- Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062185684
作品紹介・あらすじ
大好きなことを仕事に出来たら、どんなにいいだろう。
みなさんの中にも、そんな憧れを抱いている人がきっといると思います。
私も、そんなひとりでした。
子どもの頃から、たくさんの物語を夢中で読んできました。いつかこんな物語を、自分でも描けるようになりたい。どうしたらそれが出来るようになるのかもわからないまま、手探りで道を探していたのです。(本文「はじめに」より)
『獣の奏者』、「守り人」シリーズなど、ベストセラーを生みつづける作家・上橋菜穂子による、読書する喜びと自身の体験、そして物語を書くことについての、初めての語りおろし。
感想・レビュー・書評
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『守り人』シリーズや『鹿の王』の著者、上橋菜穂子さんが、自身の創造する物語の原点について語る。荻原規子さんの『ファンタジーのDNA』を読んだ後、無性に読みたくなって再読した。
本書は上橋さんのインタビューをライターが構成し文章にしているので、まるで本人が語り掛けてくれているような近しさを感じる。
以前に出演された番組を拝見し、好奇心旺盛で少女のようにかわいらしい方だな、と思ったが、本書を読んでいると、目を輝かせながら話す上橋さんが思い浮かぶようである。
上橋さんの著作は、国や部族といった共同体の論理の中でもがきながら最善の道を進もうとする個人の視点と、人間も含めあらゆる生き物がかたちづくる世界を俯瞰的に見る視点が交差しながら一つの物語を織りなしていくところが大きな特徴であり、魅力であると私は思っている。
このような壮大な物語を一体どのようにして紡ぎ出していくのか、ファンとしてはぜひとも知りたいところだが、本書はその要望を十分満足させてくれる内容となっている。
上橋さんのファンタジーの原点は、おばあちゃんが語ってくれた昔話にある。おばあちゃんはとてもお話の上手な方だったそうで、耳で聞きおぼえた土地の伝説や言い伝えをアレンジしながら豊かな表現で伝えてくれたことが、人間と動物の距離が近く、目に見えない不思議をリアルに描いた上橋作品につながっているのだな、と改めて感じた。
また、上橋さんといえば、独特の擬態語や言い回しが印象的だが、これもおばあちゃんの語り口の影響のようだ。
母方の田舎である野尻湖で過ごした夏休みの日々も上橋作品の原点の一つである。ナウマンゾウの発掘で有名なこの地ではるかな歴史の流れを感じたことが、作品における俯瞰的な視点につながっている。
文化人類学者と二足のわらじを履く上橋さんだが、小さいころからなりたかったのは物語作家で、物語を書くために何を勉強するか、というところからたどり着いたのが文化人類学だったという。研究者と作家、どちらも険しい道のりだが、研究が物語に奥行きを与え、物語を書くことで研究地域の人たちへの感受性が研ぎ澄まされて、その相乗効果が今の上橋さんの活躍に結びついているような気がする。
本書では、上橋作品の登場人物や数々のエピソードのきっかけとなった出来事が他にもたくさん語られている。上橋作品の成り立ちを読み解くことができる本書はファン必読である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
上橋菜穂子さんが作家になるまでの歩みをまとめた1冊。
「おばあちゃんとわたし」という子供の頃の上橋さん(めっさ可愛い)が登場するお話から始まるこの本は、上橋さんがとてもたくさんのものへの憧れを持っている人であること、臆病な自分を何とか奮い立たせて世界を広げてきたことを教えてくれる。
どのエピソードもキラキラと輝いていた。
上橋さんは「靴ふきマットの上でもそもそしているな!」と自分自身に活を入れるそうなのだけど、実際に靴ふきマットの外に飛び出すのにどれほどの勇気が必要なのか。
やはり臆病者の私には勇者にしか見えないのだった。
だからこの本を上橋菜穂子さんという1人の勇者の物語として私は読んでしまった。
あと、やはり広くて深い世界の物語として。
上橋さんの物語は私に世界の広さを教えてくれる。
自分と異なる他者の中にある世界の広さ。そして深さ。
あの物語がどこからやってきたのかの答えの一部がこの本の中にある。
あるんだけど、それだけじゃない。
この本にも世界が広がっている。
上橋さんは本当にすごい。やはり勇者にしか見えないのだった。 -
作者の「守り人」シリーズが大好きでこの本を手に取ってみました。
作者の生き方を通して、物語の舞台裏を垣間見ることができた。そんな本でした。 -
大好きな上橋さん自身の物語。
「どうやったら作家になれますか」という問いには、具体的な書き方の技術でなく、どんな人がどんな風に思って、どのようにして作家になったかという物語が一番の答えになる。
上橋さんの生き方を丁寧に紐解いていますが、ふいにエリンやバルサの欠片を見つけて嬉しくなりました。
私の好きな作家の方たちはよく、物語について、書かずにはいられない、と言います。
上橋さんもそんな、作家としての性の持ち主だったのでしょう。
ただ、そんな人たちがすべて作家になれるわけではなく、一歩踏み出す勇気が必要なんでしょうね。
