はじまりの記憶

  • 講談社
3.13
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062097741

作品紹介・あらすじ

『犠牲』『「死の医学」への日記』のパートナーふたりが自らの原点を探るduoエッセイ。自己形成のはじまりの瞬間へ分け入り、記憶の深層に眠る情景を掘り起こす。

感想・レビュー・書評

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  • 柳田邦男氏が子息を亡くし茫然としていた頃、伊勢英子さん描いた絵本(宮沢賢治『風の又三郎』)を見て感銘を受け、自著の装幀・挿画の依頼が出会いの契機となった二人の不思議な邂逅。チェリストのパブロ・カザルスこだわりの地カタロニアに、自分の原画風景を探す旅に出た伊勢英子さんと、過去を見つめ直し自己形成の原点を探る柳田邦男氏との<duoエッセイ>は、人生のほろ苦く甘酸っぱさが心の奥に沁みわたる、入魂の12章24篇です。

  • ノンフィクション作家の柳田邦夫さんと、画家で絵本作家の伊勢英子さんが、テーマ毎に交互に文章を綴るエッセイ。

    柳田さんの文章はえんじ色、伊勢さんの文章は青色で印刷されていてなんとなくセンスが良い。さらに各話ごとに、ご自分で描かれた挿絵が添えられている。何より驚いたのは、柳田さんの絵が上手いこと。ノンフィクション作家で、医療や航空機などの難しそうな内容の本を書かれているので、優しくて繊細な植物画の挿絵を柳田さんが描いたものだとはしばらく信じられなかった。また逆に、伊勢さんの文章も細やかで美しかった。

    そしてお二人とも、過去の自分の原体験をつぶさに記憶していることにも驚いた。お二人が、多才で一流の才能の持ち主であることが、垣間見えた気がした。

    書き留めておきたい一説。
    "過去は現在の中にある。そして、すべての過去に意味がある。"

  • 柳田邦男さんと伊勢英子さんのエッセイ本。

    この本を読んで一番驚いたというのか、嬉しかったのが、柳田邦男さんが東大入学時の学長が矢内原忠雄だったということ。
    NHKの入社試験を受けるときに、「自分の大学の学長の尾プロフィールを800字以内で書け」という問題が出たときに、その当時の学長の名前がなかなか思い出せなかったと書いた後に、「経済学部の学生だった私には、入学時の学長だった無教会派クリスチャンの矢内原忠雄教諭の印象が強かった」(P86)と記していました。

    柳田邦男さんは矢内原忠雄の影響を受けているかもしれないと思うと、嬉しくなる。


    伊勢英子さんの父親と祖父のエピソードがよかった。
    進行癌で余命を宣告されていた父親は描いた油絵を印刷屋に預けて、刷り上がるのを楽しみにしていた。しかし、印刷屋の不注意でその原画が行方不明になった。伊勢さんは涙の抗議をしたけれど、父親はこう言ったそうだ。
    「名画は盗まれるものなんだヨ」(P165)
    そして、次の大作に取りかかったという。

    祖父が作った二人でもすっぽり入る乳母車に乗って、妹と散歩に行く時に、彼女達がちょっとでも危ないことをすると、「このたからもの!!」とどなったという。(P166)

    良くないことをしている子を注意するのに、「宝もの」と言って怒るところが不思議でならなかった、と伊勢さんは書いている。

    こんなエピソードに出逢える本です。

  • ノンフィクションライターの柳田邦男さんは伊勢英子さんの絵本に惹かれ自書の装丁を依頼してからおつきあいが始った。そんな二人がひとつのテーマで互いに文章も挿絵も描いたduoエッセイ。人間形成の原点を探ると人生も心も豊かになる、そして大事な体験を絵画的な情景で捉えてみればヴィヴィットに自己形成の原点に近づけるような気がする・・。壮大で真摯なトライアルだ。セピア色のインクは柳田さん。身近な花のイラストから誠実さが伝わる。伊勢さんはダークブルーのインクで含蓄の深い挿絵と文章。かなしみ・空・眠る・存在理由・自立等々、それぞれのエッセーがはじまりの記憶、いわば初源の自覚の局面を描き出す。

  • 自己の原点を見つめる二人のエッセーが、交互に掲載されている本。作家によってインクの色も二色に変化をつけていて、なかなか面白い。珍しいことに(失礼)柳田さんが説教っぽくない&伊勢さんが前向き気味な一冊。

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著者プロフィール

講談社ノンフィクション賞受賞作『ガン回廊の朝』(講談社文庫)

「2017年 『人の心に贈り物を残していく』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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