泥だらけのカルテ 家族のもとに遺体を帰しつづける歯科医が見たものは? (世の中への扉)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (178ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062187770

作品紹介・あらすじ

岩手県釜石市の鵜住居地区。600人を超える犠牲者を出したこの地区で、現在も歯科を営む佐々木憲一郎さん(45)は、妻で看護士の孝子さん、5歳の女の子・まおちゃん、2歳の男の子・かずくんと暮らしています。
被災直後からプレハブの仮設診療所で地元の人たちの治療に当たった佐々木さんは、半壊した医院を再建しながら、だれもいなくなってしまった壊滅状態の町にとどまることを選択しました。それは、かろうじて助かった地域の人々の歯の治療とは別のもう一つの仕事、遺体を家族のもとに帰すという照合作業をつづけているからです。

津波は家屋など、人々の生活の痕跡すべてを奪い去ります。こうした場合、ある遺体の身元を特定しようとしたとき、DNA鑑定は役立ちません。亡くなる前のその人の髪の毛などを手に入れることが不可能なので、鑑定ができないのです。
一方、日本では歯科医にかかったことのない人はほとんどおらず、遺体の歯とカルテを比べて身元を判別する方法は、こうしたケースではいちばん確実です。日航ジャンボ機墜落事故でも、もっとも有効な方法として用いられました。

佐々木さんの医院では「うちの孫の身元確認してくださってありがとう」「うちのばあちゃんは、まだ、見つからねえんだ」といった会話が飛び交っています。

佐々木さんは言います。
「3年も経って、家族がまだ見つかってない人たちは、本当にどんな思いでいるんだろう、それはもう、想像に絶します……。あのとき妻がカルテの棚にガムテープを張っていなかったら、地域のみなさんの身元はいまもわからないままだったでしょう」
このセリフのとおり、妻の孝子さんが津波から逃げる前に守ったのは、患者さんの情報がつまったカルテの棚でした。そのカルテこそ、地元の人たちが、たいせつな家族の死を受け入れ、明日への一歩を踏み出すのに、大きく役立ったのです。

人々が気持ちに節目をつけられるよう、誰もが目を覆ってしまうような辛い作業をつづける佐々木さんを見て、地元の人たちは勇気をもらいました。そして、「もういちど、鵜住居地区の復興を」と立ち上がったのです。

ユネスコ世界遺産に推薦された釜石市で、ひとりの歯科医の信念が生み出した、感動のドキュメンタリー。

感想・レビュー・書評

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  • 図書館で、子供向けの棚に置いてあったので死の現実をさらけ出さず、包んで書かれているかと思っていたが違った。事実を事実として、描写されていた。

  • 法医学は知っていたが、歯科法医学という分野があるのを初めてしった。
    ちょっと前に読んだ「救命: 東日本大震災、医師たちの奮闘」にもデンタルチャートを使った遺体の身元調査がどれほど、亡くなった人たちの体を家族のもとに返すのに貢献したのかを知った。
    (本来、生きていくための治療が本業の現役歯科医師の方々がどんな思いで遺体に向き合ったかを思うと心が痛む)
    税・福祉の番号制度。こういうものを支援するために使えるといいのに・・・
    児童書だけで大人にも読みやすくてよかった。

  • 震災の被害を大きく受けた釜石市で、歯科医院を営む佐々木さんのお話。損傷が激しく、外見で身元がわからない遺体を、歯の情報をみて家族のもとに返し続けている。それは歯科医にしかできない仕事。
    一人、また一人と、ゆっくりではあるけれど不明者が減っていく背景にはこういう実態があるのだなぁと気づけてよかった。
    たまにはノンフィクションものも世界が広がっていい。

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著者プロフィール

1963年、京都市生まれ。ノンフィクション作家。主な著書に、『自動車保険の落とし穴』(朝日新書)、『家族のもとへ、あなたを帰す 東日本大震災犠牲者約1万9000名、歯科医師たちの身元究明』(WAVE出版)、『開成をつくった男、佐野鼎』(講談社)などがある。また、児童向けノンフィクションに、『柴犬マイちゃんへの手紙』、『泥だらけのカルテ』(ともに講談社)がある。なお、『示談交渉人裏ファイル』(共著、角川文庫)はTBS系でドラマシリーズ化、『巻子の言霊 愛と命を紡いだ、ある夫婦の物語』(講談社)はNHKでドラマ化された。ウェブ記事「交通事故で息子が寝たきりに――介護を続ける親の苦悩と、『親なき後』への不安」で「PEPジャーナリズム大賞」2022特別賞受賞。
公式HP https://www.mika-y.com/

「2022年 『コレラを防いだ男 関寛斎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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