- Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062210225
作品紹介・あらすじ
留学中に自分の国が消えて帰れなくなってしまった女性Hirukoは、独自の言語を作り出し、ヨーロッパ大陸で何とか生活しようと奮闘していた。Hirukoはテレビ番組に出演したことがきっかけで、言語学を研究する青年クヌートと出会い、自分と同じ母語を話す者を探す旅に出る――。
感想・レビュー・書評
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楽しかった一冊。
留学中に母国が消滅し帰る場所を失った女性Hirukoが自分と同じ母語を話す人を見つける旅に出る物語。
多和田さんの創る世界と言葉の操りと遊びが面白かった。
親に縛られる関係、ジェンダー等の現実的なテーマといい、近未来いつ起こり得てもおかしくない迫害による国の消滅を感じさせるテーマも何気に心を掴まれる。
誰もがこの地球にちりばめられている大切な一人であること、地球に散りばめられた自分に必要な要素を日々拾いながら自分を創り上げていくこと…タイトルからそんな想像が膨らむ煌めきの時間が楽しかった。
2022年〆本。
今年もたくさん良書との出会いをありがとうございました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
国、民族、言語、性…どれも境界がある物。でも、その境界は、これからどんどん溶け出してしまうのかな。
『アイデンティティが人を殺す』で気づいた、複数の帰属先を持つことの意義。それが薄らいで、それが懐かしいと思える時代が来るのかな。
そんなことを思わせたこの小説の著者、多和田葉子さんはドイツに拠点を構える作家。境界を考えるには、やっぱりアメリカよりヨーロッパなのかな。
この小説を読んで、いろいろな思いが頭を駆け巡った。そして、その思いを文字にしようと思ったら、いつもと違う散文(駄散文?)になってしまった。これも、この本の持つ力のせいなのかな。 -
普段海外文学しか読まない自分に誰かオススメの日本人作家いない?と友人に聞いたところ、多和田葉子さんの名前があがった。
読んでみて、なるほど確かに海外文学好きな人に勧めるにはぴったりの日本人作家だと納得する一方で、まぎれもなくこれは日本文学だ、とも感じた。何をもって“日本文学”とするのか、特に自分の中で基準があるわけではない。ただなんとなく、BADHOP言うところの『内なるJ』というやつを文章の端々に感じるのかもしれない。とはいえ、それは全く悪い意味ではなく、むしろ自分にとって新鮮な感覚として味わえて嬉しかった。
こうの史代さんの漫画「ぼおるぺん古事記」には、イザナミ・イザナキの最初の子、水蛭子(ひるこ)が葦舟で流される際に釣竿を持たされる描写がある。これは、巡り巡って蛭子→ゑびす様として祀られることの示唆なのだと思う。この本のHirukoにおける唯一の武器は釣竿ではなく、パンスカという独自の言語だ。海の向こうからやってきた客人神は、様々な人間を巻き込みながら自分と同じ母語を話す者を探し続ける。。。貴種流離譚というか、あらすじ自体は神話めいている。けれど実際は異人種の若者たちによる青春群像劇で、読み味はとても爽やか。
全編にわたりパンチラインに満ちているので、最初のうちは感心していちいちメモをとっていたが、そのたび読書が止まるので途中からメモやめて読み進めるのに集中することにした。それくらいハッとするような文章が多い。
続編もある?といくつかの感想に書かれていたので、楽しみに待つことにします!
