- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061984820
作品紹介・あらすじ
激流によって分断された町の右岸と左岸。それをつなぐ唯一の異形の橋。かつての小川は氾濫をくり返し、川幅は百倍にもなり、唯一の橋は拡張に拡張を重ね、その全貌を把握できぬほどの複雑怪奇さを示す。そして右岸と左岸にはまったく気質の異なる人々が住む。この寓話的世界の不思議な住民たちの語る九つの物語。諧謔的かつ魔術的なリアリズムで現代の増殖する都市の構造を剔抉した読売文学賞受賞作。
感想・レビュー・書評
-
笙野頼子の解説にあるとおり、濁った激流にかかる「橋」が人格化したように存在感をもち、それに翻弄されるかのような住民たちをめぐる連作短篇。橋が意志をもっているかのような描写は、まさにカフカの「橋」を連想させます。
考えてみれば、伊井さんは『草のかんむり』でカフカ的な変身譚を書いていました。しかし、それは氏の作品の魅力が「カフカ的」という言葉で済ませられるということではなく、むしろ「~的」と形容すればするほど微妙かつ確実にズレているような気にさせるところに氏の魅力があるのです――と言ったとたん、また微妙かつ確実にズレているような気がしてくるのです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
激流によって二分された町、唯一架かる増殖する巨大な橋、左岸と右岸に分かれて住む市民。9つの短篇で描かれる町はどこかにありそうな町では決してない。この町は現実にある町のどのリアリティにも属さないのにもかかわらず、現実の町の全てに思い当たる部分を見出すことができる。変な頭を持つ一族、常軌を逸した恋愛譚、自己増殖のように膨らむ巨大な橋、広大で濁った激流。現実を寓話的に扱ったり、非現実的に描いて、逆にリアリティを獲得する作品は多くあるが、これはわざわざ捨て去ったリアリティをいったん再構築していながら、次元の違う現実感を得ていると思う。それは舞台の書き割りのようなセット世界ともいえるのだが、世界をそのようなものとして読み手に捉えさせているからこそ、変で歪んだ人間の言動が活きるのだといえる。この世界観は妙に妙にクセになりそうだ。
-
街を左右に分断する激流と、それをつなぐ改築に改築を重ねた異形の橋。それを取り巻く左岸と右岸の人々の物語。連作短編。
帯に「寓話的都市」とある通り、この街は現実の都市には似ていない。左岸と右岸にまたがる露骨な格差、文化の違い、想像を絶する大渋滞、役所の無能、ずさんな工事、利権がらみの政治、街に支配的な4つの姓から感じられる閉鎖性・・・。週刊誌をにぎわすようなありきたりな噂話の数々。
解説にある通り、現実に比べてこの小説に登場する世界は分かりやす過ぎる。ステレオタイプだ。
にも関わらずこの話は面白い。
この前読んだベルンハルトの『消去』で、芸術とは誇張だ、誇張こそが実存へ架橋する手段だ、という旨のことを書いてあった。
この小説では、街の特質も、人々の振る舞いも、現実世界を誇張したものだと言える。
でもこの小説の素晴らしいところは、それを誇張と全く感じさせないところ。それどころか、この街、この人々、すぐそこにあるような自然さがある。
激流とバケモノ橋というアンリアルな設定が、その周りの誇張を相対化してしまったかのようだ。あんなものがあるんだから、街がこうなるのも当然だ。という感じ。
よく考えたら随所に死者が出てきているけど、それも違和感がない。マジックリアリズムと言えるかもしれない。
格別面白いエピソードが転がっているわけではない(といってもラストの大逆流のカタルシスはなかなかのもの)。
でも、この街・人々が妙に愛おしくなる。不思議な読後感がある。
こう書いてしまうと凄くありきたりなのだが、私は文筆の徒でないのでこれが限界。
ぜひ一読して、この世界の魅力に触れてもらいたい一冊。 -
笑う、漫画のようでもある、立方体の中のような話。
一話ごとの長さがちょうどいい。角度がおもしろい。
装丁はあまりよろしくない。