密やかな結晶 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062645690

感想・レビュー・書評

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  • 人々が少しずつモノに対する記憶をなくしてしまうある島での話。
    記憶をなくさない人々も一定数いて、主人公の友人R氏もその1人。その人を主人公は家に匿うんだけど。。
    不思議な話。
    ホロコーストを想起させる様な話だけれど、
    私は主人公に少し怖さを感じた。
    主人公はおそらくR氏の事を以前より好きだったのだろうけど、R氏には奥さんも子供もいて自分のものにはならない。
    だけれど、R氏を自宅に匿う事で、R氏が自分が居ないと生活できない状況にどんどんと追い込んでいく。
    状況は主人公が意図したものではないのだけれど、
    主人公が書いてる小説も自分の恋人をコントロールする話だったし、
    なんとなくこの状況自体が主人公の妄想の産物で、R氏を自分のモノにしたいが為のものなのでは?とか物語の本質と少し離れてるとは思うんだけど、私はそこに怖さを感じた。
    淡々と話が進んでいく所も怖い。最後はR氏だけが生き残る訳で。結局人をコントロールする事は本質的にはできないのかなと思う。

  • 『密やかな結晶』小川洋子さん著

    ----------ーーーーーー
    記憶狩りにより、日々“その物”と記憶が消されてしまう島に住む「わたし」のお話。
    ある日は鳥、またある日は写真、そして左脚…。島民はその物を物理的に処分するだけではなく、その物にまつわる記憶も消す。というか、“消えてしまう”。島民の中には記憶を失わない人もいるのだが、彼らは「秘密警察」の徹底的な捜索によってどこかへ連れ去られてしまう。小説家の「わたし」の編集者R氏もその一人。果たして彼、そして「わたし」は消滅が続く島でどうなってしまうのか…。
    ----------ーーーーーー

    この小説の “ものの消え方” は、とても切ないと思いました。物が物理的に消えてしまうだけでなく、その記憶も消えてしまうから。しかも、その物を自分で処分しなければならないので、悲しみで胸がぎゅっと締め付けられる思いでした。。
    特に、写真が消滅するシーンは苦しかったです。「写真を見ても何もよみがえらない。懐かしくもない。新しい心の空洞が燃やすことを求めている」と語る主人公の言葉に、切なさを感じない人はいるのでしょうか。

    この小説が出版されたのは1994年ですが、まわりの物が消滅していく様子や、隠れ家での閉塞した生活など、今のコロナ禍と通じるものがあり、恐ろしいくらい現実的でした。

    昨年度の「英国ブッカー国際賞」の最終候補にノミネートされた作品。英語版タイトルは “The Memory Police" ぜひ読んでみたいです。

  • ブッカー賞ノミネート作品だったことを知り、今さらながら今作を読んだ。小川洋子版ディストピア小説と呼びたくなるような作品。

  • 大人の、怖い童話。密やかに、確実に、消滅に向かって進んでゆく心と体。不思議な島の住民はそれを静かに受け入れている。記憶を消滅しない数少ない人達は、「記憶狩り」の手を逃れるため隠れ家に住み、希望を失わない。主人公が描く、劇中劇のような小説は、やがて彼女そのものとなる。
    ゆらゆらとゆらめきながら破滅してゆく自分を、美しい筆致で描く著者の文章に引き込まれた。ただ、この閉塞感は私の好みでは無い。

  • この小説が出たのが1994年、26年前。物語を襲った地震も、阪神、東北、熊本と3つの大震災が現実に起こってしまっている。島の閉塞感、失われて行くものに黙り込み、無かったように不満も言わずに暮らす人々の描写に、小川洋子さんは30年後の日本が見えていたのだろうか…。それ程、今の私たちを的確に写し出している。


    秘密警察という言葉が出てきて、ナチスを思い浮かべる前に、現代の監視社会を想像したのは私だけではないはず。そんな時代に突入してしまっているのだ。

    カズオ・イシグロのブッカー賞というのが頭にあって、ブッカー賞の翻訳部門候補という帯に惹かれて読み始めた。昔の本なのに…思ったが、この逃げようのない閉塞された世界は、世界共通の事なのか、日本に限った事なのか、再評価されている真意を知りたいなぁ…と感じた。