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多和田葉子さんは、ドイツ在住でドイツ語でも書いている方と記憶してます。書店の洋書売り場で働いていた頃に、なぜか日本人作家の中で、特にドイツ語...多和田葉子さんは、ドイツ在住でドイツ語でも書いている方と記憶してます。書店の洋書売り場で働いていた頃に、なぜか日本人作家の中で、特にドイツ語訳がたくさん出ていたので、気になって調べてみたことがありました。この記事を読み、この小説を読んでみようと思った。2019/05/18
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未来の架空の不思議な話。
ファンタジーのような、哲学のような…。
ちょっと読み慣れない文章で、多少流し読みしてしまったが
地球上の色々な人達が、国という概念から離れて、出会い繋がっていくのが面白かった。
言語、絵画(モネ)、原子力発電、などのキーワードももまた、ちりばめられている。
話が進んで行き、これからどうなる?というところで、唐突な感じで物語は終わる。
やっぱり、普段読む小説とは違う、食べたことのない料理のよう。
不思議な面白さだ。
特に、印象に残ったのは、留学中に自分の国(中国大陸とポリネシアの間に浮かぶ列島)が消えてしまって、帰る事の出来なくなったHirukoという女性だ。
覚えておきたいので、彼女の言葉の部分抜粋
<子供の頃は「不法滞在の外国人」と聞くと、遠い国の悪い人の話だと思っていた が、今は、自分自身がすぐにそうなってしまう。よく考えてみると地球人なのだから、地上に違法滞在するということはありえない。> -
友人からの頂き物。
読み終えて、この本を渡してくれる友人がいるのは幸せなことだなと思った。
あちこち渡り歩いて来た中で出会った人というのも、今作と重なるところがあってより嬉しい。
国がなくなったらしいHirukoが、移り行く先で人と出会い、出会った人もまた他の人と出会っていたりして、段々と共に行く人が増えながら旅をする。
そして割と唐突に終わる。
唐突なのだけど、充足した読後感だった。
一つ一つのエピソードがとても良く、私の中に降り積もっていく。
苦しいものも悲しいものも含まれているし、現実の大きな問題と結びついているもので単に心温まったで終われるような安易な作品では決してないのだけど、愛おしい。
繰り返し再読したい作品だった。 -
近未来かパラレルワールドなのか、いつのまにか日本という国が滅びて無くなってしまった世界。海外にいたものだけが生き残っている。はっきり日本という国名は使われず、鮨の国とか抽象的な感じ。物語はHirukoという日本人女性を中心に集まった人々が、彼女と同じ母語を話す人間を探す旅となっている。章ごとに語り手が代わるので、以下その順番で登場人物メモ。
○クヌート:言語学について研究しているデンマーク人青年。母国を失くしたひとたちにインタビューするテレビ番組で偶然Hirukoを見て興味を持ちコンタクトを取る。母親がやや毒母で、息子よりもエスキモーの学生の援助に熱を上げている。
○Hiruko:新潟出身。スウェーデン留学中に母国がなくなり、現在はデンマーク、オーデンセのメルヘンセンターで子供たちに紙芝居をみせる仕事をしている。オリジナルの言語「パンスカ(汎スカンジナビア)」を編み出す。母国語を話す人間を探しており、ドイツのトリアー、カールマルクス博物館で行われる「旨味フェスティバル」というイベントの主賓、テンゾという人物が同国人ではと思い、クヌートと共にトリアーに向かう。
○アカッシュ:ドイツに住むインド人男性…からの女性へのトランス。トリアーにやってきたHirukoとクヌートに出会い、クヌートに恋をする。二人を旨味フェスティバル会場へ案内する。
○ノラ:トリアーに住むドイツ人女性。旨味フェスティバルの企画者。ある日遺跡で怪我をしたテンゾを助け、そのまま一緒に暮らし恋人となる。しかしイベント直前にノルウェーのオスローへ行ったテンゾが戻らずイベントは中止に。テンゾに会いにやってきたHirukoたちと共に、オスロ―にテンゾを探しにむかう。
○テンゾ/ナヌーク:グリーンランド出身のエスキモー青年。デンマークの慈善家女性(クヌートの母)のおかげで学費援助を受けコペンハーゲンの大学に通っていたが、試験が終わり新学期がはじまるまでに軽い気持ちで旅行中、ドイツに行ってそのまま帰る気をなくしてしまう。見た目から日本人に間違われることが多いため、日本人のふりをしてテンゾと名乗り鮨レストランで働いたりしていた。旅の途中でノラと出会いそのままトリアーに居つく。しかしオスロ―でHirukoに会ったことで日本人ではないことがバレてしまったため、ノラにも正直に話す。自分の代わりに、人づてに聞いたSusanooという日本人らしき男がアルルにいることをHirukoに教える。
○Susanoo:福井出身。父親はロボット製作者で故郷PRセンターにロボットを卸していた。造船を勉強するためキール大学へ留学するも、バイトで鮨レストランで働くうちにそちらが本業となり、友人ヴォルフとレストランを開業、成功する。恋人がいたが、偶々闘牛場で出会ったアルルの女カルメンに恋してしまい彼女を追ってアルルへ。しかしカルメンとはあっさり破局し、そのまま今も現地の鮨レストランで働いている。かなりの高齢のはずだが見た目は若いまま、年齢不詳。言葉を失っていたが、Hirukoと出会ったことで失語症を直すためストックホルムへ向かう決意をする。
旅をしながらどんどん仲間が増えていくのが、なんかブレーメンの音楽隊みたいで楽しい。そして序盤の舞台がデンマークなのでやたらと出てくるラース・フォン・トリアー監督の名前。「Riget」って、邦題は「キングダム」ですよね。確かにあれを医療ドラマといっていいのかどうか(笑)日本に亡命してくるムーミンとかも笑っちゃう。とりあえず、このあと続編へ。