上海,ミッシェルの口紅: 林京子中国小説集 (講談社文芸文庫 はA 4)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061982437

作品紹介・あらすじ

戦争の影迫る上海の街で、四人姉妹の三番目の「私」は中国の風俗と生活の中で、思春期の扉をあけ成長してゆく。鮮烈な記憶をたどる七篇の連作小説「ミッシェルの口紅」と、戦後三十六年ぶりに中国を再訪した旅行の記「上海」。長崎で被爆して「原爆」の語り部となる決意をした著者が幼時を過ごしたもう一つの林京子の文学の原点中国。

感想・レビュー・書評

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  • 『上海』も『ミッシェルの口紅』も、どちらも著者の幼少時、上海在住時代の想い出を小説仕立てで描いた作品です。『上海』の方は、引き上げてから三十数年、戦後になって初めて著者が上海を再訪する旅の記録です。単なる旅行会社のツアーに参加したので、自由に想い出をたどれる旅ではないですが、三十数年という時間、自由に見て回れないもどかしさ、旧上海と新中国の都市としての現在の上海の差、こういういくつもの差異が、著者の中でもどかしくも、適度の距離になっているような感じがします。『ミッシェル』の方は、完全に上海で暮らしていた当時のことを描いています。そこには、ごくごく一般的な日本人と中国人の交流が描かれていて、こういった人々の結びつきが戦争によって踏みにじられたかと思うと、やはり複雑な思いになります。

  • 林京子といえば原爆作家、というイメージがある。被爆体験を特権化しているとして批判も受けたという林だが、彼女の作品を悲劇の物語として受容してきた側の欲望もあったのではないか。この連作短編集を読んでそんな思いをもった。
    上海の日本租界に暮らした少女時代の思い出は、運河や長屋を包む匂いと音の暖かさとともに、他方ではテロリズムと官憲による監視がもたらす緊張との間で、調停できないままに引き裂かれている。
    とりわけ鮮烈なイメージを残すのは、イタリアが降伏した日、運河に横倒しになったかつて白い貴婦人のような客船の姿、そして、軍に護衛されて出かけた遠足の先で、婦人奉仕団の開墾地で、葬られることもなくさらされる骨である。
    終章が示唆するように、この死と暴力のイメージは、この少女がやがて長崎に帰郷して出会う原爆と切断されているのではなく地下水脈のようにつながっていた。そしてその後の著作が示すように、今もなお、ひそかに通底音をひびかせているのである。

  • 戦前の上海に住む日本人家庭の女の子の視点で見た日常の描写がとてもよく当時を伝えてくれる。大活字本シリーズ/埼玉福祉会 発行版を読了。

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著者プロフィール

作家

「2018年 『現代作家アーカイヴ3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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