  • ずっと記憶を消失し続ける人と、ずっと記憶が残り続ける人との物語。

    おじいちゃん…。

  • なにかが生まれることよりも、なにかが消えていくことのほうが進んでいる世界。読んでいても常に虚無感が漂っていて、これほど漠然とした悲しい気持ちになりながら読むのもなかなかに辛い。

  • 忘れる事と、消滅と、どっちがいいんだろう。
    どっちがいいなんて、ないのかもしれないけれど。

    大切な記憶が、ある日突然に奪われてしまうのは悲しい。
    だけど、少しずつ失われて行く事で生まれる、ふとした瞬間の
    『懐かしさ』という感情の暖かさは何だろう。

    物のひとつひとつに宿った記憶は、その物以上に意味をもって
    いつまでも残るものだと思う。

    大切な筈なのに、移ろい易く、失くし易いもの。
    不確かで、秘められた強い光を持つもの。

    これから先、長く生きて、何かを落としていってしまうかも。

    だけど、ある日、確かにあったもの。
    なくしても何かに触れて
    ふとした瞬間に拾い上げる事ができるといいな。


    懐かしい
    冷たさと、湿度と、閉塞感。
    そこに感じる安堵感。
    その記憶を掬い上げた。

  • 消滅を繰り返す島。そこに住む小説家のわたしと、昔からの知り合いで何かとお世話をしてくれるおじいさん、担当編集者の男性の話。消滅のあと、人々はその物を認識することができなくなり、なにも感じなくなる。少数だが消滅に影響されず記憶を保てる者もいる。その記憶保持者をゲシュタポのように狩る秘密警察。まるでホロコーストのユダヤ人狩りのようだった。本が消滅したとき、街中で本を燃やしている様は禁書狩りのようであったし、隠れ家に住まう様子もまさにそれ。物語の冒頭から静かな世界だったが、消滅がすすむにつれてそれは増して、真冬の朝のような静けさになる。消滅したはずのものを集めている様は『薬指の標本』を思い出した。作中の別小説がもっとそれに近い。何かを失ってそれを忘れることと、はじめから何もなかったということの違いは何なのだろうか。作中である人物が、何かを感じることが大切なんだとしきりに訴える。「物語の記憶は、誰にも消せないわ」という叫びが印象的だった。それは作者の願いのようでいて、実は我々読者の気持ちの代弁なのかもしれない。

  • 淡々とした狂気というか、静寂な美と捉えるかは人それぞれだろう。思いの外時間がかかった。埃っぽい図書室とかで読みたかったな。演劇に向いてそうと思ったら既に作品化されてた

    ・何かを祈るなんて、久しぶりのことだった。
    ・「完全といえるかどうかは分らない。記憶はただ増えるだけじゃなくて、時間をかけながら移り変わってゆくからね。時には消えてゆくものだってある。でもそれは、君たちの身に降りかかってくる消滅とは、根本的に違う種類のものだけど」
    ・「ただの小さな紙切れかもしれないけど、この中には奥深いものが写し出されているんだ。光や風や空気や、撮っている人の愛情や喜びや、撮られている人のはにかみや微笑みがね。そういうものはいつまでも心に残しておかなくちゃいけない。そのために写真を撮ったんだからね」
    ・「それほど深刻で難しい考察じゃないんです。何かもっとさり気なくて、つつましくて、ありふれたものなんです。台所に置き去りにされた、誰かの食べ残しのショートケーキみたいな存在としての考察なんです」

  • 設定がファンタジー要素があったが、すぐに飲み込むことができ、最後まで飽きずに読めた。
    文章が語り口調なのを初めて読んだが、情景がすごく丁寧描かれているため想像しやすく、まるで映画を観ているかのような感覚だった。

