- Amazon.co.jp ・本 (428ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062649919
感想・レビュー・書評
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(上巻から続く)不比等の運が開かれるきっかけは草壁皇太子の近臣に就けたことにある。彼の学識がものを言ったのだ。それはのちに権力を手中にすることになる鵜野讚良皇后(持統天皇)に接近できることを意味する。不比等のたくみな人心掌握術によって皇后の寵愛を受けることに成功すると、彼女のためにその卓越した能力を発揮していく。まず皇后の孫・軽皇子(文武天皇)を皇位に就ける政界工作に成功すると、軽皇子からも信頼を勝ち取り、皇子に娘を入内させることにも成功。文武帝が若くして崩御すると、文武の子・首皇子(聖武天皇)を成人後に即位させるために、文武の母・阿倍皇女(元明天皇)を擁立する。そして首皇子にも娘・光明子を入内させるのである。
まさに抜け目のない男・不比等。権力をほしいままにできる環境づくりに余念がない。もちろん単に権力の亡者としての側面だけではなく、律令国家の実現のために大宝律令の完成にも尽力していることも触れているし、これまでのこわもての印象を変えてくれる"人間・不比等"として描かれている。彼の出自について"ある噂"があることは古代史好きならご存知のはず。彼はそのことに悩みつつ、それを逆用して栄達の足がかりにしていくところが見所だ。古代の巨人のサクセス・ストーリーがここにあった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
不比等は、能吏として律令体制を整備するとともに、人妻であった県犬養三千代を手に入れ、鴨姫との間の娘、宮子を軽皇子(文武天皇)に嫁がせ、その子(不比等にとっては孫)首皇子を皇太子とすることに成功するが、知恵者として嫌みなく描かれているので、サクセスストーリーとしてすっと読める。ラストは、病弱な首皇子の身を案じて平城京への遷都を強行するなど、心に不安を抱えたまま亡くなってしまう。不比等は、権力闘争を通じて権力の脆さを熟知していたが故に、権力の座に上り詰めた途端、不安に駆られてしまったのだろうか。物語は不比等の死であっけなく幕切れとなって残念。ここからが、聖武天皇、光明子、孝謙天皇へと続く波瀾万丈のストーリーで盛り上がるところ、と思うのだが。
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飛鳥
藤原不比等