制」の崩落が描かれているように感じた。
崩れゆく「家族の形」とか「絆」のハリボテを躍起になって支えている或る家族、という印象。
各々役割を演じながら、そんな自分や家族を相対的に観察して、修正を施そうとしてもどうにも上手くいかない。
綻びは広がり続け、ついには決壊してしまう。
家は欠陥だらけ、妻の病気は進行して死に至り、狂っていく主人公、出て行く息子、噛み合わない歯車があったことで全てが狂ったのか、あるいは全ての歯車がそもそも微妙にズレていたのか。
「主婦」という部品を求めて早急に再婚相手を探す俊介や子供達が恐ろしかった。
いちいち煽るようなみちよも怖い。
こんな複雑な感情を喚び起こす、奇妙な読書体験を提供してくれる本はそうない。 -
戦後の空気が色濃い日本のある家族。
アメリカ人と関係を持ちながらも悪びれることもなく、ただただ唯我独尊であり続ける妻。
なんやかや葛藤しながらも、それを受容し続ける夫。
勝手気ままに振る舞う息子と娘。
そして、クセの強い家政婦。
脆いような、実は意外にタフなような家族の関係。
これも一つの家族の形か。 -
家に出入りする米軍士官への嫉妬から
家族は仲良くあらねばならないという理想を引っ張り出して
妻を拘束しようとする夫の話
しかし所詮それはプライドを守ろうとする行為でしかなかった
ゆえに道化にはなりきれず、お大臣の夢を語るでもなく
なにより敗戦国の美徳観念が抑制をかけるのか
何をやってもかっこつけに見えて
妻のみならず、みんなに馬鹿にされてしまう
ところがその妻も
米軍士官の誘惑を受けた負い目があるのか
あるいは貞節を傷つけられた恥の意識に苛まれてか
どうもヒステリーで支離滅裂になっており
そのことが小説を悪文に見せてわかりにくくすらしているのだった
それでも家長の威厳を保つため、主人公は
家をポストモダンに新築するが
まもなく癌で妻が死に
新しい結婚相手を探すうち
要するにわれわれは自由主義と封建主義のダブスタで生きてるのだ
進歩的とはそういうことだ
そうわかってきて、生前の妻の偉大さが身にしみると
家政婦の誘惑も目に入らないのだった -
妻の浮気から少しずつ家庭が崩壊していく、不気味な小説。はじめは妻のわがままさが目につくが、徐々に、夫の俊介が狂っていることに気付く。何を考えているのか分からず、行動が読めない。
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読んでいてこんなに不愉快になる本はないかもしれない。感情と行動がちぐはぐで、それは周りとのコミュニケーションも同様、噛み合わない。
人生なんてこんなものかも。他人からみたら滑稽なのだ。
この不愉快さはリアルだ。 -
3度目か4度目の再読、は再読とは言わないか。
何度読んでも少しも減らない、この凄さと面白さはなんだ。
読んでいる時間は自分の時間なのに、
その流れも変えてしまうような不思議な時間感覚が生まれる。
小島信夫は天才なの? -
代表作ではあるけれど、ブラックな滑稽さを含んだ奇妙な空間や関係を描き出す初期と、類をみない破茶滅茶で自由な文体で文学史に残る後期の仕事に比べると、過渡期的な中途半端さがあって、他の筆者の作品ほど面白くは感じなかった。
家庭内の不和が延々と続く様を描いているけれども、その内容は他の有体の私小説とは全く異質で、人間対人間の間で常に起きているコミュニケーションの不通が一切の物語的な装飾がなく描写されていて、一読しただけでは何について話しているのか、それが会話になっているのかさえ分からなくなるような感覚を覚える。そもそも、主人公の感情の種類や動き方が全く不明だ(おそらく筆者もよくわかっていないというか噛み砕いて安易な解釈やカテゴリに入れないまま物事を書いているんだと思う)。吉本隆明か誰かが、小島信夫という人間は実生活では人が嫌な気分になるようなこと、普通だったら言わないまま心に秘めておくことをあけすけに本人の前で言い出すような社会不適合な人間だと評していたけれど、それがそのまま執筆の時の態度にも向かっているような感じがする。 -
ものすごく奇妙な文体。妻の不貞がきっかけで…というプロットは濱口竜介っぽくもある。易しい言葉遣いでするする読めるのに意味がわからない。登場人物の思考回路はまったく予想がつかずあれよあれよと別人のように豹変していく。いきなり時間軸が飛んだりするので余計に厄介。