  • ただひたすら消えていく、そして、かすかに何かが残る。空しさ、哀しさなどが、いつもの静かで美しい筆致で描かれた作品。

  • おじいさんの頼もしいてのひらをわたしも感じた気分になりました。
    次々に喪失していく世界、その喪失に慣れていく世界。
    理不尽さをも受け入れている世界。
    人間はこうやって、自分の力が及ばないものになにかを奪われても、それを受け入れて生きていく生き物なのかもしれない。
    喪失しない母親や、R氏も、けして幸せそうには見えない。
    一度喪失したものは、再び会えたとてその甘美さを楽しめない。

  • 設定としては王道なディストピア風なんだけど、そこで「消失」に焦点を当てて書くのが小川氏流って感じでしょうか。タイプライターの話怖いなあ、と思ったら本編も怖かった。自分を食べる蛸、みたいな読後感。

  • 読み始め...09.2.15
    読み終わり...09.4.25 

  • ひと、とは。
    どのような定義を持って構成されているものなのか。

  • 初読。タイトル通り密やかで静かな物語。解説は結末に上昇という語を使ってるけど、自分には上昇よりも沈殿していくような下方向の印象が強い。タイピストの物語と「わたし」は途中までは対称的でも、最終的には男に女が閉じ込められるという同一方向になった。身近な部分はひどく濃やかな描写がある一方で、漠然とした感じもあった。個人的には消滅のメカニズムや秘密警察についてのもう少し詳細な説明が欲しかった。

  • 小川洋子さんの小説は少し辛くて、不思議な読後感になる。
    あらすじを読んだ時は“消滅”をどのように描くのかわからなかったけれど、文体のなせる業なのか、見事に表現していたと思う。
    切ないラストもよかったと思います。

  • 童話のような世界観。静かな文体の中に温かさや切なさがあふれてる。
    挿入されるタイピストの話がだんだんと「わたし」にリンクしてくるところが奇妙でした。
    バッドエンドなんだろうなーと思って読んでいました。
    読了後は寂しい気持ちです。でも、後味が悪いわけではない。ただひたすら、じりじりと希望が奪われていく物語。

  • 小川洋子さんらしい美しい文章です。
    結局、何一つ解決しなかったので少し悶々とした感情が残ります。
    作品中のもうひとつの物語も魅力的です。

  • この人の世界観は魅力的だけど、どっちかというと短編の方が秀逸だと思う。

  • 「記憶はただ増えるだけじゃなくて、時間をかけながら移り変わってゆくからね。時には消えてゆくものだってある」

  • 少しづつ何かが消滅していく島の物語。
    なぜ、消えるのか?
    秘密警察の目的は何か?
    彼らに連れ去られた人びとは何処へ消えたのか?
    その流れに抗った女性も最後は存在が消えて、
    記憶を消さない人だけが遺された島。
    これから先はどうなるのか?
    読了した今も疑問の結晶が心に残る。
    そんな感じでした。

  • 文章表現がとても綺麗。一文一文の描写から目が離せない作品だった。記憶の消失が起きるのを淡々と受け入れていく様子が切なく、大切なことが消えてしまっても、それすらもわからない島の人たちを見ているのが辛い。私たちの生活の中のモノにひとつひとつに思い入れや意味があって、大切にしなければならないものなのだと感じた。

  • 2回読んだけど、2回とも苦しくなる。閉塞感の中にある濃さ。

  • 2012.11/16

  • まず文章がきれい、表現がきれい。内容は淡々と書かれているが、怖い話。 自分の中に空洞が広がっていく。最後に残るものは何なのか。

  • 小川さんの本、最近読んでいるけど、この人の本はなんだかぼんやりしている。
    最後まで明かされない謎みたい。
    なぜものがどんどん消えてしまうのか、とか。
    R氏を匿うために隠し部屋を作るとこ、秘密警察がきてドキドキするとこがよかった。

  • 静かなお話だけれど、
    どきどきしながらページをめくりました。

  • もの、というか固有名詞のチョイス、羅列、そしてそれの形容が美しい。

著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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