村の家・おじさんの話・歌のわかれ (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061962651

作品紹介・あらすじ

一九三四年五月、中野重治転向、即日出所。志を貫き筆を折れという純朴な昔気質の老いた父親と、書くことにより"転向"を引受け闘いぬくと自らに誓い課す息子。その対立をとおし、転向の内的過程を強く深く追究した「村の家」をはじめ、四高時代の鬱屈した青春を描き、抒情と訣別し変革への道を暗示した三部作「歌のわかれ」、ほかに「春さきの風」などを収録。

感想・レビュー・書評

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  • いわゆるプロレタリア文学と『梨の花』風の小さな男の子の視点で見た世界小説が入り混じった短編集。いきなりこの本から中野重治を読んだら混乱しそう。

    よかったのは「村の家」。収録作品の中で最も世界が生き生きしている(お父さんとお母さんの造形がよい)。お父さんの言葉を受け止めつつも、従いはしない息子のうつむいた横顔。

    「歌のわかれ」は一番長いが一番平板な印象。登場人物が多いのに区別がつかないのは、わざとそのように書いたんだろうか?若者のひとつの季節の終わりの話。

  • 昭和の初めの精神史とも言える作品群だ。転向をテーマとした名高い「村の家」、主人公勉次にペンを捨てるように迫る父と拒絶する勉次、作者中野重治の矜持が垣間見える。また、「歌のわかれ」は金沢の旧制高校生の鬱屈した青春が書かれている。中野重治の青春そのものであり、抒情性豊かな名品だと思う。

  • プロレタリア時代の作品、転向後の作品、それぞれのタイミングで、なぜ作者が「それ」を書いたのか、というところをいろいろ考えさせられる。
    私小説風の作品が多いのですが、中でも作者の転向と密接に繋がっている「村の家」が一番ヘビーに響いてきます。
    「歌のわかれ」は巻末でも案内されていましたが、様々な事情により微妙にぼかして書いてある部分があるため、断片的であったり理解が追いつかない部分があったりします。さらにこの作家の他作品や周辺の事情を勉強すると深い読み込みができるんだろうなぁ、とぼんやりとですが感じました。

  • 「村の家」は、私の理解力の不足と、時代背景等の知識の不足とがあるせいか、そもそもどのような物語なのかが十分把握できない。当時の読者にはすぐにそれとわかるような話なのであろうか?特に獄中の主人公の転向に至る心理の動きが重要なはずなのに、それがわからなかった。弁護士が主人公に言った内容などもそれがクリティカルな内容のはずなのだが、用語や単語の意味する内容がつかめなかった。だから、小説として感想が言える前段階で、正直どういう話なのかがわからない。最後に父の長い台詞があってようやく話が前に進んだ気がした。巻末の解説もやや抽象論になっている。
    「歌のわかれ」の方が、何が書いてあるのかはわかる。昔の作家の自伝的な青春小説で、旧制高校と旧帝大を舞台にしていて、古い金沢と関東大震災直後の本郷の様子が描いてあるのは良かった。が、ひとつひとつの場面が断片的すぎないだろうか。タイトル通り「歌(と)のわかれ」の場面に至るまで、順々にそうなったというよりは唐突な感じがある。エッセイに近いようにも思う。全体にまとまりに欠けてしまっているような感覚だった。
    いっそ「春さきの風」のような短い作品の方が、知識不足でわからないながらも、読者に与えんとしている感傷や苦しさはよりストレートに伝わってくるように思った。

  • 室生にはごむの丹の芽もつのぐみぬとにもかくにもなりなむと思ふ
    まかなしく吹かれてを居る夜の風に蛍ひかりて流さるはげしく

  •  何より注目なのは、共産党の運動から撤退する事を誓って転向、田舎の実家に帰ってきた主人公の作家、勉次に対して、転向したのなら筆を折れと迫る父・孫蔵との総論が有名な『村の家』。しかし、ここで述べられる「転向」とは、何なのだろうか。
     転向?それに該当する英語が存在しないその表現。かつて、本多秋五がそれを輸入思想の日本国文化の過程に生じる軋りとして解釈し、吉本隆明はそれを日本の近代社会の構造を総体のビジョンとして捕まえそこなった為に生じた思考変換と呼んでいる。そしてそれを単純な言葉で表せば、何かの理想を捨て去った人間の事を射すのだろう。いずれにせよ、忠義や信念というものを好んで用いる日本に置いて、決して良いイメージで用いられるものではない。
     何より印象的なのが、父、孫蔵に散々と言われた上で、たった一言だけ勉次が述べる「よくわかりますが、やはり書いて行きたいと思います」の科白。批判や軽蔑の視線も含めた上で、それでも経験したものにしか、出てこない言葉というものもある。自らの弱さに気が付いた者にしか、見えてこない景色というものがある。とにかく、響いた。僕のように、何かを貫き続ける事が出来なかった人間にとっては、特に、ね。

  • かならず集まる場所。それが家。家族のことをグダグダいうのが物語でもかまわない。わりと昔に読んだが、当てはまりきらない、昔の田舎の家族風景に、自身の親子関係を考えたりした。合掌。

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著者プロフィール

中野重治

一九〇二(明治三五)年、福井県生まれ。小説家、評論家、詩人。第四高等学校を経て東京帝国大学独文科卒業。在学中に堀辰雄、窪川鶴次郎らと詩誌『驢馬』を創刊。日本プロレタリア芸術連盟やナップに参加。三一年日本共産党に入党するが、のちに転向。小説「村の家」「歌のわかれ」「空想家とシナリオ」を発表。戦後、新日本文学会を結成。四五年に再入党し、四七年から五〇年、参議院議員として活動。六四年に党の方針と対立して除名された。七九(昭和五四)年没。主な作品に『むらぎも』(毎日出版文化賞)、『梨の花』(読売文学賞)、『甲乙丙丁』(野間文芸賞)、『中野重治詩集』などのほかに、『定本中野重治全集』(全二八巻)がある。

「2021年 『歌のわかれ・五勺の酒』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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