焔火

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 56
感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062174602

作品紹介・あらすじ

昭和初期、東北の寒村で貧しく暮らす主人公・鉄。村八分にされ、いじめぬかれた鉄は、迫害者たちを殺して逃亡する。流浪の日々の中で山の民、川の民、盲目の遊女、破戒僧らと出会う。自然の中で束の間の幸せを味わう鉄に、追っ手の魔の手が迫る-。生きるため、尊厳を守るため、闘いつづける鉄に明日はあるのか?第6回小説現代長編新人賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • とにかく描写が素晴らしい
    見事に五感を使って読んだ
    というか鉄の人生を体感したよう。
    あまりといえばあまりにも壮絶な展開
    鉄も含め、登場人物のほとんどが
    ここまで貶められるのか
    もう勘弁してやって~!と
    懇願するように読んだ。

    子供や病人、身体の不自由な人間に対して
    すさまじい差別がある一方
    あや子のように目が見えなくても
    「瞽女様」(本著で初めて知った)
    とあがめられる風習があったり
    この時代の日本のありように
    圧倒されるばかり。

    ラストのラストまでとにかく
    気の抜けない体力を使う物語だったけど
    ずっしりと読みごたえがあった。

  • 読み終えてとても疲れた。主人公の身の上に起こることが、激しすぎて素直に受入られない。再読はないでしょう。

  • 最近女性作家の作品を続けて読んでいたので、無性に男っぽい無骨な作品が読みたくなって手に取ったこの小説。
    結論から言うといささか男度が高すぎた(笑)

    吉村さんは二作目。
    前回読んだ「光る牙」が手に汗握る怒涛の展開で非常に楽しく読めた作品だっただけに期待大。

    今回の舞台は昭和初期の山間の東北の村が舞台。
    村八分の貧しい家庭に育った鉄が唯一心のよりどころとしているのが、やはり嫌われ者一家の娘、おミツ。
    そのおミツが村の若者の手によって命を奪われる所から物語は大きく動き出す。
    おミツの敵を討ち、村を離れる鉄。
    その後の逃亡生活は過酷以外の何ものでもなく、行く先行く先で小さな幸せを見つけてもすぐにはかなくも散ってしまう。
    鉄のその後の運命やいかに。

    ロードムービーさながらの、ハラハラドキドキ感満載な物語。
    悪くはないと思うけれど、繰り返される凄惨なシーンに気持ちが萎えてしまって、鉄の心情についていけなくなってしまった。
    クライマックスが多すぎて、全体的に単調と言う感も否めないし・・・。

    こう考えると、「光る牙」は同じようなハラハラドキドキ作品とは言え、断然完成度が高くなっているのが良く分かる。
    この作品がデビュー作と言うのを考えれば、文句なしにすごい!
    今後も追っていこうと思う。

    • tsuzraさん
      こんばんは。
      あまり知られていない作家さんの作品。
      私も怯みながら読みました。

      >いささか男度が高すぎた

      ホントに同感です。...
      こんばんは。
      あまり知られていない作家さんの作品。
      私も怯みながら読みました。

      >いささか男度が高すぎた

      ホントに同感です。縮み上がりました(^ ^);
      2014/02/03
    • vilureefさん
      tsuzraさん、こんにちは。

      コメントありがとうございます♪
      お!やはりtsuzraさんも読まれていたのですね。

      そうなんで...
      tsuzraさん、こんにちは。

      コメントありがとうございます♪
      お!やはりtsuzraさんも読まれていたのですね。

      そうなんですよね、私も大抵の描写は大丈夫なんですが、これはきつかったです。
      自衛隊出身の作者ならではかな?などとうがった見方をしてしまいました(^_^;)
      2014/02/04
  • 昭和初期の東北の寒村で虐げられながら生き抜く主人公・鉄の魂の旅を描いた傑作。迫力のある文章、凄味のある筆力に驚かされた。

    『光る牙』も凄い作品だったが、この作品も負けず劣らず。

    底辺で生きる鉄と山の民、川の民との束の間の幸せな暮らし、鉄に関わる人々の死。過酷な運命に翻弄される鉄の魂が彷徨う先にあるのは…

    生きることの厳しさがひしひしと伝わって来る。

  •  本作は第6回小説現代長編新人賞受賞作であり、選考委員である花村萬月・角田光代という両作家のコメントが本の帯に印刷して巻かれている。さらに帯の正面に太文字で描かれたセンセーショナルな言葉『生きることは殺すこと』。

