私の好きな悪い癖 (講談社文庫)

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  • 講談社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062738972

感想・レビュー・書評

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  • 昭和2年に生まれた著者の書籍で既読のものは、『羆嵐』のみだった。本書は、表題が気になり購入したが、『羆嵐』の著者と意識はしていなかった。
    この随筆では、子供時代から順をおって、印象に残る出来事が綴られていく。ご自身の体調のことや、小説創作のために訪れた取材先での出来事や、戦時中の話など、縦横無尽である。最後に掲載されている講演を収録したものも、興味深い。「尾崎放哉と小豆島」というテーマで語られる。いつか現地に行ってみたくなった。
    本書は、寝る前のひとときの楽しみで、毎日少しずつ読み進めた作品。

  • 初めて随筆読んだが、よかった。
    吉村昭の作品はどれも描写が圧倒的な量の事実を淡々と述べていくスタイルで、ものすごいなぁ、一体どんな人だったのだろうと思っていた。

    この本に書かれてて、短編も書くのは知らなかったし、人間としての一面を見ることができるため、ファンである私にとってはとても魅力的な一冊だった。

  • 『史実を歩く』とあわせて図書館で借りてきて、『史実を歩く』に続けて読んだ。

    「エッセイは、小説を書く私の素顔である」(p.240)という著者が、日常見聞きすることがらの中から「書くに足る」と感じた対象を書いたもので、こちらも、作品の舞台裏のような部分が大きかった。幼い頃の日暮里での暮らし、自身の小説作法から、取材の旅、そして心に残る人のことなどが書かれている。

    吉村昭の小説作品をひとつも読んでいない私は、以前から気になっていた『関東大震災』を買ってきて読んだ。この『私の好きな悪い癖』の「史実を究める」という章のなかでも、「『関東大震災』の証言者たち」として、かの大震災を生きのびた方たちの話を聞いたときのことが書きとめられている。

    吉村の両親は関東大震災を経験していて、夜の食卓でしばしばその思い出を口にしたという。その回想は、「自身の激烈さ、火災による大被害と同時にそれによって起った社会混乱」(p.107)であった。吉村は、自分の生れ育った東京の地において大震災がどのような実態であったのかを確かめてみたいと常々考えていて、それを記録小説として書くことにしたのだ。

    資料をあたり、証言を得ながら書き終えて、「大震災についてそれまで定説化されていたことが事実と相違しているのを知ったり、地震そのものについての知識を得たりして、私はその小説を書いてよかったと思った」(p.113)と吉村は綴っている。関東大震災について断片的なことは知っていたものの、私には未知だったことも多く、その甚大な被害についての記述を読みながら、阪神淡路大震災や東日本大震災のことを思った。

    同じ「史実を究める」の章の「文化の城─図書館」も印象にのこった。
    ▼小説の資料収集や現地踏査で、全国各地に旅をつづけてきた。
     私の旅は資料調査で、観光の要素は全くない。旅をすると、図書館に行って資料調べをし、それに関係のある地を歩いて、それで帰京する。私には、図書館がきわめて貴重な存在なのである。(p.141)

    吉村は、小説を書く自分が図書館をどれだけ頼りにしているかを書き、各地の図書館が年々充実してきていることに大きな喜びをおぼえているという。

    しかし、図書館行政への不満も述べる。一言でいえば「為政者の図書館に対する認識が欠如している節があること」(p.143)、つまり、「為政者にとって橋や道路の建設は選挙の票になるが、図書館の充実は票にむすびつかないらしい」(p.144)と。

    私は、月に一度駅で通信をくばる市議会議員が、市立図書館の人件費が高コストだとしきりに書いているのを思い出す。その議員は、保育所を民営化すればもっと低コストで運営できるという主張もしている。学校給食も、もっと低コストでできると書いている。人にかかる費用を「コスト」だと言いだすのは、そんな費用は安ければ安いほどいいのだという発想があるようで、私はその議員の通信をもらって読むたびに、もやもやとする。

    吉村がこの文章が載ったのは平成11年1月号の『図書館雑誌』で、それから十数年。近隣の図書館の事情や、図書館に向けられる評価のようなものを見聞きしていると、為政者のどうこうがあるにしても、文化の城はそこを守ろうという城下の人びとがいなければなーと思えてくる。

    『史実を歩く』同様、この本も、読んでいると、吉村昭がこうして取材した作品のほうを読んでみたくなるのだった。

    (5/26了)

  • 吉村昭のエッセイ。知らなかった記事が結構あり参考になった。

  • 古本で購入。
    吉村昭のエッセイ集。

    吉村昭作品のレビューで前にも書いたけど、淡々としているようで温かみのある文章が、氏の魅力のひとつ。
    本人が「エッセイとは人間を書くもの」と言うように、エッセイのメインは人間なわけです。
    それは歴史上の人物だったり友人だったり、旅で出会った人々だったり小料理屋の店主だったり。

    日々の些細な出来事や思いを書き綴ったエッセイが、微笑ましくていいです。

  • 2011.11.21(月)¥157。
    2011.11.23(水)。

  • 2004年5月17日購入。
    2009年5月15日読了。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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