私も祖母や祖父との幼い頃の思い出は何にも代えがたい宝物ですが、そんなことをふと思い出しました。
小さい頃に毎日母が寝る前に読んでくれた絵本のことも思い出します。
甘ったれの幸せな子どもで、このままじゃ作家になんて絶対なれないと思っていた上橋さんが、人に笑われても一心に努力する偉人たち(偉人伝)に励まされたり、同じものを見て人とは違う見方をするかだということに気付いたりするエピソードも印象的でした。
彼女の生い立ちを知ることで、どうしてあんな素敵な物語が生まれたかに触れることができて幸せです。
心に残る人生観も数多い。それにやはり、言葉が美しくていいですね。
著者をはじめ、この本を世に出してくれた方々に感謝です。 -
上橋さんの作品から滲み出る上橋さんの人柄が伝わってくる本でした。
自分を大事に育んでいる、コツコツと育てられて、同じことを作品にもしている、そんな印象でした。
2023.12.29
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「精霊の守り人」の作者、上橋菜穂子さんが語る、どうやって作品を生み出しているのかと、どうやって作家になったのか。
繰り返し尋ねられては断り続けてきた彼女がアンサーとして出した一冊。
研究者にもなれない、作家にもなれない、と涙が止まらなかった日々や、研究者としてオーストラリアをひたすらハンドルを握り走り続けた日々とその時の思いを、率直に語ってくれています。
「子どものころ、時を忘れて物語にのめりこんだように、私はいまも、物語を生きるように、自分の人生を生きているような気がします。」p171
簡単な道などない。一歩踏み出した先に、次の道が開ける。
「古くてあたらしい仕事」を読んだ時と似た読後感。その人が語る、仕事とは、生きがいとは。
「物語にしないと、とてもつたえきれないものを、人は、それぞれに抱えている。」
だから、私たちは物語を読み、自分自身の物語を生きている。
それぞれが抱えた物語を、大切にできる世の中であってほしい。そんなことを思った。 -
独特の世界観の物語を紡ぐ上橋菜穂子が、どのようにして作家になったのか、物語をどうやって紡ぐのかという、質問に対して答えるために、インタビューを受けて、ライターがまとめた本。
子供の頃の最初の思い出、祖母が語る話が原点であり、作家になりたいがどうやってなればいいのか自分も悩んでいたこと、また、そういう人に向け、巻末には自分が読んできた本が紹介されている。
作家を目指すために文化人類学の道に入り、作家になることを諦めていた頃、学者としても作家としても道が開けた話なんかは、いつの間にか読み手も、応援する気持ちになり、本当によかったと喜んでいる自分がいた。
強さへの憧れや、フィールドワークの話、古武術を習いにいったりなど、自分的には上橋菜穂子の意外な一面を知ることができた。それが守人シリーズのバルサに反映されているのだなと。彼女の描くファンタジーは、実際には、どこにも存在しない国、人なのだが、地に足がしっかり着いていて、共感する部分が多い理由も作家自身の生き様や考え方を知ると納得がいく。
アボリジニの子供が学校でカンニングが多い理由が、自分だけがいい点を取るのではなく、仲間にシェアして同じ点を取ったほうがいいという考えや、経験は大事だが、人と違うことをたくさんするのがいいというのではなくて、人と同じことをしていながら、違うものを感じ取ることが大切だという話が、とても印象に残った。 -
物語を書いてみたいと、作家になりたいと読書が好きな子供なら一度位は思ったことがあるのではないだろうか。
それでも読む側のままの人と、物語を生み出す人の違いってなんだろうと思ってた答えが、この本からおぼろげに見えてきた気がする。
自分の好きなこと、興味があることを突き詰めて行く強さ、一歩を踏み出す勇気。上橋さんは家でぬくぬくミルクティーを飲んでいたいタイプといいながら、毎回悩みながらも自分で自分を鼓舞して、温かい場所から抜け出し、自分を新たな場所へ運んでいる。
「経験は大切です。でも、べつに、人と違うことをたくさんしなければいけないということではなくて、むしろ、人と同じことをしていながらわ、そこに人とは違うものを感じ取ることの方が大切だと思います。」
どんな人間にも話したい思いや考えや物語が頭の中に詰まっていて、物語はそこにあるはず。ただ、「一言主」になり、自分の気持ちや興味があることを掘り下げられなければそこで終わってしまう。自分自身に興味をもち自分を理解した上で、周りのことに興味をもち広げていける人、そして最後までやり通す粘り強さがある人が、自分の頭の中にある物語を他の人が読める「本」という形にできるのだろう。
これから作家になろうとしてる人にも、なにか始めたいと思っている人にも、上橋さんが手を差し伸べて一緒に頑張りましょうと言ってくれているような本でした。
靴ふきマットの上でもそもそしていないで、自分で自分の背中を蹴っ飛ばして、一歩新しい場所に踏み出したくなります。 -
上橋菜穂子さんの作品の、一人一人の登場人物たちが、なぜあんなに生き生きと胸に迫るか、それがよくわかる。すべての人物が、上橋さんの分身だからだ。自分が行動して得た、喜び、悩み、痛み、苦しみ。それら一つ一つが登場人物となって立ち現れる。
何歳になっても、どんな状況になっても、現実から目を背けないで、自分の目で心で物を見る勇気をもらった。