花腐し

著者 :
  • 講談社
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感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (150ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062103794

感想・レビュー・書評

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  • 20090815

  • 朝から曇りがちだったのだが、薄暗くなりかけた頃にとうとう降り出した。
    ただでさえものの影も自分の存在もあやふやになりがちな夕暮れ時だというのに、
    からだを湿らす雨は、そのほこりっぽい匂いはからだの芯にまでじわじわとしみこんできて
    忘れていた記憶や、追いやっていた過去や、押さえていた生々しさをじわじわと出現させる。


    降りしきる雨に濡れて歩きながら、彼は思い出す。
    ”どうして傘をさしているのに、こんなに濡れてしまうの?”
    そういいながら、彼の上着を畳において、タオルでとんとんとおさえて水気をとる彼女の姿。困った風でありながら、責めているのではない。まだ、甘やかな記憶。ずいぶんとむかしの。

    歩くという単純作業は、思考ばかりがとめどなくめぐる。景色をにじませ、音や色の気配を閉じ込める雨のときはなおさらだ。
    記憶は増幅し、連鎖し、囚われてしまう。

    真実はどうだったんだろう?どこから違ってしまったんだろう?
    愛した人を失い、共同経営者の友人に騙され、破産し・・・それでも生きることにしがみつこうとしていた。
    そんなことに意味があるのか??
    この男はなんだ?どうして俺にかまう?俺はお前をこのアパートから立ち退かせるために来ただけだ。

    新宿の高層ビルの影にある、猥雑な、吹き溜まりのような街の、さらに奥まったところにある古びたアパート。雨が降り続いている。部屋中に漂い、酒がまわったからだを侵食する茸の異臭。くすりだ。ほぼトランス状態の女とのセックス。生も性も混沌として、記憶に囚われた彼は居場所も思考もをあやふやになる。
    止まない雨は、人間の営みから排泄された諦めや吐息や、欲望の滓を寄せ集め、澱を作り、腐らせる。
    じめじめとした空気が茸を増殖させる。
    彼もまた、その部屋で菌糸にまみれて腐っていくのかもしれない・・。







  • 東大出身の大学教員の執筆。興味本位の人間にしてページを開かせるが、意外、本格的(風)な小説となっている。

    ディシプリンの存在消失が嘆かれて久しい中、さすがに研究者だけあって、文芸小説を一通り「通過」しているかのような筆致を見る。

    これならば、文体で読者を安心させることが出来る。

  • かなり昔に、図書館の一番下の段に倒れているのを発見して読みました。内容はあまり覚えていないのに、気持ち悪くなったことだけ覚えています。

  • 芥川賞受賞作品。表題作の他にもう1作品収録されてるけれど、どちらもさびれた歓楽街の描写が印象的。性描写が受け付けなかったのでランク低め。

  • 1つの文章の長さとそのくどさのせいで、登場人物にどうしようもない人間身をつけている。主人公は魅力的ではないが、リアルだし、筆者との距離感が取れていてよい。

  • なんだなんだ難解なだけのわけわからんあのおっさんはこんな普通の小説を書くのか、と思った。たぶん、この人はお話づくりは向いてないと思う。

  • こういうおっさんキライじゃない。遠くから見てるぶんには。

  • 「今下りてきたばかりの階段の最初の段にもう一度足を掛けた」は、体の芯からあつくなった。胸の中が締め付けられて、グッと歯を食いしばっちゃった。

  • フリダシニモドル・・・自分探し?巨大お化け?(芥川賞123回)

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著者プロフィール

1954年生れ。詩人、作家、評論家。
1988年に詩集『冬の本』で高見順賞、95年に評論『エッフェル塔試論』で吉田秀和賞、2000年に小説『花腐し』で芥川賞、05年に小説『半島』で読売文学賞を受賞するなど、縦横の活躍を続けている。
2012年3月まで、東京大学大学院総合文化研究科教授を務めた。

「2013年 『波打ち際に生きる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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