- Amazon.co.jp ・本 (146ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062193931
感想・レビュー・書評
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「昭洋は永遠の読者たることを宿命づけられていた。(中略) むしろ読めば読むほど、あたかも砂漠の逃げ水のように、書くことは昭洋から遠ざかってゆくのだった。」
「すなわち、詩が書けないということさえ度外視するならば、昭洋は宿命的に詩人だった。」
詩人四元氏の初小説。
面白い!
現代詩人の小説というと小難しくなりそうだけれど、詩から切り離してきっちり小説の文章で小説の物語が綴られているのだから恐れ入る。
「文学少年/少女」の何割かは確実にこじらせたことのあるだろう中原中也にのめり込む十代の主人公の姿は身に覚えがあり過ぎて、もうやめて!と悲鳴をあげたくなるのだけど、そこから加速していく物語がとても面白い。
こよなく詩を愛しているのに、主人公は性格というか性質上、詩を書くことが出来ないのだ。
また、物語に絡めて語られる古代からの詩、そして現代詩の状況は、こちらはやはり実際に現代詩人であるから語れることで、一石二鳥感がある。
ラスト付近、主人公について評論家が意見を述べる場面がとてもいい。
ただ、結末が尻すぼみになってしまった感があって、それだけが残念。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
昨年読みそびれていたものを手に取った。
文芸が好き、翻訳が好き、できればその道に進みたい…という方面のみなさまには、全方位から「あ痛たたっ!」という攻撃を仕掛けられている感触のする作品だと思う。好きなものから離れられない(まあ、離れる必要があるわけではないが)、でもその道に進むには才能に乏しい。あきらめて何年も経ち、出かけた土地で出会った作品があるとき口からこぼれてしまったときの賞賛を受けて、小さな嘘が交じる。また称賛される。新たな「作品」を追加投入、称賛…のスパイラル。
念のため言っておくと、道徳の教科書的に読む作品では決してない。そうとはいえ、創作における「禁じ手」をめぐる人間の心理と行動を描いた作品であるし、クリエイティブな活動の基盤を持っている人がそれを自覚してやるぶんにはその代償も大きいのはある程度はしょうがないのかなあと思うけれど、これと同じことはネット上で結構目にする。しかもそっちのほうが多くの称賛を受けているという点も変わらない。世の中は引用に満ちているのは経験上わかっているものの、そこは何というか、目をつぶれるものとつぶれないものがある。偶然の一致とは考えられないものが自分とは別の方向から飛んでくると、結構びっくりしますよ。
知性がすみずみにまで行きとどいた華麗な筆致と、主人公が最初にハマる作家がナイーブさ全開の中原中也ということから、森見登美彦氏が描くところの「太宰治に心酔する腐れ大学生」のような人物を中心に据えた、笑いの勝った面白悲しいストーリーなのだろうとうっかり錯覚してしまったが、面白悲しさはあるものの、そういうおかしみとは離れた、シビアな面を直球勝負で見せつけられる作品だった。仕事・趣味にかかわらず、素材をネットのコピペで済ませりゃよいとほぼすべてにわたって思ってる人、ちょっと読んでから来るように。なにも取って食ったりはしないから。 -
独創と模倣の線引きはまことに難しい。