     そもそもが書店で手にとったのは、新作の『光る牙』。日高を舞台に羆との対決を描いた山岳小説とのお触れだったので興味を引かれのだっがが、自衛隊出身の肉体派作家を売り物にしたこの新人作家がそもそもどうやって出てきたのかというところで、このデビュー作からしっかり読んでみようと思ったのだ。

     というわけで本書を紐解くと、「生きることは殺すこと」と能書きを与えるほどには、強烈なバイオレンスに彩られた作家ではなかったので、安心した。むしろ昭和初期の不条理なまでの貧困の中で、荒み切った人心が産み落とした差別や暴力の、むしろ被害者ですらある主人公が、社会というものから追われて、山から川と、東北の大自然のなかを、逃げゆく物語である。

     ゆく先々で、その時代や社会を象徴するが如き、一癖も二癖もある人物たちに邂逅しながら、主人公は純粋な人恋しさの中で信頼すべき人、守るべき弱者と手を取り合う。心のふれあいは、世界の最も深い底の闇の中で生まれ、沸き立つ。人間の命の渦潮を抱き込むが如き文体に、やられる、やられる。この作者ただものではない。

     大自然の中を逃走し、最後には活劇シーンと言ってもいいような山岳の死闘がクライマックスとして待ち受けるのであるが、全編に漂うものは暴力を軸にした戦いの物語ではなく、純粋な心に支配された若き主人公・鉄の、祈りの敬虔さと犠牲的な精神に裏打ちされた肉体の酷使が絞り出す、運命の導きにも似た神話的世界を旅する物語である。

     漂白と言った言葉の持つ透徹した厳しさを、この小説は徹頭徹尾貫いており、ストイックで簡潔な文体が、容赦なく、過酷も、愛も、紡ぎ出す。物語力というパワーを存分に感じさせる作者デビュー作。

     この極限の世界に導かれる読者は、いわば驚愕と感動を約束されたようなものである。

  • 主人公の暗黒にさしつづける一筋の光、これこそがこの物語の救いであり、魅力である。そしてそれには最後まで読むものを引っ張る力があった。
    ただし、最後の一山の前フリが『放火』なのはかなり疑問。ここを流さず納得させて欲しかった。

  • なんとも言えぬ凄みのある物語。辻褄の合わぬところもあるし、資料を羅列したのではないかと思える部分も目立つ。決して文章も上手いとは言えない。だが、荒削りな、底知れない激しさを感じた。

  • 主人公、鉄の過酷な運命にとにかく圧倒された。
    生まれ育った村での差別、いじめ、凄惨な仕打ち。
    人間が持っている闇の部分と憎しみが露にされた序盤、あまりのショックに読み続けられるか不安になったほど。

    村を出てからの鉄の生き方が力強い。
    日々仕事に打ち込むひたむきさと、重労働の後の達成感。
    仲間との連帯感。新しい世界が面白い。
    盲目の女性との出会い。こころの支え。祈りと安寧。
    それなのにまたも運命に翻弄され、人生が変わっていき鉄の人生から目が離せなくなってくる。
    残酷さを何度も味あわされる鉄が問う。
    なぜ生きる?
    生きるとは?
    極限まで打ちのめされた鉄の魂の言葉が心に刺さってくる。
    久しぶりにずしっと衝撃をうけた小説。
    凄惨な描写がとても辛かったけれど星4つでは足りない力作なので5つにした。

  • 畑で読み始めたら止まらなくなって一気読み。仕事にならなかった。

    帯のコピー「生きるとは殺すこと」というのは単純化しすぎだが、主人公が野生動物のように生き抜いていく物語に圧倒された。

    甘っちょろい今の日本人に、そして自分に、この生き様を叩きつけたい。ふわふわしたこと言ってんじゃねーぞと、思う。読み終わって1分ほど、自分がどこにいるのか分からなくなった。

  • 村八分でいじめ抜かれた男の復讐から始まる愛憎劇。あまりにも凄絶な運命に翻弄される男の描かれ方は秀逸なのですが、その結末は淡白すぎて残念。

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著者プロフィール

吉村龍一(よしむら りゅういち)1967年、山形県南陽市出身。高校卒業後自衛隊に入隊し、陸上自衛隊施設科隊員として勤務。除隊後、近畿大学豊岡短期大学卒業。2011年、「焔火」にて、第6回小説現代長編新人賞を受賞してデビュー。単行本として刊行された。2013年、第2作目『光る牙』を刊行、同作は第16回大藪春彦賞候補作となる。そのほかの著書に『旅のおわりは』(集英社文庫)がある。

「2017年 『隠された牙 森林保護官 樋口孝也の事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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